第3話 (コメント採用回)チートな美少女は幸運10倍

「今日こそは邪魔しないでくれよ?

 僕自身の力で倒せる敵じゃないと意味ないんだからさ。

 お前にバンバン自動狩りみたくに倒して貰ってたら、僕はお祖父様に家に入れて貰えなくなっちゃうよ。」


「分かったよ、何度もやかましいな。」

 イグナイトスティールが、うんざりしたように言ってくる。


 僕は改めてダンジョンに潜っていた。

 今日はこの間とは違うダンジョンだ。入り口が狭くて人がすれ違うのがギリギリくらいの道幅の場所だ。


 狭いところが苦手な僕からすると、あまり潜りたくはなかったけれど、ここに住んでたり、わいたりする魔物は、スクロールをドロップしやすいのと、謎の液体をたまにドロップするのがいるという。


 ドロップ内容がある程度確定の魔物と違って、どれだけ倒してもハズレの可能性が高い魔物は人気がない。


 大体は大人数でパーティーを組んで、聖魔法の全体攻撃魔法が3割、弓使いの特殊スキルが3割、なんて風に、倒したら必ず高レベルのスクロールのいずれかをドロップする魔物が人気なのだ。



 ここにいる魔物でも、そういうスクロールが出ない訳じゃないけど、稼ぐつもりでダンジョンに潜る冒険者たちは、薬をがぶ飲みして確実に落とす方の危険な魔物と戦う。


 だからこのダンジョンは、穴場と言っていいほどすいている。

 滑りやすい岩の道に気を付けながら、僕はゆっくりと奥へ奥へと進んで行った。


 地面がなだらかになったところで、突然壁の燭台が、ぼっ、ぼっ、と音を立てて、順番に火がついていく。


 大きな石畳と、石壁の天井で出来た広い空間。火がついた瞬間、天井近くの壁にとまっていた石の魔物が一斉に動き出す。

 ここはダンジョンの入り口の門の前。

 門番のガーゴイルだ。


 ガーゴイルは、石でできた、カラス、コウモリ、竜、猛禽類などの、すべての総称として呼ばれることが多く、ここにいるのは、コウモリの羽を持ち、先の尖った長い尻尾を持つ、カラスのような長いクチバシの魔物だ。

 それらが一斉に向かってくる。


 飛んで来るものは、こちらから切ろうとしちゃ駄目だ。タイミングを合わせる。飛んで来る球体を打ち返す時と同じ。

 振り抜こうとするからズレる。


 タイミングがあえば球体は跳ね返って遠くまで飛ぶ。飛んで来る生き物を切る時も同じことだ。

 タイミングがあえば力を入れずにキレイに切れる。


 逆にあわないと、こういう硬い魔物は刃を痛めてしまうか、最悪刃こぼれしたり剣が折れてしまう。


 イグナイトスティールは、伝説の鍛冶職人イスラファンの特別製だから、なかなかそんなことにはならないけど、それでも力任せに切ろうとしないに越したことはないのだ。


 ──横一線ホリゾンタリー!!


