第5話! ハガネの心


 一般的に学校で女の子同士がイチャイチャとスキンシップをして、その光景を男子が遠巻きにうらやましそうに見ているというのは、割とよくあることだと思う。


 だが私立志命堂学院のあるクラスではそれが少し違ってくる。


 無論、金剛ハガネと高野チヨのことだ。


 昼休み。


 ハガネの膝の上にチヨが座って一緒に昼食を摂る。


 大柄なハガネに、小柄なチヨがちょこんと座ってお弁当を拡げているのはなんとも微笑ましい。


 しかし、冷静になって考えるとその様子が妙だということに気が付く。


 そう。


 金剛ハガネは女の子である。


 そして。


 高野チヨは男の子である。


 敢えてもう一度書こう。


 高野チヨは、男の子である。


 彼は女の子のような容姿を持ち、スカートを穿き、ハガネと常にイチャイチャベタベタとしているのだが、彼は男の子なのである。


 朝お弁当を作って、ハガネの分も作ってきてあげて、いっしょに食べているが、それでも彼は男の子なのである。


 そして、もう一つ、ここに恐るべき事実がある。


 この2人の関係だ。


 そう。


 2人は幼馴染みである。


 幼馴染みの男女の2人が今、お年頃になって、イチャイチャベタベタしながら、一緒にお昼を食べて、しかも女の子の膝の上に男の子が座っているのだ。


 なのに、この2人は「ただの幼馴染みである」というのだ。


 それはつまり、端的にどういうことかというと……。


 2人は付き合ってはいないのである。


 そう。


 公然とイチャイチャしておきながらも、2人は……。


 付き合ってないのである!


 当の本人たちはまるで気にしていないようではあるが、やきもきするのは逆に周囲の方である。


 空手部に所属している蓬莱クスミは以前、何気なくハガネにこう言ったことがある。


 確か連休明けだったか何かの時だ。


「彼氏とどこか行ったりしたの?」


「え? 彼氏なんて居ないよアタシ」


「えっ? いや、高野くんは彼氏じゃないの?」


「えっ? チヨちゃん? チヨちゃんは彼氏じゃないよ」


「って……えっ? えっ?」


 もうお互い「えっ」の応酬で、話が一向に進まない。


「彼氏じゃないって……アンタたち、付き合ってないの?」


「つ、付き合うって……クーちゃんのえっち///」


「えっち///って……いやいや! アンタたちが普段人目もはばからずにハグとかしてる方がメチャクチャえっちなんですけど!?」


「えー……そうかなぁ……?」


 と、なぜか反応が淡泊だったのである。


 一方のチヨの方はと言えば、それも十方ソウタが聞いたことがある。


「えっ、金剛とは付き合ってないの?」


「う~ん……ボクとハガネちゃんはそういうのじゃないから」


「そーゆーのじゃないって……じゃあどういうのだよ?」


「だから……ボクとハガネちゃんはね……そういうのじゃあ、ないんだよ……」


「ふ~ん……」


 ソウタは見た目は軽いが、根は至ってマジメな少年であるから、それ以上しつこく聞いたりはしない。


 ボスに関しては、黙してなにも語らず。ただ2人を遠くから見守るのみだ。


 なにかありそうでなさそうな2人の関係を、周囲はやきもきしながらも見守ることしか出来なくなっていった。


 そんなある日の事である。


「ところで来月でしょ、総合武術大会?」


 ハガネにそう聞くのはもちろんクスミである。


 体育の移動の時間だから、周囲に男子は居ない。


 さすがに、チヨもこの時間は離れている。


 当然と言えば当然なのだが……。


「うん、そう……だからうちのお爺ちゃんがいつもより気合いが入っちゃって……今週から鍛錬のメニューキツくなってきたよ」


「あー……そりゃあご愁傷様ー……」


 金剛流の鍛錬がハードなのはクスミも普段から聞いてはいる。


 通常のトレーニングが既に人間離れしているので、それよりもキツくなるってのはどういうことなのか、クスミとしてはもはや詳しく聞きたくないレベルであり、端的に言うと、聞くのが怖い……であった。


「で、それで? やっぱり優勝したら告白するの?」


「って、ちょっと! クーちゃん! 声が大きい!」


 しーっと人差し指を口に当てるハガネの声の方がデカかったりするが、いつものことなので気にしない。


「いいじゃない、男子は居ないんだし」


「そ、そうかもしんないけど……ほら、『壁に穴を穿ち障子を蹴破る……って言うじゃない?」


「言わないわよ」


 クスミのツッコミスルースキルもかなりの域に到達しつつある。


 ハガネの天然にこまめにツッコめるのはチヨの他には居ない。


 いちいちツッコミ始めると話が全く進まなくなるのだ。


「でも……うん、いい機会じゃない。ちゃんと告白するってのは」


 なぜだろうか、幼馴染みの女の子の方からの告白なのに、ハガネとチヨだとハガネからの方が合っているような気がするのは……。


「あ~……う~ん……でもぉ……断られたらって思うと……やっぱり気が引けるよぉ」


「いやいやいや! 普段あんだけ人前でイチャイチャしてて、今更なにを言うのよ!」


 と思わずツッコんでしまうが、当の本人は至って本気。


「だって……アタシ……まだ…………強くなれてないから……」


「いや、金剛流の中ではどうだかしらないけど、素手で大の男を投げ飛ばす女子高生を強くないとは言わないとは思うんだけど……」


「でも……うん……アタシ……もっと鍛錬して……優勝する! そんで、優勝したら……チヨちゃんに……」


「うん、私も応援するから……あ、とりあえず早く更衣室に行こう」


「あっ、そうだった……」


 そう決意を新たにするハガネだったが、彼女には一抹の不安があった。


 それは……彼女自身も口にしたように、まだ彼女は強くなれていないと、そう思っている。


 彼女たちのように……。


 そう、あの「プリ☆スタ」のように……。


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