第9話 旅立ちへ

(さっそく何か入れてみるか?…あ!こりゃ凄い!これ時間遅延の術式まで組んであるみたいだぞ!)


「時間遅延?」


(ああそうだ!釣った魚を入れても腐らないし、熱い物を入れても冷めない。こりゃ相当レアだぞ!)


「凄いね! …あれ?でも、遅延ってことは時間が止まってるのと違うよね?」


(ん。まあな。でもそれこそ時間停止の付与だとか激レアなんだ。一生のうちに見かけることさえできないだろう。  で、えーっと。 …これは…本当に凄い!入れた物が大体1年で10分くらいしか時間が経ってないことになるぞ!)


「それじゃほとんど時間が止まってるのと一緒だね! これ、…お母さんが作ったのかな? ほら、収納ってなんか空間の魔法って感じがするんだけど、空の魔法と何か関係があるとか!」


(…いや、まあ確かに同じ空間って気がしないでもないが…日記を見た限りでも違うと思う。それに、実はよく魔法と魔術って同じに思われてるけど厳密に言えば違うんだ。魔法は魔法使いとかが魔力を使って実行するが魔術は魔法陣や術式を作ってそこに魔力を流して使う。魔力の少ない人でも沢山勉強すれば魔法陣を組めるし物や武器なんかに付与ができるんだ。だから魔法陣や術式を組める人のことを魔術師って呼ぶ。…まあ学者さんみたいな人達だな。 でもこんなスゴい術式を組めるなんて相当凄い魔術師…まてよ?そうか。)


「え?何かわかったの?」


(これはまた俺の推測だが、きっとこれはセナの母親がいた宮廷の魔術師が母親の為に作った物かもな。それなら鞄の新しさも性能も全部辻褄が合う。)


「うん!そう!きっとそうだね!ボクもそう思うよ!」


(まあ、ここでこれ以上考えても答えは出ないだろ。どうだ?さっそく試してみるか? …あ!)


「え?え?今度はなに?」


(いや。あのな?この小屋にはこの鞄しか置いてなかったよな?)


「うん。あ、包んであった布は外套だったよ?」


ボクは布を広げてみた。


(あ、本当だな。…ということは、だ。既にこの鞄の中に何か入っているんじゃないか? 空の気がしないんだが?)


「あっ、そうだね! って中身がわからない時はどうやって出すの?」


(魔力を少し流しながら《オールアウト》と唱えれば中身が全部出る。 あ!今はダメだぞ!)


「え?」


(何がどのくらい入ってるか不明なんだから、用心してもっと広い場所で出すべきだ。)


「あー!なるほど。そうだよね、あぶないあぶない!」


ボクは住処から少し離れた広場へ移動して《オールアウト》と唱えた。


ドドッ ドサドサドサッ


「何これ…たくさん出てきた!」


(これは…、セナの母親が使っていた物?それとも、いつでもこの場所から出られるように準備していた物なのか?)


そこにはテント、ランタン、簡単な調理器具、その他旅をするのに必要な、ありとあらゆる物が出てきた。

他にも武器や防具、魔石、魔鉱石、結界石、魔核もある。

アルトの話しだとこの石類は人間界で売ったらかなりのお金になるって。

いい宿に泊まって高い食堂でご飯食べてのんびりと、半年は過ごせる分のお金になるって。


大事にとっておこう。


「アルト?この武器や防具っているのかな?」


(うーん…正直いらないな。だが鞄に入るのなら入れておけばいいさ。お金に困ったら売ったりできるからな。…あと、その束ねてある弓矢はセナが使えるぞ?)