 飛んで来るタイミングのあったガーゴイルが、真っ二つに切れて空中で消え、地面にスクロール、または素材を落とす。


 スクロールの確率がとにかく高い。防具の素材にも使える魔物だから、素材集めの時には逆に苦労するけど、今回の僕の目的はスクロールだからむしろありがたい。


 ダンジョンの魔物は、生息してるものと、時間わきのものに分かれるけど、ガーゴイルは時間わきに属する魔物だから、時間がたつとまた復活する。


 ダンジョンの魔力が生み出している、特殊な存在だと言われてる。実際侵入者が現れるまで微動だにしない。


 僕は襲って来たすべてのガーゴイルを切り落とすと、床に散らばったスクロールや素材を拾ってアイテムバッグに詰めた。


 スクロールのドロップ率が高いというだけあって、一体につき最低3つのスクロールをドロップする。


 とは言っても、大半が定着スクロールじゃない消耗品タイプのやつだ。だから新人のアイテム稼ぎに使われる。


 多くがバフ効果とか、いいやつで瞬間移動とかだ。それも、1つで防御強化10%とかで、高い数字のやつも出るには出るけど少ない。


 攻撃強化とか、ジャンルが違えば重ねがけ出来るけど、防御強化を2つ使う、なんてことは出来ない。


 だからレベルが上がるにつれて、ほぼ使わなくなるゴミスクロール、というわけだ。


 それでもいいやつをドロップすることもあるから、ぼくみたいなコツコツタイプの新人が、たまに狩りに来る。


 気が遠くなるくらいゴミスクロールを集めてでも、いいやつを手に入れようだなんて、貴族の中じゃホント僕くらいなんだろうな。


 僕がスクロールを拾っている最中に、神の福音の音がする。


 レベルが8になりました。

 HPが4上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が2上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が1上がりました。

 知力が2上がりました。

 スキル、〈裸に見える〉を習得しました。


 レベルが9になりました。

 HPが3上がりました。

 MPが5上がりました。

 攻撃力が3上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が2上がりました。

 知力が3上がりました。

 スキル、〈雨予報(15秒前)〉を習得しました。


 相変わらずわけの分からないスキルしか手に入れられなかった。

 あとでゆっくりと確認するスクロールに期待しよう。


 僕はガーゴイルが守っていた扉を開けた。

 ?????


 ──扉を開けた途端、斧を手にしたサイクロプスに、両手首を掴まれてぶら下げられている、見知らぬ美少女の姿が見えた。


 ここいらの貴族の可愛い女の子なら、大体みんな知っている。何故って貴族は定期的に家族ぐるみの交流会があるからだ。


 子連れで誰かの家のパーティーにやってきては、大人たちは政治か商売の話、子どもたちは子どもたちで交流する。


 ただしそこには派閥というものがあって、うちのような中立以外は、同じ派閥の貴族としか交流しない。

 だから学校での出会いが貴重なのだ。


 その中には絶対にいなかった子だ。腰に長剣をぶら下げて、新人冒険者が身につける皮の防具を着てるんだけど。


 多分あれ、サイズが合ってないんだろうなあ。


 胸当てがパッツパツで非常に苦しそうだ。あれじゃあ剣を使うにも弓を使うにも、体が動かしにくくて仕方がないだろう。


 ただでさえ、皮自体は多少は伸びるといっても、皮の防具はあまり伸びないから、元から体型にあったものを作って貰う必要があるのだ。


 特に彼女のような、……胸が大き過ぎる女の子の場合は。


 というか、なんでサイクロプスがこんなところに?


 ここはまだ入り口付近だ。このダンジョンには確かにサイクロプスがいるけれど、本当は、もっと下の階層にいる筈の魔物なのだ。


 ひょっとして、彼女をわざわざ追ってきたんだろうか?


