26 隊長会議

「それで、どういうことにする?」


 あの手紙のこと、これからの奥宮の警護のことだ。


「そうだな」


 ルギは同じ姿勢のまま、両手をアゴに当てた姿勢のまま答える。


「警護は強化せんといかんだろうな」


 よかった、これで相手方も奥宮の方に手が出しにくくなるだろう。


「さすがにシャンタルに何かということは考えにくいけど、マユリアとラーラ様、ネイ様、タリア様、それからキリエ様あたり?」

「ん?」


 ルギはどうしてダルがそんなに細かく相手を指定してくるのかと思ったようだ。


「だって、高貴な方って言われたら究極はシャンタルとマユリア、それから相手が知ってるとしたらラーラ様あたりだろ? 後は侍女たちだけ。そんで、もしもだよ」


 ダルがルギに近づき、声を落として言う。


「あのことを知ってる者のことだとしたら、その顔ぶれになるだろ?」

「それを言うならおまえとミーヤ、リル、それから俺も対象になるだろうな」

「え!」


 ダルが心底驚いた声を出した。


「確かにそう言っていくとそうなるのか……」


 思いつきもしなかった、自分もその対象に入っているということに。


「迂闊だな、ダル隊長」


 ルギが愉快そうに笑ってそう言う。


「まあ、らしいがな」


 だがルギが言う通りだ。相手がどこまで知っているのか分からない。そして何を目的としているのかが。


「そうか……」


 今度はダルが考え込む。


「そもそもが中の国の方を狙っている犯人だったはずだ。それがどうして奥宮の方を狙うような、あんな手紙を寄こした?」


 ルギの言葉にダルは答えない、答えられるはずがない。なぜなら、奥宮の方を狙うような文章、あれはトーヤたちで追加した手紙だからだ。


 どこの誰かは分からないが、宮に保護されたエリス様一行を狙った犯人を知っている、早く捕まえろとせっつく手紙を何通も寄こした。それに便乗するように、今度はその犯人が奥宮の方を狙い出したように思わせる手紙を追加したのだ。


「うーん、分からないけど、本当はそっちが目当てだった?」

「そっち?」

「うん」


 ダルは前からいくつか考えていた考えを口にする。


「本当はエリス様を襲った犯人のことは知らないんだとしたら?」

「なんだと」

「手紙を出した人、今のところは悪意があるかどうかも分からないし、かといって好意からとも言えないから、単に『人』と言っておくけど、その人は本当は奥宮のことを知らせたかったんだとしたら?」

 

 ルギが同じ姿勢のまま考える。


「うん、その可能性もあるよね」

「なるほど」

「突然奥宮の人が危ないって言ってきて、誰か動くかな?」 


 この国で奥宮の方々、シャンタルとマユリアを中心とした神に悪意を向けるものなど考えられない。


「すぐには信じないだろうな」

「うん、そうだろ」


 シャンタル宮は神域、聖域の中の聖域、この国に、この世界になくてはならない聖なる存在だ。そこに敵意を向けるものなど、ましてや危害を加えるなどこの国では考えられない。


「だから、その信じられないことを信じられるようにするために、まずは中の国の方が襲撃された事実を利用したとしたら?」

「ありえないことではないな」

「だろ?」

「うむ」


 ルギの気持ちが奥宮を守ることに向いていくのが分かり、ダルはホッとした。


 ルギはマユリアのためなら文字通り命を捨てる。マユリアを守るためならなんでもする。そのマユリアと周囲の人が標的だとしたら、何があっても守ってくれるだろう。


「やっぱりシャンタル、マユリア、ラーラ様のお三方を一番に、だな」

「うむ」


 そう言った後、


「キリエ様が体調を崩されたと言ってたな」


 3人のそばにいるキリエのことにも思い至ったようだ。


「ああ、言ってたね。血圧が高くなったって? 今もまだ治ってないみたいだってミーヤが心配してた」

「そうか」


 ルギが姿勢を変え、椅子の背もたれに首を預けるように上を向く。


 こんな隙のある姿はダル以外の人間には見せない。すっかりルギもダルを友人と思って気を許している証拠である。


「一度キリエ様のお見舞いに伺ってみるか」

「あ、俺も行ってないな。伺っても大丈夫かどうかキリエ様付きの侍女に聞いてみるよ」

「頼む」

「落ち着いてらっしゃるようには聞いたし、大丈夫だと思うよ。そうだ、エリス様もお見舞いに行かれたそうだ」

「あの方がか」

「うん。最初は侍女に様子を見に行かせて、次に自分もどうしても伺いたいとおっしゃったって」

「そうか」

「何しろキリエ様預かりみたいな形だからね、キリエ様にもしものことがあったら困るんだろう」


 ダルが少し冷めた視点から見たことを付け加える。


「らしくないな」

「何が?」

「それだけ心配しているんだろう、で終わらんところが」

「ああ」


 ダルが合点がいったという顔になる。


「だって俺、月虹隊の隊長だもんな。カースの漁師の息子だったら、そんだけでエリス様も心配されてるんだろうなで終われるけど、それで終わるわけにはいかないんだよ。そうでないと守るものも守れない」


 ルギがダルをじっと見て、


「そうだな、隊長とはそういうものだな」


 そう言って、なんとなく痛ましい者でも見る目になった。

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