第8話 ワイバーン

「わーお、ワイバーンって結構大きいのね」


 屋敷の近くに運ばれてきたワイバーンを見て、ホムラが感嘆の声を上げる。8メートル位だろうか、バスより小さいくらいだ。


「お!ボウズ、気になって見に来たのか?ビビって漏らすなよ?」


 ワイバーンを運んで来た者の1人だろう。屈強な肉体をしているため冒険者だと思われる男が言ってくる。モヒカンが凄く尖ってるのが気になる。


「大丈夫ですよ。初めて見る魔物に少々驚きはしていますが」


「て!もしかしてレーミング様の坊ちゃんじゃないでしょうか?」


 真面目そうな冒険者が聞いてくる。


 父は、少し離れて冒険者と話しているし、エルメティアは口元にハンカチを当てながらワイバーンをじっくり見ている。

 ぽつんと立っている自分は、魔物を見に来た街の子供に思われたのかもしれない。


 だが、冒険者の男はホムラの服装が街の子供の物とは違うと思い聞いたのだった。


「はい、ホムラ・レーミング。5歳です!どうぞよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて挨拶をする。


「マジかよ!ボウズとか言っちまった。申し訳ありません、ホムラ様」


「悪気があったわけじゃないんだ、許してもらえないでしょうか?」


 と冒険者達が頭を下げる。こちらは貴族、向こうがペコペコするのも当然かと思いつつもホムラは気にしない。


「良いんですよ!ボウズに変わりありませんし、父様も見てないんで」


 向こうにも悪気がないのはよくわかる。偉い人にペコペコするのは大変よなと思い、答える。


「ありがとうございます、ホムラ様」


「全く、気をつけろよ。ホムラ様がお優しい方だったから良かったものの」


 真面目冒険者がモヒカン冒険者の肩を叩く。なんとなくイタズラしたくなった。


「モヒカンの冒険家さん!貴族にビビって漏らしてないですか?」


「いやはや、これは一本取られた」


「冗談で返してくるとは、まだもっと年齢を重ねているかの様な対応ですな」


 と冒険者達は、笑いながらも感心するのだった。




「先生、魔物の匂いが苦手なんです?」


 エルメティアが先程からハンカチを鼻から口にかけて当てているので、聞いてみた。


「いえいえ、私も討伐に出ることがありますので慣れています。少し、鼻がムズムズしたものでして」


 と言いながらハンカチをポケットにしまっている。花粉症もこの世界にはあるのだろうか?ふと疑問に思った。杉の木があるのかもよくわからない。気が向いたら調べてみようかなと、直後には頭から離れるのだった。


「話しは済んだよ。ホラム、どうだ?初めて見る魔物は」


「こんなものが近くで飛んでいると考えると恐ろしいですね。群れがいて、向かって来ないですかね?」


 街の警備がどうなっているかはわからないが、大量に街に飛んでくれば危険だろう。


「街には入れない様に、魔道具を置いて囲っているから大丈夫だ。それに、冒険者達にも周回してもらってる」


 魔道具なんかもあるようだ。魔物避けは確かに必要だなと考える。


「格好いい冒険者さん達が守ってくれるなら安心ですね」


 と無邪気な答えを返すと、冒険者達が嬉しそうな反応しているのが見えた。女性冒険者達からも喜びの声が上がる。


「良いことを言うじゃないか、ホムラ。それにモテモテだ」


 と父様に撫でられる。悪い気分ではない。




「レーミング様、これが例の物です」


 冒険者がやってきて、父様に手に持つ石を渡す。


「それが、ワイバーンに致命傷を?」


「ああ、冒険者達の考えではそうだ。確かに、頭の位置の穴に一致する大きさだ。狙い的に即死だっただろうな」


 ワイバーンの頭には手のひらサイズの石が貫通した穴がある。一撃とは、余程良い狙いをしていたようだ。


 父様とエルメティアには疑問があったようだ。


「レーミング様……」


「ああ、これは誰がやったかが問題だ。相当の技量を持たなければ、ここまでのことは出来ない」


 なんだか、話のスケールが大きくなって来たようだ。自分は関係ないやと思いつつも、ワイバーンを貫いた石くらいは触って見たいと思った。


「父様、それ僕も触りたい」


「む、まあいいだろう。どこかに捨てるなよ?」


 と言いながら石を渡してくる。ホムラが捨てたりなどしないと信頼もあった。


「うーん、うちの庭にでも落ちてそうな石だね」


 石を太陽に翳して眺めてみるが、特段何か起きることもない。


「どこにでもありそうな石だな」


 という父様の言葉に、ちょうどたいまつで打つのに良さそうだなと思う。サイズ感がまさにぴったりだ。今朝の良い石を思い出す。


「ん?んん?いやいや」


「ホムラくん、どうしたんです?」


 石を見て首を捻るホムラにエルメティアが聞く。


「いや、なんでもないです。父様の言う通り、どこにでもある石ですもんね……」


 と言いながら返す。



なんか、今朝、森の方に打った石に似てないか?手に持った感触までそっくりだった。


 もしも、あれが自分が森に打った石だとしよう。ということは、ワイバーンを倒したのは自分ということになる。



 いやぁ、ナイナイ!自分なはずがないよなぁ。よし、これはすぐにでも忘れよう!と心に決めておくのだった。



 ワイバーンを撃破した者の正体もわからないため、一応警戒を行おうということになり、冒険者や兵士が、しばらくの間警備することとなった。

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