第46話 敵情視察
夜になってだいぶ涼しくなった。
夕食を済ませた俺たちは、ボロ家の庭に集合していた。集まってたのは、俺と椿さん、シルビアさんとララの4人だった。
「犬と子供はどうした?」
「今回は遠慮しますと……私も遠慮させていただきます」
「姫」
「はい」
ララが直立不動の姿勢を取る。
「犬と子供は良い。しかしなあ、姫。日本が今、危機的な状況なのはわかっているだろう。それはな。簡単に言うと帝国の失策が原因なのだ。私も尽力しているが、皇室の者が動かなくてどうする?」
「おっしゃる通りです。責任のある立場の者こそ積極的な行動をせねばなりません。帝国を代表して、私、ララ・アルマ・バーンスタインがこの騒動を収めてみせます」
「結構。さて、正蔵君。君はどうする? 日本の当事者として何を成すべきかな?」
「俺も率先して動くべきだと考えますが、その、自分の能力がよく分からないのです。こういった事に参加して役に立つのかどうか自信がありません」
「その気概だけでよい。やる気なのだな」
「はい」
「うむ。ではクレド様。いや椿様はどうされますか? ここで待機していても結構ですが」
「いえ。私は正蔵様について行きます」
「分かりました」
話はついたようだ。しかし、一体どうするんだろうか。今から敵戦艦に乗り込むらしい。それはそうなのかもしれないが、こちらには宇宙船なんてないし、宇宙服もない。皆が普段着だ。武器も何も持っていない。そんな状況に俺は悩んでしまった。しかめっ面をしていたのだと思う。
「正蔵。どうした。何か不安でもあるのか?」
「いえ、今から衛星軌道上の戦艦に行くんですよね。どうやってそこまで行くんですか? それと、宇宙服とか着ないでいいんですか? そこらへんはどうなんでしょうか。何も準備してないみたいで不安なんですけど」
シルビアさんはニヤニヤ笑いながら頷いた。
「なるほど、そういう事か。心配するな。ジャンプする」
「え?」
「概ね日本の上空2万キロあたりだ。地球の裏側だったり月の裏側じゃないから問題ない」
いや、位置はそうだけど、ジャンプって本当にジャンプなのか。不安はさらに強まっていく。
「正蔵様。大丈夫です。アセンションしてジャンプし、一気に戦艦内に侵入します」
「そうなの? 椿さん」
「ええ。問題ありません。アルマ帝国の法術使いの方は、直線的であれば瞬間的に移動することができます。ララ様が時々消えてしまうような素早い動きをされているのがコレです。厳密にはテレポートではないのですが、まあ似たような特殊能力ですね。万が一の場合は、私が三次元化して皆さんを保護できます。今は夏美さんから力を譲渡してもらってますから大丈夫です」
まあ、あの椿さんの力、アルマ・ガルム・クレドが実体化すれば戦艦だろうが制圧できるだろう。しかし、武器とか持って行かないのだろうか。そういえば、椿さんもララも武器を持って戦うのを見たことが無い。
「あの、シルビアさん。武器とかは、何か持って行かないのでしょうか?」
「武器か。武器だな。これだよ」
シルビアさんが取り出したのは短刀だった。刃渡りが20センチ位だろうか。両刃で丸っこい形だが刀身は黒かった。黒いが艶やかで、やや透明な感じもする。
「それは、黒曜石の刃ですか?」
「よく知ってるな。ほら」
そう言って刃をつまみ俺に柄の方を差し出す。俺はそれを受け取りまじまじと見つめる。吸い込まれそうな深い黒。しかし、透明感もある。見とれてしまった。非常に美しい。
シルビアさんはまた刃とひょいとつかみ、今度は鞘に納めた。よく見ると、鞘も柄も丁寧な装飾が施されている。戦闘用の物とは思えなかった。
「これが、黒剣の黒剣たる所以だ。まあ、ついてくれば分かる」
「それでは私がご案内します。皆さん、よろしいですか?」
シルビアさんが頷く。
その瞬間、俺たちは虹色の光に包まれた。以前、むつみ基地で経験したアセンションというやつだ。そのまま4人そろって急上昇していく。光のトンネルをくぐる感じだった。一瞬で、2万キロメートル上空にいるという戦艦が見えた。連合宇宙軍第3艦隊所属のバーダクライドだ。
大きい。とにかく大きい。
先に降伏したレーブル級巡洋艦、エイのような姿をしたやつと比較しても数十倍は大きい感じがする。全長は数千メートルあるのではないか。黒っぽい色、楕円形、円盤状。そういった形状のその姿はどこかで見たような気がする。それは古代の生物……三葉虫だ。
「さあ、中へ入ろう」
「分かりました。艦内は何処へ行きますか?」
「まずは例の新兵器を拝もうじゃないか」
「了解です。格納庫は? あそこですね。行きますよ!」
椿さんの一言で、俺達は戦艦の中へ吸い込まれていく。そして俺達は戦艦内部の格納庫らしき場所に着地した。
「三次元空間に戻りました。やっぱり、中はサル助の匂いでいっぱいです」
少しむくれている椿さんだった。
「それが新兵器でしょうか?」
ララが指をさす方向に、大きな人型をしたものがいた。身長は50メートル程であろうか。何か、ひょろ長い胴体にひょろ長い手足がついている。全身にチューブのような物がつながっており、それは僅かに光って見えた。体中が鱗で覆われ、ささくれ立っている。巨大なトカゲ人間といった風体だった。
一目見て分かった。それはロボットではない。
その一瞬、心に浮かんだ言葉は〝生物兵器〟だった。
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