第6話 信用の妥協点

コリンが皆を制し、周囲に集める。

そして班長達を集めた。


「いちいちムッとくる口の利き方だが、確かにこいつの言う事は納得出来る。

みんな、一応話を聞こうじゃないか。俺は出来れば誰だろうと腹の中の子供を助けたい。


おいチビ助、貴様の話を聞いてやろう。

夫人はどこにいると思う?」


サトミがムッとして腕を組む。


「チビ助よりガキの方がマシだ、おっさん!ようやく脳みそ動き出したか。


よし、良く聞け。


恐らく廃屋に待ってるのはゲリラじゃ無くて軍だろ?俺はそう思う。

このまま撤退するか、その爆弾避けて進んでそいつらに付き合うか、それともあっちのおばさん助けるか、判断するのは俺じゃ無い、あんたらだ。


おばさん助けたいなら、俺に言え。俺が連れて行く。

あんた達が行かないなら、俺は一人であっちに行く。

この作戦の目的はおばさんの救出だ、俺はおばさんを優先する。」


「なんでそう言い切れるんだ…こいつは。」


隊長班長5人が集まって検討する。

耳をませると、サトミの言葉が信用できるかどうかが主な論点ろんてんだ。

誰が何メートル先の人間の存在、しかも性別までわかるというのだろう。

信じられない、が、サトミの自信から嘘とも言い切れない。


サトミは、周囲の様子をうかがう振りをして兵たちから少し離れる。

サイがなんとなく、監視役だからと彼のあとを付いていくと、彼がスカーフの下で奇妙に笑っているのを見てゾッとした。


「クククッ、面白いな。あいつらどう判断すると思う?」


サイに、サトミが面白がって聞いてくる。


「さあ……あんたを信用するとは思わんがね。」


「ハハッ!だろうね。

それでも、地雷見せてインパクト与えたからさ、あの話し合いは俺の言葉に動かされている証拠さ。

あいつらきっと2つに分かれるぜ。

そうだな〜、5班の内、こっち2かな?1かな?


あっちもこっちも、欲出せばろくな事になりゃしねえ。

しかも、敵に友軍出てきたら、あんただったらどうする?

ハハッ!

敵は敵だ、そうだろ?味方の格好してても、撃たれるより撃たなきゃなんねえ。

あいつらに、果たしてそれが出来るかな?」


楽しそうに謎解なぞときするサトミに、サイが怪訝けげんな顔をする。

本当に、このガキは普通じゃ無い。


「お前……、普通のガキはな、そう言う事は考えないもんだ。

頭が回らず、ブルブル震えて大人の後ろにかくれてるもんだ。

一体何なんだ?なんでそういう事に頭が回るんだ?」


「んー、なんでだろうなー」


そっかなと、サトミが子供のように笑った。

ホッとするような、無邪気さが奇妙でもある。


「俺さ、オヤジが変人なんだ。

算数教える時は、師団に部隊長が何人、それぞれ5人の部下がいます。

部下は装備に一人400ドルかかってます。

さて、師団には何人の兵と、装備にいくらかかっているでしょう?