 サイクロプスは1つ目の巨人なのだけど、一定以上のヘイトがたまると、しつこく追いかけて来るという特性を持っている。


 つまりあの子は、それだけサイクロプスに攻撃を加えたということだ。

 かなり下の方にいる筈なのに、1階まで追いかけて来るだなんて。


 いったいどんな攻撃をしたら、そこまでサイクロプスを怒らせるなんてことが出来るんだろう。


 おまけに体にスライムがはりついて、装備の1部が溶かされている。


 スライムは服だけを溶かす特殊な魔物、なんて伝説に、男なら1度はワクワクしたことがあると思うけど、あれはスライムの捕食方法なのだ。


 ゴミや植物を分解して食べて、微生物の為のエサを生み出す。生きているものは食べない。だから人に取り付く場合は服だけを溶かされる。


 ──死ねばその限りじゃない、というだけだ。


 だけど、生き物に取り付くタイプのスライムは、その多くが体を痺れさせる粘液で攻撃してくる。


 僕が狙っていた謎の液体をドロップする魔物が、この痺れ粘液を出すタイプのスライムなのだ。


 1階まで逃げて来たところで、スライムたちに取りつかれて体を痺れさせられたところに、サイクロプスに追い付かれて捕まった、というところだろう。


 それにしても、彼女の仲間はどうしたんだろう?まさか新人がたった1人でサイクロプスに挑むわけもないし、やはりやられてしまったと考えるのが妥当だ。


「おい、いい獲物がいんじゃねえか。」

 イグナイトスティールが急にワクワクした声を出す。


「──そうだね。

 頑張ってみるけど、今の僕じゃ厳しいかも知れない。

 万が一の時は頼むよ、あの子を助けるのが第1優先だからね。」


「お前がやんのかよ。」

 イグナイトスティールが、明らかに、お前には絶対に無理、という呆れた声を出す。


 いずれはサイクロプスのところまで降りるつもりだったんだ。

 今の力量を試す為にも、丁度いい相手だ。


 交差切クロスエ──


 突然、サイクロプスが手にぶら下げていた美少女を、僕の方に放り投げた。


 攻撃に移ろうとしていた僕は、慌ててそれを止めるのに精一杯で、飛んできた美少女とまともにぶつかった。


 吹っ飛ばされた美少女は、どうやら痺れているだけじゃなく、気絶してるようだ。


 彼女の体の下から這い出ると、立ち上がる間もなく痺れスライムたちが飛んで来る。

 僕は片足を踏み込んで立ち上がる動作を、そのまま攻撃方法へとシフトした。


 ──速回転斬りワールフラッシュ!!


 痺れスライムたちを一網打尽にする。素材に混じって謎の液体の瓶がドロップした。


 サイクロプスの目は明らかに僕の方を敵と認識したようだった。


 斧を振り上げて打ち下ろしてくる。動作の大きい攻撃方法を行ったばかりの僕は、すくに次の予備動作に入るのが難しかった。


 飛び退いて回転しながら、打ち下ろされた斧をかじろうてよける。


 僕はすぐさま立ち上がってイグナイトスティールを構えた。

 サイクロプスの弱点は目だけど、1人で戦いながらそれを狙うのは難しい。


 一見動作が緩慢そうに見えて、体が大きいから、ひとつひとつの動作のリーチが長いのだ。走って逃げてもすぐに追いつかれる。


 サイクロプスが斧を振り下ろした瞬間、僕は身をかがめて体を低くし、移動しながらサイクロプスの間合いに潜り込んでスネを狙った。


 ──横一線ホリゾンタリー!!


 サイクロプスが吠える。スネから紫色の血が吹き出していた。


 サイクロプスの体がグラリと前かがみになる。──いまだ!!

 僕はサイクロプスの屈めた膝を蹴って飛び上がり、サイクロプスの目を狙った。


 交差切りクロスエンド!!


 サイクロプスが斧を手放して、両手で目をおさえてぐるぐると暴れまわる。


 僕はサイクロプスの着ていた服のようなものを掴んで、体をのぼり、背中に回った。


「これで終わりだ!!」


 両手で目をおさえて無防備な首筋に、全体重をかけてイグナイトスティールの刃先を押し込んだ。

 サイクロプスが暴れまわる。


 これでも死なないのか!?

 僕はイグナイトスティールにしがみついたまま、暴れるサイクロプスに振り回された。


 僕はしっかりと両足でサイクロプスの体を挟み込むと、イグナイトスティールの刺さった傷口を広げるように左右に振った。


 かたく差し込まれていたイグナイトスティールが、サイクロプスの体から抜ける。


 ──横一線ホリゾンタリー!!


 僕の放った攻撃が、サイクロプスの頭を落とした。

「──うわっ!?と。」


 前に崩れ落ちるサイクロプスから飛び退いて地面に着地する。

 サイクロプスはそのまま動かなくなった。


 僕は倒れている彼女にかけよった。まだ痺れスライムが取り付いている。

 1体ずつ倒すと、痺れスライムがとりついていた部分の素肌が見えて、ちょっとドキッとした。


 肩を叩いたけど目を覚まさない。

 仕方なしにドロップ品の回収や、サイクロプスの剥ぎ取りをすすめながら、彼女が気が付くのを待つことにした。


 その間に神の福音の音が聞こえた。


 レベルが10になりました。

 HPが5上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が1上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が2上がりました。

