第25話 歪な饗宴が始まる
「送ってくれたんだね。コーヒーでも入れるから、部屋に寄ってよ」
立ち上がった大樹の目には光が戻ってきていた。酔いはある程度は醒めたようだ。林姉妹は大樹の部屋に乗り込むつもりのようで、探検とか発掘とか、薄い本がどうとか色々口走っているのだが、大樹は嬉しそうに頷くだけだった。
俺はカードでタクシー代を払い、ララを背負って大樹の部屋へと向かった。
大樹の部屋は1LDKだ。学生の一人暮らしとしては贅沢な広さと設備がある。ここには何度か訪れた事があるのだが、散らかし放題でかなり汚かったと記憶していた。しかし、部屋の中に入り驚いてしまった。きれいに片付いており、掃除も行き届いていたのだ。大樹はこうなる事を予測して準備していたのだろうか。女子学生を部屋に誘い込む。そして、運が良ければその先もと期待していたのだろうか。
大樹は再び嘔吐しそうになってトイレに駆け込む。双子姉妹はコーヒーメーカーを見つけ、粉と水をセットした。そしてコーヒーカップやスプーン、砂糖とミルクを用意する。彼女達の手際が良い事に少し違和感を覚えた。こんな場合、何が何処にあるのか家主に質問するのが普通だ。すぐ見える場所にあったのは、コーヒーメーカーだけで、他のものは冷蔵庫や引き出しに仕舞ってあったからだ。もしかして、彼女達はこの部屋に訪れた事があるのかもしれない。
リビングには大きめの座卓があり、その脇に三人掛けのソファーもあった。俺はララをソファーに寝かせ、座卓の前に座る。そして、双子姉妹が入れてくれたコーヒーに砂糖とミルクを入れた。ふーふーと冷ましながらゆっくりと口をつける。コーヒーを飲んだのは俺一人で、双子姉妹は口も付けていないし大樹の分は用意されていなかった。
途端に体が熱くなってきた。何かおかしい。
そしてトイレから出てきた大樹は全裸だった。
「いやいや。吐いたらすっきりしたよ」
「お前、服を着ろよ。女の子の前だぞ」
「気にするなよ。どうせ脱ぐんだから」
「脱ぐって? お前、何する気だ?」
「何するって? そりゃセックスに決まってるだろ。裸の男女がする事は一つだ」
「はあ?」
日頃から、自分は童貞だと自慢していた大樹が何故こんな態度を取っているのだろうか。これじゃあ、大胆というより変態じゃないか。
「正蔵。お前が疑問に思うのは仕方がない。俺が童貞を捨てたのは一週間前だからな。相手はそこにいる美人姉妹さ」
「あ?」
訳が分からない。双子姉妹はと言うと、彼女達もワンピースを脱いで下着姿になっていたではないか。
「だから、お前も童貞を捨てろよ。彼女達は最高だ。俺はあの夜から一週間やりっぱなしだったんだぜ。しかし、まだやり足りねえ」
「いや、お前がやりたいんなら好きなだけやればいいじゃないか。俺を巻き込むなよ」
「連れない事を言うなよ。正蔵。お前だってやりたいんだろ? 相手は美人の双子姉妹だ。初体験が3Pとか夢みたいだろ? 我慢するなって。彼女達もその気になってるんだぜ」
恩恵と信恵。二人は俺の両側から擦り寄って来た。そして俺の二の腕に胸を押し付けてくる。俺は体中が熱くなり、急に性欲が爆発するような感覚に見舞われた。さっきのコーヒーだ。アレに何か盛られていたんだ。
「何を飲ませた?」
「あら気付いたの。でも、もう遅い」
信恵が俺の耳に舌を這わせながらつぶやく。そして恩恵は俺の左手を彼女の胸にあてがう。
「毒じゃないから大丈夫よ。ただの媚薬。何回でもできるわ」
「一晩中楽しみましょ」
信恵に唇を奪われた。キスだけで、気が狂いそうな快感に襲われる。そして大樹は、ソファに寝転がっているララに覆いかぶさった。
「やめろ大樹。ララはまだ子供だ」
「だから良いんじゃないか。めったにできる経験じゃない。双子姉妹はイイ女だったが処女じゃなかったからな。俺だって一度は処女を味わいたいんだ。しかも金髪なんて運がいい。あははは」
高笑いする大樹は、ララが着ていたワンピースを引き裂いた。それでもララは目覚めない。もしかして、ララにも何か飲ませていたのか?