「え?ボク、ずっと前に練習したことあるけどダメだったよ?」


(いや、風の魔法で飛ばしたりするんだ。アイスニードルやファイアーランスを撃つより魔力消費が少なくて済むし、目立たない。)


「目立たないって?」


(あのな~セナ。 いや、これからはセリナって呼ぶか? お前は見た目ほぼ人間の子供だ。なのに魔力量は今現在で大人の魔法使い職の20倍程ある。しかもまだまだ増えるだろう。身体強化もかなり上手いし撃てる魔法の種類も結構網羅してる。まあ空の魔法とかレア属性は除いてだけど、これからの練習次第でそれすら使えるようになるかもな。)


「…うん。」


(要はだな。セリナみたいな美少女が超スピードで剣を振り回し、色々な種類のバカでかい魔法をガンガン撃ってたら、あっという間に噂になって人間界の悪い奴らに目を付けられるからな。悪目立ちにならないように、まぁ目立つなってことさ。)


「…。 アルト?…美少女とかって恥ずかしいよ。…それにボクをここまで強く育てたのアルトだよ?」


(それはその…言っただろ? セリナのこと男だと思って鍛えたんだ。まだ幼いセリナが汚い大人や魔獣、モンスターにやられないようにな。 そしたらさ、教えたら教えただけ覚えるじゃないか!色々な属性を使える万能な無色の魔力のことも判ったし魔力量もガンガン増えてどんどん成長してってさ、俺もセリナを教え鍛えるのが面白くなってしまってな。…済まなかったな。)


「ううん。実はボク、そのこともボクが生き延びていく為にあえて厳しく鍛えてくれたんだと思ってて。アルトには感謝してるんだよ?」


(そう言ってくれるなら、嬉しいよ。…なあセリナ?何だかこのまま、あと着替えと食料を鞄に入れたらすぐ出発できそうだな?)


「うん。そうだね。ボクのだけじゃなくお母さんの物や服や、あの下着も持っていけるね!」


(あの下着ってっ…。 ま、まあセリナが持っていきたいなら。)


「アルト…ボクがあの下着つけた姿を想像しちゃった?」


(うっ…コラ!からかうなって!)


「えへへっ。ごめんなさい。…さ、後は食料全部を鞄に入れたら出発だね!」


(おう。ところでセリナ? どこに向かうか決めてるのか?)


「んー。決めてるけどわからないのと、迷ってることがあるの。」


(?…どういうことだ?)


「ボク…アルトと一緒になってから村へ1度も行ってないんだ。 それは行きたくないとかじゃなく、行く必要がなくなっちゃって。」


(ん?話しが見えんな?)


「うん。それはアルトが色々な知恵や魔法を教えてくれて、油とか日用の消耗品を買わなくも済んでしまうから。」


(まあ、言われてみたら、そうだな。)


「ボクってずっと村の雑貨屋にいるお婆さんのところへ行ってたのは前に話したよね?」


(ああ。そういうことか。)


「うん。お婆さんはボクの本当のお婆さん。 そして、お父さんを谷底へ落としたのもお婆さん。…ボク…旅立つ前にお婆さんと話したほうがいいのかな? それともこのまま旅立っちゃったほうがいいのかな?」


「あともう1つ。 ボクお母さんがいた宮廷のある国に行ってみたい。行って何をするとか考えてないけど…でも、そこはどこにあるのか…。」


(…なるほどな。)


「アルト…ボク、どうしたらいいかな?」


(うーん。まず、セリナはその婆さんと何を話したいのか?が判断の分かれ目だと思う。)


「何を話したい…?」


(ああ。それもだ、俺は、婆さんはセリナが孫だと知らないと思ってる。 純血を好み混血を嫌うが為に自分の息子まで谷底へ落としたんだ。セリナに優しいのは普通に他種族と交流を持っているだけに過ぎないと思う。)


「うん。…そっか。」


(その婆さんがセリナを自分の孫だと知ったら…優しかったその表情を変え、攻撃してくるだろうな…セリナを殺す為に。)


「うん…そう…だよね。」


(そんな婆さんとセリナは何を話したい? それが判断の分かれ目だと思うよ。)


「……。ボク。 お婆さんと会わない。 会わないで旅立つよ。」


(…そうか。)


「でも、ボクがもっと大人になって心にも整理をつけたら。 その結果どうなるか、どうしたいか今はわからないけど。いつかきっと会いに行くよ。」


(うん。それでいいかもな。)


「…アルト!ありがとう! さ、出発しよう?」

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転生?したらホビット?でした やっきー @YAKKII

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