第1話 約束の続き
2010年。
異星人・オリエントらが地球に宣戦布告。オリエント戦争が勃発。
さらにドイツのユーエム大聖堂にて初めてエレメントが発見され、オリエント星人らの生物兵器と推測された。
エレメント。それは人知を超えた生物。
圧倒的な力で破壊の限りを尽くす化け物。
それが人類を破滅に追い詰める最もたる原因となった。
2011年。ヨーロッパ州陥落。この年に国連はオリエント星人、エレメントに対抗する組織・対オリエント星人隊〈VAOU(VS Alien Olient Unit)〉を結成した。
2012年。アフリカ州陥落。ヒマラヤ山脈周辺にヒマラヤ防衛戦線が作られ、人類初の対エレメント専用決戦兵器・ゾルダキルの試作零番機『兵鬼』が実戦導入された。日本とアメリカの企業の合作であるゾルダ零号機は日本の最強の妖怪である鬼から名前がとられた。
2013年。オセアニア州、南アメリカ州が陥落するも、兵鬼が功をなしたのか、アジアのヒマラヤ防衛戦線は維持されていた。しかし、二年後。
2015年。北アメリカ州、アジア州陥落。ヒマラヤ防衛緯戦線が破られる。対オリエント星人隊は撤退。兵鬼だけは失うわけにはいかないと、多くの兵士が命を落とした。人類最後の地となった日本に対オリエント星人隊本部が移された。
2016年。ついにエレメントが横浜に上陸。人類最終横浜戦線にて兵鬼がなんとかエレメントの侵攻を阻止していた。
そして突如、横浜に上陸していたエレメントは消滅。一連の戦争は一部のオリエント星人が起こしたものとして、オリエント星連合政府から謝罪され、戦争も終結。
しかし、エレメントはオリエント星由来でないことも判明。
2017年。難民でごった返し、その日の飯が食べられるかどうかわからないという状況の日本に救世主が現れる。難民のマニラ・エンデルが指導者として民衆を希望へ導き、後に内閣総理大臣に就任。天空農園『Arcadia』の運用により、日本は奇跡的な復活を遂げた。その後、日本の沿岸に対エレメント用の大砲を設置。さらに、領空の先端に飛行艦艇を配備。領海に入り込んだエレメントに早く対応できる策を完成させた。のちに、福岡の艦隊はハイタカ艦隊と呼ばれるようになり、日本最強の警備艦隊となった。
2018年。マニラは王家設立問題が巻き起こる中で日本を日本王国へと変え、自身もマニラ国王となった。ここに天皇・王・内閣総理大臣が存在する地球最後の国が誕生した。マニラの名のもとにVAOUは解散させられ、対エレメント専用の部隊であるVSEA(ヴセア)として再結成した。
ヴセアは目を見張る活躍を見せ、マニラらの王政が極秘裏にゾルダキルの一番機と二番機を開発。その双子の鬼は兵鬼よりも一回り大きい作りとなっている。名前は一番機から順に『赤鬼』、『青鬼』である。
2047年。国外遠征中、異形種エレメント戦に敗北。ヴセア側に多数の犠牲者が出た。
そして2054年−−。
「トオル!」
額に衝撃を感じたトオルは現実に引き戻された。2年前の小学校6年生の頃の夢を見ていた。あの秋に受けた授業。またこの夢か、とトオルはうんざりした。
目を開いたトオルはまぶしさを感じないことに気づき、あたりを見渡した。すると、すでに夕暮れであることが分かり、部活のジャージ姿のミオの姿が目に入った。
「こんなところで寝て、風引くよ」
「は? こんなところって」
言われてみると、トオルは家の近くの公園のベンチで寝ていたようだった。ミオと同じく上下ジャージであり、少し肌寒かった。口元にはよだれの跡があり、自慢の髪も寝癖が立っていた。
「俺なんでこんなところで寝てたんだ?」
「知らないわよ。学校から帰ってくるなり、遊びに行ってくるって言って家を出て行ったんだから」
あー、確かにそうだった気がする。ようやく記憶が戻ってきた。遊び疲れてベンチで寝てたんだっけ。
