第18話 side最強の矛《ゲイボルグ》4


 ブレルへと戻ったハイドラグオーガ討伐隊は、そのままギルドへと直行。


 ギルドは今回の一件を本部へと報告するために、それぞれのパーティーごとにギルド職員が聞き取りを行った。


 その後、『空の彼方』と『空蝉』の2パーティーは討伐隊参加による報酬のみを受け取り、討伐に関する追加の報酬は後日改めてということで解散。


 一方、ロード、アリス、メルシーと最強の矛ゲイボルグの面々は、リュミナスによって応接室へ呼び出されていた。


「まずは今回の探索、及び討伐に協力してくれたことを感謝させてくれ。お陰でドラグオーガの進化個体という貴重なサンプルを入手し、脅威を取り除くこともできた」


「ケッ、そんな前置きはいいんだよ。それよりもこの面子が呼び出されたってことは、当然俺たちが訴えたそこの吸血コウモリヤローの陰湿な嫌がらせについてだよな??」


「そうか……。ああ、お前の推測通りの話だ。お前たちは件のドラグオーガ進化個体との戦闘中、ロードによる妨害を受けた結果、普段通りの動きができなくなった、そう言っていたな。間違いないか?」


「ああ、その通りだ! ったく、あんな状況下だってのにとんだ迷惑ヤローだぜ」


 ひどく不愉快そうに顔を顰めながら、ロードを睨みつけるマザマージら最強の矛ゲイボルグの3人。

 

「お陰であたいたちの評価はひどく傷つきかけたんだ。当然、それなりの罰を与えてくれるんだよな??」


「冒険者資格のはく奪くらいじゃ温いわ。せめて奴隷落ちか、鉱山での強制労働くらいは科してもらわないと」


「それでもちと甘いんじゃねぇか? こっちは殺人未遂で国に訴え出たっていいんだぜ??」


 さも当然だと言わんばかりに、なんの証拠もなくロードを犯罪者扱いする3人に苛立つアリスとメルシー。


 当のロードはどこ吹く風といった様子で、退屈そうにしているが。


「そうか……。お前たちの言い分はよーく理解できた。その上で、オレの見解を伝えよう。あの場に置いてロードの行動に不自然な点はなく、お前たちが告発した妨害や嫌がらせといった事実は認められない、だ」


 淡々と告げたリュミナスに、怒りを顕にして立ち上がるマザマージ。


「あぁ?! んなわけねぇだろうが!! 現に俺たちはいつも通りの動きができず、何度も怪我を負わされたんだぞ?! そいつの仕業じゃなきゃ、一体誰がやったってんだよ!!」


「それがそもそもの勘違いだろ? お前たちは今までが異常で、今が正常だと考えればつじつまが合うんだよ。先の報告にあったスケルトン戦についても、な」


「……それは、俺たちを馬鹿にしてんだよな?」


「バカになどしていないさ。事実を述べているだけだ」


 わざとらしくやれやれと肩を竦めながら、鼻で笑うリュミナス。


「ああ、そうかい。それならこっちにも考えがあるぜ。クラン本部に戻り次第この一件を報告し、『天翔』から正式に抗議および訴えさせてもらう!! もちろん、なんの根拠もなく俺たちを侮辱した、ギルドマスター代理……いや、リュミナス、お前のこともな!!!」


 ドンッと拳で強く机を叩きつけながら、怒りに満ちた瞳で宣言したマザーマジ。


 ヒリテスとシルストナも強く頷いており、マザマージの独断ではなく最強の矛ゲイボルグの総意であると物語っている。


「構わないさ、好きにすると良い。だが、オレも鬼じゃないからな。1つだけ教えておいてやるよ。当ギルドに置いて、お前たちの言う妨害、及びそれに類する行動をロードが行っていたかどうかについては、討伐隊に参加した者全員に聞き取りを行うよう指示している。その一件についても当然ギルド本部へと報告を行うし、お前たちが抗議・訴えを起こせばすぐに情報を取り寄せることができるだろう。良かったな?」


「そりゃ助かるね。せいぜい残り僅かのその地位に縋り付きながら、後悔するといいぜ」


 ニッと笑ったリュミナスをあざ笑ったマザマージは、勢いよく扉を開けるとひどく苛立った様子で出ていってしまった。


「やれやれ……わざわざ事を荒立ててどうするんだよ。あいつらは本気でクランを動かすぞ? なんせ、あんなでも一応『天翔』の副マスターなんだからな」


 ニヤニヤしているリュミナスを横目に、呆れた様子で呟くロード。


「それが狙いだと言ったら?」


「どういうことだ……?」


「さっき言ったろう? 聞き取りは、討伐隊に参加した者に行うよう指示した、と。あれだけ好き勝手なことをしておいて、『空の彼方』と『空蝉』の連中が『最強の矛ゲイボルグ』にとって好意的な意見を言ったと思うか?」


「まぁ言わんだろうな……」


「それどころか、全員がむしろやつらの行動が問題だった。何度危険に晒されたかわからないと抗議したそうだぞ? 被害者ですって抗議し訴えを起こしたくせに、逆に追及されるなんて最高だと思わねぇか??」


「お前、ヤなやつだな……」


 げんなりとした様子のロードとは対照的に、リュミナスはカカカと愉快そうに笑い、ずっと不機嫌だったアリスとメルシーも笑顔を見せた。


「なに、あいつらのせいで散々迷惑を被ったんだ。これくらいの仕返しなら、むしろ可愛いくらいじゃねぇか??」


 リュミナスの満足そうな笑みを見て、ロードはこいつだけは敵に回すのはやめようと心に誓うのだった。


 一方、クラン本部へと戻ったマザマージはすぐさまクランマスター室へと直行。


 どれほど自分たちがひどい扱いを受け、何度命の危機を感じたかわからないと力説。


 同時にリュミナスがいかに無能だったのかを被害者面して説明し、ギルドマスター代理という立場でありながら、犯罪者に味方していると訴えた。


 時間が経てば経つほど情報操作や隠蔽工作が行われる危険があり、このままでは自分たちだけでなく『天翔』の評判にも傷がつきかねないと説得することで、これまでの実績もありクランマスターであるイツツシを動かすことに成功。


 日を跨がずして、『天翔』は本当にギルド本部へと正式に抗議した。

 

 —―してしまったのだ。


 今回の討伐隊から得た情報をもとに上がった報告書について情報開示請求し、リュミナスについての疑惑を伝えた上で事実を究明するよう依頼。


 ギルド本部としても沽券に関わることであり、諜報部などを大量動員。

 異例の2日という短期間で、迅速かつ丁寧な徹底した調査が行われた結果、事の顛末が詳細に記された報告書が完成。


 3日後には、『天翔』クランマスターイツツシの元へとギルド本部から報告書が届けられることとなった―――。


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