「ララに何か飲ませたのか」
「ああ。睡眠薬をたっぷりとな。朝まで起きねえだろうよ」
合コンの最中に飲ませたのか。これはもう、計画的じゃないか。俺は咄嗟にララを助けようと身をよじった。しかし、体は思うように動かない。そして双子姉妹に押し倒されてしまった。
「ねえ。あんなガキんちょの事なんか忘れて、私を見て」
「気持ちよくしてあげる」
大声を出そうとしたが、それもできなくなってしまった。
これはヤバイ。俺だけではなく、ララまで被害に遭っては面目丸つぶれだ。
「ララちゃんのパンツ、いちご柄だあ。可愛い。すぐ脱がせてあげるからね。ひゃはは」
大樹の声が部屋に響く。俺は二人の美女に抑えられ、ララの様子をうかがう事すらできなかった。
その時、バチバチと火花が散るような音が弾け、部屋全体に稲光が走った。
落雷?
漏電?
何なのか分からない。俺は全身がビリビリと痺れたのだが、双子姉妹も同じく痺れたようで、俺から離れてしまった。大樹はというと、その雷光を直接浴びたようで、ララから離れてぶっ倒れてしまった。そしてピクピクと痙攣しているじゃないか。一体、何が起こったのだろうか。
俺はララの方を見た。下着姿の彼女がソファの前に立ち上がっていた。
「なぜ意識がある。成人男性でも一晩中目覚めない量を飲ませたはずだ」
ショルダーバッグから取り出したであろう、小型拳銃を構えた信恵がつぶやく。恩恵は台所にあった包丁を掴んで構えていた。
「やはり化け物だな。帝国最強戦力の通り名は伊達じゃなかった」
まさか、この二人はララの素性を知っていたというのか。思い当たるとすれば留学生のリュウだ。先週死亡が確認された
「こんなやり方で私を標的にするなど想定外だった」
ララがぼそりと呟く。しかし、その声は低めで大人の女性のようだった。
「正蔵が助けてくれるかと思ったが……。頼りにならんな」
「すみません」
とりあえず謝ってみたが、ララには睨まれた。しかし、これはどうしたらよいのか。俺は身体が痺れて動かない。大樹は痙攣して動けないようだが、双子姉妹は武器を構えているじゃないか。
「このような屈辱を受けた借りは返さねばならん。そこの女、お前が首謀者か?」
ララが指さしていたのは黒髪ストレートの方、信恵だった。今は小型のベレッタを構えている。まあ、俺が銃器に詳しい訳ではなく、自動拳銃のスライド部分にBERETTAと刻印されているのが見えただけだ。
「ええ、そうよ。そこでひっくり返っている唐変木も、そこにいる尻軽女も私の手駒。色々失敗が続いたけど、貴方が出てきたって事はどうやら核心部分に触ったからかな? うふふ、帝国最強戦力ちゃん」
その一言で、ララの全身に雷が迸った。ツインテールの金髪は逆立ち、かろうじて体に残っていたキャミソールも散り散りになって消し飛んでしまった。
「私の事を知っているなら話が早い。すぐに降伏せよ。三秒待ってやる」
「せっかちね。でも、降伏なんてしない」
「動くなよ。金ロリ」
茶髪の方、恩恵が俺の首筋に包丁を突き付けた。そして信恵が引き金を引いた。
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