 知力が1上がりました。

 スキル、〈カツラを見抜ける〉を習得しました。


 レベルが11になりました。

 HPが4上がりました。

 MPが4上がりました。

 攻撃力が3上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が2上がりました。

 知力が1上がりました。

 スキル、〈塩が見つかる〉を習得しました。


 レベルが12になりました。

 HPが3上がりました。

 MPが4上がりました。

 攻撃力が1上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が3上がりました。

 知力が3上がりました。

 スキル、〈上手に嘘がつける〉を習得しました。


 ……もはや何も言うまい。


「う……ん。」


「あ、気が付いた?」


 彼女はようやく目を覚ました。

 そして、ハッとしたようにあたりを見回すと、倒されているサイクロプスに気が付き、自分が助かった事を知った。


「助けて……くれたんですか?」


 彼女のこぼれそうな大きな目が、潤んで僕を見つめている。

 こういうのに慣れていない僕は、ま、まあね、と焦りながらドギマギした。


「──やだ、凄いステキ!

 なんてセクシーでハンサムなのかしら。

 あの……、アナタ、お名前は?」


 突如、彼女のものとは思えない、えらく色っぽい大人びた声が響く。


「ちょっと、ストームホルト、いきなり知らない人相手に失礼よ?」


 彼女は自分の剣を見ながら声をかける。

 意思を持った喋る武器!?

 ということは、だ……。


「あの、それ、どなたかに作っていただいたんですか?」


「はい、イスラファンさんという、ドワーフの鍛冶職人さんに作っていただきました!」


 そ、そうなんだ……。

 イスラファンに気に入られて武器を作って貰ったということは、彼女が勇者になれる素質を秘めているという可能性をさしている。


 そして、意思を持った喋る武器がステキと言っている相手とは、もちろん僕ではないのだろう。


 イグナイトスティールだ。

 いつもうるさいくらい喋るこいつが、何故か黙っている。照れてるってことはないだろうな。


「こいつもイスラファンの作品なんだよ、イグナイトスティールって言うんだ。」


「──イグナイトスティール様!?

 やだ!まさかこんなところでお会い出来るなんて……!!」


 意思を持った喋る武器界隈では、イグナイトスティールが憧れの存在なんだろうか。

 まあ、確かに伝説の勇者が使ってた武器ではあるけど。

 というか、武器にハンサムとかあんのか。


「えと、僕は、マクシミリアン・スワロスウェイカーって言うんだ。

 君の名前は?」


「あ、すみません!

 アリシア・スコットと言います!

 助けて下さってありがとうございます!」


「……ひょっとして……なんだけど、今年マジェスティアラン学園に入学予定だったりする?」


「はい!

 よくご存知ですね?」


 ……やっぱりか。


 イスラファン作の意思を持った喋る武器を持っているとか、さすが平民から鳴り物入りで入ってくるだけのことはあるが、貴族からの反発はさけられないだろうなあ。


「僕も今年入学予定なんだよ。」


「そうなんですか!

 同じクラスになれるといいですね!」


 アリシアは屈託なく笑った。上品な貴族の女の子たちとは、違った可愛さがあった。


「どうしてサイクロプスに捕まってたの?

 というか、仲間の人たちは?」


「いえ、1人です。

 新人向きのダンジョンだって、教えて貰って、それで。

 でも、まさか、下の階層にあんな強い魔物がいるなんて、思ってもみなくて。」


「……それ、誰に教わったの?」


 僕だって、いずれはと思っているけど、いきなり下層になんて潜らない。

 ここは確かに新人向きのダンジョンであることに間違いはないけど、普通はそこを説明するものだ。


「私がマジェスティアラン学園に入学手続きに来た時に、願書を出してた方たちの、どなたかですね。」


 ──ようするに、願書を出せば殆ど入れるとはいえ、願書を提出しに来ただけの貴族と違って、入学確定の彼女は別の手続きをさせられたわけだ。


 それを見ていた貴族には、あれが今年入る平民だとすぐに分かったことだろう。

 それでちょっと嫌がらせをされた、というわけだ。


 くだらないことをする奴がいるもんだ。

 ダンジョンで何かあった場合、それは罪にならないとはいえ、これで本当に彼女が死んでたらどうするつもりだったのか。


 僕は貴族が好きではないけど、いいやつもいることを知っている。けど、大半は貴族以外は人間だと思ってないようなのも、まだまだ多いのだ。


 けど、そうした悪意にさらされたことを、気付いていない彼女に、わざわざ伝える気にもなれなかった。


「ここは確かに初心者向けのダンジョンだけど、下の階層に行くほど、かなり強い魔物が出るから、1人で行くのはあんまりオススメしないかな。」


「そうなんですね!気を付けます。

 教えてくれてありがとうごさいます。」


「今日はもう、狩りはやめた方がいいんじゃない?

