第11話 S級ダンジョンへの潜行


 あれよこれよと決まってしまった、S級ダンジョンへの探索任務。


 物資などは全てギルド持ちということもあり、あっという間に準備が整ってしまった。


 そんなこんなで、気づけばS級ダンジョンの前に到着し、装備などの最終点検を行っているのである。


「はぁ……。どうしてこうなった……」


「なんだよ、まだうだうだ言ってんのか? 男ならさっさと腹括って、凛々しい顔の1つでもして見せやがれ」


 リュミナスにバンッと勢いよく背中を叩かれたせいで、より一層憂鬱な気分になったわ。


「ったく、気軽に言ってくれるよな。こちとらB級だぞ。本来ならS級ダンジョンなんて潜れる級位にいねーんだ。これでもしもおっちぬようなことでもあった日には、末代まで呪ってやるからな」


「カカカ、そりゃ結構。そんときゃ仕方ねぇから、オレ自ら成仏させてやるよ」


「大丈夫ですよ、ロードさん! どんな傷だって、私が治して見せますから!」


「本当にこのメンバーで大丈夫なのかしら……?」


 挑発的な視線を向けてくるリュミナスに、強い意気込みを見せるアリス。


 そんな二人を見て、メルシーはとても不安そうに首を傾げた。


 あん? 俺も含まれてただろうって?


 そんな訳ねーだろ、はっ倒すぞ。


「お遊びはこれくらいにして、いっちょ潜るとしようかね。移動中は先頭からメルシー、オレ、アリス、ロードの順だ。目的はS級ダンジョンに異変が起きていないかどうかの調査、及び件のブレーンスケルトンの捜索。あくまで後者はおまけだが、万が一場合には即座に撤退する。いいな?」


「あいよ」


「わかりました!」


「了解よ。異変の有無を確かめるということなら、魔物との戦闘は必要以上に避けない方がいいわよね?」


「ああ、そうしてくれると助かる。スケルトンに限らず、なんらかの異変が起きてれば魔物たちにも変化があるだろうからな。んじゃ、行くぞ」


 真剣な顔つきで俺たちを見回したリュミナスは、身の丈ほどもある大剣を背中に担ぐ。


 こうして、S級ダンジョンへの潜行を開始した俺たち。


 メルシーの斥候としての能力はカイエンが太鼓判を押すだけあり、1階層を抜けて2階層に到達するまでの間に十分に理解できた。


 それはリュミナスも同じだったようで、感心した様子でメルシーに意味深な視線を送っている。


「そういやぁ、今のうちに確認しときたいんだが」


「ん? なんだ?」


「リュミナスの今までの口ぶりを聞いていると、まるで進化個体がいないかのように聞こえるんだが。俺の気のせいか?」


「いや、気のせいじゃねぇよ。絶対にいないと断言するつもりはないが、8割方いないと思ってるのは確かだ」


「どういうことですか?」


 純真なアリスは気づいていなかったようで、首を傾げている。


「ひとつ、本当に進化個体がいると仮定していた場合、いくらなんでもこのメンバーで潜るのは危険すぎる点。ふたつ、騎士の派遣が決まっている以上、いるかどうかもわからないダンジョン内を捜索するメリットが薄い点。みっつ、街にカイエンがいるとはいえ、この状況下でギルドマスターが探索に出るのは愚策でしかない点。大きな理由はこれくらいだな」


「へぇ~……。冷静に状況判断してるじゃねぇか。ちっとは見直してやるよ」


「で、ではここへは何を……?」


「あん? そりゃ決まってんだろ、あいつらの報告が間違ってたって確認するためにだよ」


 さらりと言ってのけたリュミナスに、呆気に取られるアリス。


「ちょ、ちょっと待って! アタシも実物を見た訳じゃないけれど、確かにあの『最強の鉾ゲイボルグ』が4層で撤退に追い込まれたのは事実なのよ?! そんなの、進化直前の個体がいるくらいのことがないとありえないでしょう?!」


 メルシーは納得がいかないようで、必死に抗議する。


「オレもそう思ってたんだがなぁ。この嬢ちゃん――アリスの話を聞いて、腑に落ちたとこもあんだよ。あの言葉が真実であるなら、優秀なサポートを失ったあいつらが4層で撤退せざるを得ないほど追い込まれる理由にも筋が通ると思わねぇか?」


「それはそうかもしれないけれど……」


「お前さんだって、それに近しい何かを感じたからこそ、大クランである『天翔』や『最強の鉾ゲイボルグ』への加入を見送ったんじゃねぇのか?」


「……」


 リュミナスの問いに返す言葉が見つからないのか、メルシーは黙り込んでしまった。


 それからは誰一人言葉を発することなく、黙々と戦闘をこなしながら下層目指して進んでいく。


 道中で特に異常は見られず、3層を抜けて気づけば4層にたどり着いていた。


「対象がいたとされるのはここの階層だが……。今んとこは嬢ちゃんの言葉に真実味が増してきただけって感じだな」


「ま、油断せずに行こうぜ。件の個体がいようといなかろうと、ここはダンジョン――それもS級だ。どこで何が起きようがおかしくねぇ」


「ここじゃないですけど、がありますしね……」


 意味深なアリスの言葉に、リュミナスが興味深々といった様子で目を輝かせた時。


「来るわっ! 数……25! スケルトンよ!」


 異変を察知したメルシーが即座に戦闘態勢に入り、俺たちに情報共有しつつ周囲を見回した。


 つまり、全方位から襲ってくるってことね。


「ちぃとばかし数が多いな……。ロード、どうする? オレはお前の真価がみてぇんだ。こっからの指示はお前が出せ」


「はぁ?! いきなりすぎんだろ!」


 悪態をついてみるも、リュミナスの決定は覆りそうにない。 


「あーーーっ! アリス、補助呪文を! メルシーはアリスを守りつつ周囲の索敵、最も包囲網が薄い部分を探してくれ! リュミナスはともかく片っ端から討伐! 俺は遊撃を担当する!」


「わかりました!」


「了解よ」


「迎撃……ね。あいよ、任せな」


 獰猛な笑みを浮かべたリュミナスは、一番最初に現れたスケルトンに狙いを定めると勢いよく駆けだした。


 大剣の柄を握ると、大剣を背中で固定していた鞘代わりの装具、その留め具が自動で外れる。


 リュミナスが自由になった大剣を勢いよく振り下ろすと斬撃が発生し、目の前にいたスケルトンが二匹まとめて真っ二つに切り裂かれた。


「こりゃーあいつにぶつけときゃ問題なさそうだな……。そうと決まれば!」


 俺はすぐさまアリスたちに指示を出し、スケルトンを蹴散らしながら壁を背にできる場所まで移動。

 

 あとは流れ作業で、俺たちに向かってくるスケルトンを復活したやつらもろともリュミナスのほうへと誘導するだけだ。


 っていってもこいつらは知能が低いから、単純にリュミナスのほうへと上半身を放り投げる訳だが。


 スケルトンは首骨の中にある神経ならぬ魔経を切断しない限りいつまでも復活して動き続けるんだが、頸部は弱点なだけあっていかんせん硬い。


 繋ぎ目を狙えば斬れないことはないが、あのリュミナスバカヂカラなら大剣を振り回すだけで斬れるようだし、ここは頑張ってもらうとしよう。


 そんなこんなで、両腕と下半身を斬り落としてもカカカカと不気味に笑うスケルトンをリュミナスへと放り投げ、それをリュミナスが大剣で両断するという作業を続けること数分。


 最終的に30体以上にまで増えていたスケルトンは、見事に一掃されたのだった―――。


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