上体を起こすと、ポケットから重いものが地面に落ちる。それが普段から大切にしている旧式のラジオだと気が付くと、ゆっくりと手を伸ばした。
ラジオを拾い上げると、ミオが一万円札を差し出してきた。
「おじさん今日から出張。二人で飯食ってこいって」
「……中学生二人で一万か」
ファミレスにしては高すぎ、ちょっといいレストランでは少し足りないんじゃないかという金額だ。というか中学生でいいレストランには行かない。マセガキじゃあるまいし。これでは必然的にファミレスを選ぶことになる。親父はそこまで考えての諭吉なのだろうか。まあ、ファミレスでもぜんぜん問題ないのだが。
「私ファミレスで良いんだけど」
「俺もそれでいいよ」
二人は徒歩十分ほどのファミレスへ向かおうと、公園から大通りへ出た時だ。
地鳴り。聞きなれない轟音。あたりがざわつく。ベビーカーの赤ちゃんは泣きだしていた。
「なんだ?」
『緊急避難警報です』
「もしかして……」
ミオが不安げな顔をしてトオルの方を見る。ミオが思ったことは表情から伝わってきた。しかし、そんなことがありえうるだろうか。もし本当だったら、避難警報が遅すぎる。それに防衛戦線が破られたということになる。あの敗北を知らないハイタカ防衛艦隊がだ。ありえない。いや、『ありえない』を信用してはだめだ。身に染みてわかっている。ソラ姐はそうやって帰らぬ人となったのだ。
『住民は今すぐ近くの地下シェルターへ避難を開始——』
「くあぁあぁぁああああぁぁ‼」
ざわついていた場が一気に静かになる。冷たくなり、凍り付く。
今の鳴き声でトオルは確信する。間違いない。
来てしまった。エレメントが。
「嘘……」
「ミオ、逃げるぞ」
トオルはミオの手を取り、シェルターへの誘導灯となった街灯を頼りに走り始めた。
地下シェルターにはすぐ着いたが、やはり大勢いの人が集まっており、とてもじゃないが順番を待っていられるような状況じゃなかった。これでは、エレメントが来てしまう。トオルははぐれないようにミオと手を繋いだまま、思考をめぐらす。
他の地下シェルターへ向かうべきか。いや、危険すぎるな。他も同じような状況だろう。
どうすればいいんだ。
「くああああああああああああああああ!」
先ほどよりも声が近い。奴はもうすぐそこまで来ている。
トオルは鳴き声がした方を見た。火が上がっている。砲撃の音も立て続けにしていた。そして、すぐそばのビルの前の人だかりで噴水が上がった。
「……何あれ」
気づけば、ミオも噴水を目撃していた。しかし、なぜ噴水——。トオルはあまりの、悲惨さに思わず声に出してしまう。
「噴水なんかじゃない。……人の血だ」
「え……」
二メートルほどの小型のエレメント【アクマ】が何体も迫って来ており、既に被害者が出ているのだ。
「ああああああ! やめろおおおおおおおおお!」
「助けてくれえええええええええええええ!」
「ぐう、ああああああ!」
血飛沫が見えるたびに断末魔が増える。
「ミオ、ほかのシェルターだ。ここは危ない。早く逃げるぞ」
「わかった」
二人は、血しぶきから目をそらすように走り始めた。人ごみをかき分ける。乗り捨てられた車の脇を抜ける。
「絶対に手ぇ離すなよ」
「うん!」
ミオの握る手に力が入る。
もう、何も失いたくない。ミオは絶対に失いたくない。
ここらはほとんどの人が地下シェルターへ避難し終えたらしく、人数が少ない。どこか、空いてるシェルターはないのか。探すが見当たらない。どこも満員を示す赤ランプが点灯している。
「はあ、はあ」
突然ミオが倒れこんだので、慌ててトオルは支えに入る。
かなりの距離を走らせてしまった。正直、トオルも限界だった。これ以上は……。意識が朦朧とし始める。でも、逃げなきゃ。ミオだけでも、逃がさなきゃ。
地獄と化した福岡。死体が転がる大通りの真ん中で二人は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます