第15話 真相と共闘

 バッタ顔の大尉が事情を話し始めた。


「地球の方にかいつまんで説明します。この先、約1キロメートルの地点にキャンプを設置しています。本来、我々は調査目的のためここに来ていたのですが、部隊の大半が離反してしまいました。我々の敵対派閥による妨害行為です。我々は大型の上陸用舟艇であり、サイバー戦専用装備を備えた指揮所でもある〝クロウラ〟を使用していますが、それを強奪されました。私が調査のため用意していたワームを悪用され、この一帯に通信障害と多数の機器停止を引き起こしました。彼らは、我々が本来保護すべき目標を強奪、もしくは破壊すべく行動しています。これは断固阻止せねばなりません」


 皆が頷く。そして大尉が続ける。


「連中は主にアルマ帝国内マントラ自治領、もしくはその母星である惑星サレストラ出身者だと推測されます。大柄な猿人の体躯がその証拠です。彼らの特徴は倫理観に乏しく、規律に対する遵守精神に劣り、出征時に暴行や強奪を繰り返すことです。残念なことに現在もこの近辺の女性を数名拉致しています。我々はこの不埒な行為を決して許すことができません。我々の名誉にかけ、拉致された人員の救出を最優先とします。次にクロウラの奪還、もしくは破壊を実行します」


 俺と椿さんは顔を見合わせる。地球人が拉致され暴行されているのか。


「早く助けないと」

「サル助ってああなのよ。いつも」

「知ってるんですか?」

「ええそうよ。だから最初に言ったじゃない。大嫌いだって」


 今度は大尉と軍曹が顔を見合わせて驚愕する。


「えっ。お嬢さんはサレストラのサル助を知ってるんですか?」

「まさか、アルマの女神様でしょうか?」

「クレド様?」


 軍曹、大尉、ゼリアの三名が同時に言った。アルマの女神クレドとは何のことなのか、俺にはさっぱりわからなかった。


「そうです。私がクレドです」


 椿さんが堂々と返事をした。それに対し、三人は片膝をつき左手を地面につけ右手の平を胸にあてる。これは、彼らの最敬礼ってことだろうか。


「直って下さい。詳しい話は後で。大尉殿、さっさとサル助を退治しますよ」


 三人は立ち上がって敬礼をした。これは地球と同じだ。

 軍曹が奪った装備を確認する。RPG7のようなロケット弾発射筒が一本と砲弾が2発。ビームライフルが2丁、実弾拳銃が2丁、円筒状のグリップのものが2本で、これは光剣らしい。俺はレイダー軍曹からビームライフルを受け取った。


「援護を頼む、麻痺にしておけば貴様でも扱えるだろう。素人に殺しはさせられんからな」


 大尉も頷く。俺も参戦するのか。こんな事ならサバゲー同好会にでも入っておけばよかった。銃の使い方なんて実際よくわからなかった。

 軍曹がロケット弾と光剣を持ち、俺とゼリアがライフルを持つ。大尉は拳銃を2丁。もう一本の光剣は椿さんに手渡された。


「これは両手で絞るように捻ると光剣が出ます。収納するときは逆です。手を離すと1秒後に自動で収納します。大変よく切れますので取り扱いにはご注意ください」

「はーい」


 右手を上げニコニコしながら返事をする椿さんである。


 俺たちは連中の居座るキャンプへと向かう。しばらく山道を歩くと明かりが見えてきた。そこには整地してあり広場となっていた。中央に大きな、大型バス3台分くらいある巨大な黒い芋虫がいた。あれが先ほど、大尉が話していたクロウラだろう。上陸用舟艇でありサイバー戦の指揮所だという。その周りにテントがいくつか立ててあり、その脇に手足を縛られた女性が数名倒れていた。彼女達を囲むように、猿人の兵士が数名立っている。手前のテントの中からは女性の悲鳴が聞こえてきた。今まさに暴行されているのだ。俺は腹の底から怒りがこみあげてくるのを感じ、椿さんを見る。椿さんは俺の目を見つめながら頷く。


