インスタントフィクションシアター
夜鳴ナク
第1幕 雨傘
ビニール傘を叩いて、雨が弾けた。
濡れた冷たいコンクリートを幾つもの靴が通り過ぎる。
待ち人は来ず。
曇天の街はこんなにも沢山の人を抱えているのに、私のあなたはいないのだ。
それでも待ち続けることに意味があると思わなければならないほど、この雨は冷たすぎた。
指先に雨粒が垂れ、小さな水がぶら下がる。
人肌で汚れていくその滴が私の手首で溶けて、同時に卑しいが下心が誰にも届かない深い底に沈殿していく。
仄暗いそれを撹拌して、意識を戻すように大きくため息を吐いた。
あなたのためならいくらでもこのまま、石のように待てるのに。
あなたのために待ち続けるこの瞬間が、何よりも辛いのに。
あなたのためと、言い訳するこの私の心が一番醜いと知っている。
いつの間にか雨雲が切れて、温い風が足元を流れた。
私一人、雨傘の下。
この傘を閉じてしまえば、私も群衆の一人になる。
待ち人は、もう来ない。
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