 その……装備も……。」


 そこで初めて、洋服がところどころ溶かされていることに気付いたらしい。

 アリシアは真っ赤になって、そ、そうですね……、と言った。


「でも、聞いて下さい!凄い定着スクロールが出たんですよ!

 幸運10倍って凄くないですか!?

 それだけでも来た価値ありました!」


「そ、そうなんだ……。」


 そんな超絶レア定着スクロールをドロップするだなんて。

 さすが勇者候補というべきか。


 1つのダンジョンの中での、1日の定着スクロールのドロップ率は決まっていると言われている。


 そんな激レアがドロップしたのであれば、今日はもうレアドロップは望めないだろう。

 家に帰ってから眺めようと思っていたスクロールにも、期待出来そうにもなかった。


「僕も今日はもう帰るよ。

 予定外にサイクロプスと戦って、疲れちゃったしね。」


「あ……、ごめんなさい。

 私のせいで……。」


「いずれ戦うつもりだったし、自分の実力が試せて良かったし、問題ないよ。」


 申し訳なさそうにいうアリシアに、僕は手を振って笑ってみせた。


 狭い通路を2人して登って外に出た瞬間、

 ──雨予報(15秒前)

 スキルが反応した。


「あっ、雨!」


「えっ?」


 僕は彼女を思わず抱きかかえて、洞窟の入り口に戻った。


 15秒後、しっかりとザアザア降りの雨が急に降り出した。


「通り雨だと思うから、少し雨宿りしてから行こうか。」


「そ……そうですね……。」


 2人がすれ違うのがギリギリのダンジョンの入り口で、僕は無意識に思い切り、半裸のアリシアを抱きしめていた。


「ご、ごごごごご、ごめん!

 ──イテッ!」


 お互い真っ赤になって、僕はアリシアから離れようとしたけれど、通路が狭くて思い切り頭と腕を壁にぶつけてしまった。


 そして僕から離れて壁にぶつかったアリシアの、溶けかけていた服が、その拍子に床にパサリ……と落ちた。


「──キャーッ!!」


 アリシアが身をかがめて体を隠す。


「見、見てない!見てないから!」


 僕はアイテムバッグから、中で寝泊まりする可能性も考えて持って来ていた、薄いブランケットを、彼女に背を向けたまま差し出した。


「も、もう、こっちを向いても大丈夫ですよ?」


 振り向くと、アリシアはブランケットを体に巻き付けていた。


「装備、作り直さないと駄目だろ?

 それ、多分サイズあってないと思うから、今度はちゃんと測って貰った方がいいと思うよ?」


 雨が止むまでの間が気まずくて、他に話すことが思い浮かばなかった僕は、さっき気になった点をアリシアに伝えた。


「サイズ……、ちゃんと測って作って貰ったんです。

 でも、その、何でか急に、……大きくなっちゃって。」


 どことは聞くまい。


 雨がやんだあと、僕はこんな格好のアリシアを1人で帰らせるのが心配で、彼女が学園の寮に入るまで、学園の負担で寝泊まりしているという宿まで送って行くことにした。


 宿について、部屋の前まで送って別れようとした時、アリシアが僕の服の裾を掴んだ。


「──良かったら、その……。今度一緒に、防具作りに行ってくれませんか?

 色々詳しそうだし、教えて欲しいなって思って……。」


 アリシアが僕をじっと見つめている。


「う、うん、いいよ、僕でよければ……。」


 僕はアリシアと出かける約束をした。


────────────────────

 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 12

 HP 157

 MP 123

 攻撃力 75

 防御力 61

 俊敏性 54

 知力 84

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く モテる(猫限定) 目薬を外さない 美味しいお茶を淹れる 体臭が消せる 裸に見える 雨予報(15秒前) カツラを見抜ける 塩が見つかる 上手に嘘がつける ────────────────────


 ──こんなスキル、使えない……こともないのかも知れなかった。


 まだ冒険を続けますか?

 ▷はい

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