第15話 ペットショップ

俺はずっと気になっている店があった。


ペットショップ。


顔に出来た傷が目立ち中々一人では入りづらい。

帽子を深くかぶり、コートの襟を立たせ、今日こそはと足を踏み入れた。


当然、悪目立ちしてしまう。

俺はガラスで見る、仔猫や仔犬に目を引かれた。


可愛い。


この仔は耳が黒いな。


この仔は眠っている。


ああ小さいな。


どんな仔なのかな。


血の滲んだ札束をコートの中にしまっている。


「どの仔が可愛いですか?」


ペットショップの店員らしい女が声をかけてきた。

物怖じしないのか、気さくに話しかけてくる。


俺は若干、身を引いてしまう。その時立ててたコートの襟が折れ、顔の傷をさらけ出してしまった。


女の店員は言う。


「可愛いですよ。人のを見て判断するペットなんていません。」


そして女店員はガラスケースから一匹の仔犬を出し、どうぞと差しだしてきた。


俺はどうしようもなくうろたえてしまう。


抱っこした仔犬。

無邪気に尻尾を振り、顔を舐めてくる。

そう、俺の頬の傷も。


「どうですか?」


「あ、ああ可愛いですね、」


「どの仔も同じです。自分を愛してくれる手の平を求めているんです。」


「後はお客様、自身です。」


俺の手は沢山の命を奪ってきた。


この札束も血を吸っている。


それでも夜は孤独で仕方ない。


自分を求めてくれる何かを欲していた。


皆が目を背ける俺の姿。


だが、今胸に抱く仔犬は傷を舐めてくれた。


黒く光る瞳、ふわふわした身体。


俺は大事にできるのか。

俺が幸せにさせてあげれるのだろうか。


そんな時、不意に思った。


大事な者を救えず、幸せにできなかったことを。

仔犬よりも重くて、俺の背中で息絶えたものがいた。


愛する事は出来る、でもその愛は命よりも重い。


俺はこの仔を守れるだろうか。

死に目を見届けられるのだろうか。


多分、この仔より俺の方が先に逝ってしまうかもしれない。

残されたこの仔はどうなってしまうのか。


俺は仔犬を店員に渡し、頭を下げ、ペットショップを後にした。



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