三十一日目③

 思わず、目を疑う美しさだった。菫色の長い髪を緩く二つに結び、薔薇をモチーフにしたであろう服装は彼女の美しさを更に引き立てている。豪華なベッドに上半身だけを起き上がらせ、こちらを見据える幼い少女は、幼い身体には見合わない落ち着いた大人の雰囲気が酷くアンバランスで、思わず守りたくなってしまう少女であった。


「結婚してくれッ!!」


 俺の隣にいたリクがいつの間にか居なくなったかと思うと、ベッドの美少女に求婚していた。何を言って居るのかわからないと思うが俺にもよう分からん。


「……あら、随分と今回のお客様は情熱的な方なのね。ちょっとドキドキしちゃったわ……ふふ、ありがとう王子様。気持ちは凄く嬉しいのだけれど……私、此処から出ちゃいけないのよ。だから、ごめんなさいね」


 驚いた様に目を数回瞬きさせると、柔和な微笑みはそのままに、リクの手を小さな手で包み込むように握りながら、少女は耳通りの良い綺麗な声でリクの求婚を断った。


「ねぇ、ローイ。私とお客様にお茶を持ってきてくれないかしら。シンったらいくら待っても戻らないのよ」


「畏まりました」


 軽くお辞儀をした後、ローイさんは出て行ってしまった。


「……改めまして、こんにちは。ええと、初めまして、かしら? 私の名前はエテルニテ。薔薇族の長をしているの、よろしくね」


 息を忘れる位、きっと俺は……俺達は、彼女に魅入られているんだろう。



 自己紹介を終え、エテルニテと俺たちはなんとなく打ち解けて来た気がする。


「ふふ、そうなの。ローイはね、」


「エテルニテ様、お茶とお茶菓子……後はシンネリア様をお持ち致しました」


 凄く悔しいタイミングでローイさんが帰って来た。後ろにはシンさんもいる。


「ありがとね、ローイ。大好きよ」


「エテルニテ様のご命令とあれば、従いますよ」


 全員にお茶とお菓子が配布され、シンさんとリクはエテルニテの両脇を固め、醜い争いをしている。俺とライムさんとロンとローイさんは、座り心地の良いソファで伸び伸びしている。


「ねえ、落ち着いてくれた所で本題に入るけれど……私にお願い事があるんでしょう? 」


 あざとく首を傾げ、にこりと微笑む少女が何故だかとても恐ろしく思えた。


「私とこの子、見ての通り獣人なんですけどぉ……村で迫害を受けているんですぅ。薔薇族の所有している森なら、迫害も無く過ごせるって噂を耳にしてぇ……」


「あら、そんな事で良いの?」


 エテルニテのポカンとした表情に年相応の愛らしさを感じる。


「薔薇族の出す蜜は万能薬だから、そっちかと思ったのだけれど……ふふ、安心だわ。」


「エテルニテ、蜜の話は控えた方が……」


 シンさんの焦りが篭った言葉に、エテルニテが微笑みを零すと、「良いのよ」とシンさんの口元に小さな指を当てた。


「……もう、陽が落ちるわね。シンも、もう帰らなきゃいけないでしょう? お客様方もそろそろ休んだ方が良いわ。シン、いつもの場所に案内してあげて」


 シンさんの口元から指を離すと、エテルニテは悪戯っぽく微笑みながら、シンさんに色々指示を出している。シンさんは心なしか頬が緩みまくり、俺の背を再びバシバシと叩きながら、客室とやらに案内し、上機嫌で去っていった。久々の一人部屋である。

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