「ここは私に任せてください。そこにいるサル助を全て片付けてきます。まず、私が飛び込んで注意をひきつけます。その隙に軍曹と正蔵様はテントの中の女性を救助、大尉殿は倒れている女性達を解放して。ゼリア君はここから麻痺ビームで援護ね。行くわよ!」


 椿さんはダッシュして目の前にいた猿人に飛び蹴りを食らわせる。そいつは首があらぬ方向へと折れ曲がり、そのまま倒れた。着地と同時に右隣りにいた猿人の右脚にローキックを放つ。蹴られた猿人は脚が折れたようで、その場で悶絶しながら転げまわる。その騒ぎに周囲の猿人が集まってくる。俺と軍曹は手前の悲鳴の聞こえたテントに入る。女性が服を破かれ、今まさに強姦されようとしていた。軍曹は光剣を抜き、女性を犯そうとしていた猿人の胸を刺した。その猿人は血を吐きながら痙攣し、動かなくなった。服をほとんど破かれた女性は悲鳴を上げながら縮こまっている。


「大丈夫だ。もう心配ない」


 そこにあった毛布を掛けてやり一緒にテントの外に出る。テントの外では、先に出た軍曹が、椿さんと一緒になって猿人兵士のと近接格闘戦を行っていた。椿さんのパンチが猿人の顎を砕き、ハイキックがあばらを砕く。軍曹の投げ技が炸裂し猿人は悶絶する。格闘ではかなわないと感じた猿人はビームライフルを使って射撃するのだが、椿さんの手前で見えない壁に阻まれビームは四散する。軍曹は光剣でビームを弾いている。どんな運動神経をしているんだろうか、とんでもない使い手だ。大尉は外にいた数名の女性の手錠を外し木陰から援護射撃をしているゼリアの元へと連れて行く。俺も救助した女性をそこへ連れて行った。拉致されていた女性は計6人だった。一人の猿人が俺たちの方へ向かって来たが、大尉が2丁拳銃の連射で仕留めた。


「ゼリアはここで援護を続けろ。正蔵君はこの女性たちを頼む。今からクロウラを奪還する。万一奪還できない場合はロケット弾で破壊しろ。いいなゼリア」

「了解」


 敬礼をしてゼリアが返事をする。大尉は巨大芋虫のようなクロウラへ走っていく。外の猿人はあらかた片づけたようで、椿さんと軍曹も大尉に続きクロウラへ向かう。その時クロウラ横の大型ハッチが上方に開き、一人の大男が出てきた。猿人の身長は平均2メートルくらいなのだが、それよりもかなり大きく3メートルくらいありそうだ。よく見ると、そいつは猿人ではなく金属製のロボットだった。ずんぐりとしたゴリラのような体形で、脚部は短く腕が異様に太くて長い。丸い頭には赤く光る眼球が3つあった。大尉が2丁拳銃で連射を浴びせるが、弾丸は弾かれてダメージを与えられない。ゼリアはビームライフルで狙撃した。しかし、装甲の表面を焦がすだけだった。軍曹は光剣を抜いて斬りかかるものの、光の刃は弾かれてしまって通らない。光剣を捨てた軍曹は肩から体当たりするのだが、そのロボットはびくともしない。ゴリラロボは軍曹を捕まえ放り投げた。軍曹は受け身を取って地面で一回転し、立ち上がったのだがその表情は厳しい。


「今の装備じゃ倒せん。どうする」

「戦闘用自動人形なんて積んでなかったはずなのに、どうして」


 軍曹もゼリアも困惑しているようだ。これは逃げるが勝ちかも? と思い逃走経路を確認するが、平川の大スギへ続く線上にそのゴリラロボが陣取っている。救助した女性を6人かかえて逃げるのは、どう考えても無理だった。

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