って感じ。

変だろ?友達とさ、ちっとも話が合わねえの。

山行けば、なんでもいいから生き物取って来いだの、妹とおやつかけて戦わせたり、こっちは目が悪いのに、おかまいなしの遊びさせやがる。

俺達兄妹、いっつも傷だらけで、母さんより近所の爺ちゃん婆ちゃんの方がやたら心配するんだ。

ほんと……変な……」


言葉が途切れて、チラリとのぞき込む。

驚くことに、目がうるんで耳が真っ赤だ。

涙を浮かべて、サイに気がつくとゴシゴシふいた。


「あ、しまった。ゴシゴシふいちゃ駄目って言われてた。

へへっ、駄目だな。親に駄目って言われたの押しきって出てきたの俺だけど、やっぱ……


やっぱ………うっ、うっ、ぐすっ 」


スカーフで涙ふいて、それでもまた流れる涙をふいて、鼻をすする。

こいつは、やっぱり11のガキだ。

それでもきっと、上の心を動かす何かがあったんだろう。

まさか、本当に夫人が別の場所にいるとは思えないが。


「オヤジ……母さん……会いてえなあ……」


地雷の真横でガキが泣いている場面は、どこかシュールだ。

こいつはちっともそう言うものは怖くないクセに、お父さんに会いたいと涙を流す。



「おい!ガキッ!」



話し合いが終わったのか、コリンが声をかけてくる。

サトミが涙をふいて戻ると、怪訝な顔でのぞき込んだ。


「なんだ?なんで……泣いてた?」


「いいんだよ、ほっといてくれ。

決まったのか?どうするの?」


「お前さんにゲイル班、一班だけ付いていく。

あとはこっちだ。」


ハッ!と、サトミが腹を押さえて笑った。


「ハハッ!たった6人かよ!おっさん、俺信用しなさすぎんだろ?」


「お前自身が上の送り込んだ奴だとも考えられる。

俺としては、お前一人で行けと言いたいんだがね。

お前が、自分はそうじゃないと証明するモノも無かろう?」


コリンが冷たい目で言い放つ。

他の兵の冷めた視線を感じながら、サトミはそれでも顔を上げた。


「頭が回るじゃない、おっさん。ハハッ

だからさ!俺は、疑われたくないから最後を付いてった。

あんたらがどこを歩こうと、俺は一言も口を出してない。つまり誘導などしていない、それが証拠だ。」


ハッとサイがサトミを見る。

自分にその考えは無かった。

飛び入りなら、疑われるその恐れは、確かに考えるべきだ。


「思った通りの場所を歩くなら、口を出す事も無いだろうさ。

ガキが、知った風な口を叩くな。」


ゲイルが、腹立たしそうに吐き出す。

サトミが、ニイッと笑って親指を立てた。


「いいじゃん、あんたの様な考え方もあるな。上出来!」


馬鹿にされたようで、カッとゲイルの顔が真っ赤になった。


「この……」


ゲイルが、銃を振り回しサトミの頬を銃床じゅうしょうで殴ろうとする。

が、サトミはひょいと顔を避けた。


「避けるな!」


「だって、当たると痛いじゃん?」


「この…!」


再度振り回して、今度は腹を突く。


ガンッ!


「うおっ!」


突き出された銃床を拳で横に殴って払われ、次の瞬間サトミが彼のふところに踏み込み、掌底しょうていがゲイルの頬にヒットした。


「ぐがっ!」


「班長!」


頬を押さえて口から血を流し、しゃがみ込むゲイルに班の仲間が駆け寄る。

思わず銃口を向ける彼らに、サトミが両手を上げた。


「先に手を出したのはそっちだ!俺は手加減した!

ただし、俺は大人だろうが仲間だろうが、身を守る為なら容赦ようしゃしない。

俺は、身を守ることを、すべてにおいて優先ゆうせんする。」


「軍の規律きりつというものは!」


「そんなものクソ食らえだ!

俺はそれでいいと言われて軍に入った。


俺はガキだが作戦の意味も、やってる事の必要性も理解している。

でも、俺は生きる事も優先する。

生きることには意味がある、だから、生きる為に戦うんだ。


さあ、時間が惜しい、俺に付いてくる奴らは誰だ?

行くぞ、そっちも山班と合流するんだろ?」


「き…さま、俺たちを舐めているな。

軍の怖さをわからせてくれる!俺の班が行く!」


ゲイルが血の混じった唾を吐き捨て、低い声でうなるように言う。

だが、サトミはあさってを向いて、ひょいと肩を上げた。


「さあな、俺はまだあんたたちの能力を知らない、舐めようが無いって事さ。

軍の怖さか…

なあ、そんなモノよりさ、俺にすげえ!と言わせてくれよ。

大人の格好良さを見せてくれよ!


行こうぜ。

隊長、あんたはいい人だ、死ぬなよ。」


サトミがコリンに向けて、親指を立てる。

コリンがフッと笑い、皆に手を振り廃墟はいきょの館の方角へ進む。

サトミはゲイル班を連れて、山の方向へと歩き始めた。

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