第84話 目撃証言

 老婆の心当たりという言葉に、シェイドが反応する。


(お、早速情報なのだぞ! 順調なのであるな!)

(まだ有力情報とも言えないぞ)


 もしかしたら、この辺りが怪しいとは思ってはいた。

 だが、それは勘のようなものに過ぎない。

 ヴィリのような、理詰めで推理したわけではないのだ。


(この辺りは治安が悪いからな。普段から不審者は沢山いるからな)


 何しろドブさらいをしていただけで、チンピラに殺意を持って石を投げられたほどだ。

 治安があまり良くない地域なのは間違いない。

 怪しい奴も当然集まる。


(そうなのだな。だが、情報は多ければ多い欲しいのである)

(じゅぅ!)


 ジュジュまで念話で反応してくれる。

 真剣な顔でふんふんと鼻息を荒くしていた。


「怪しい奴のこと、念のために教えてくれるかい?」

「そうだねえ。三日ぐらい前のことなんだけどね……」


 そう前置きして、老婆は語り出す。


「男がこのあたりにやってきて、廃屋に住み込んだんだ。まあそれ自体は珍しくないんだけどね」

「何歳ぐらいの男だったの?」

「そこが怪しいんだよ。私は五十代ぐらいだと思ったんだけどね。うちの馬鹿息子は二十代の若者だって言うんだ」

「ほう」

「それに今顔を思い出そうとしても、思い出せないんだよ。私だけじゃなく馬鹿息子もだよ? 不思議なことにね」

「……魔法かもしれませんわね。まだ、可能性があると言うだけの話ですが」


 真剣に聞いていたリルがぼそりと言った。


「さすがは学院の優等生。頭が良いんだねえ」


 監督生を成績優秀者だと教えたので、老婆はリルのことを頭が良いと認識しているようだ。


「い、いえ、私なんて、まだまだですわ」

「リルは優秀だと思うぞ。頼りにしている」

「ありがとうございます、はい。がんばりますわ」

「で、だ。顔をごまかす魔法があるのか?」

「はい。光の屈折を利用したりとか……」

「難しそうだな」

「とても難しい魔法ですわ。幻術系の魔法もありますが、そちらの方がさらに難しいですわ」

「リルは使えるのか?」

「気合いを入れれば光の方は。幻術は一人相手なら、まだしも、……同時の多数の人にかけるとなると私には不可能ですわ」

「そうか。リルでも難しいか」


 リルは学院始って以来の天才とヴィリから聞いている。

 もし敵が魔法で顔をごまかしているならば、相当強い魔導師なのだろう。

 だが、果たして超一流の魔導師が、アンチ精霊、アンチ魔法の活動に与するだろうか


 もしかしたら、魔法では無く呪いの可能性もある。

 一般的に余り知られていない呪いの可能性に関しては、あとでこっそり話し合えばいい。


「光の魔法ってのどんなのだい?」

「じゅ~」


 老婆とジュジュが目を輝かせてリルに尋ねている。


「申し訳ないですが、相当疲れる魔法なのですわ。任務の途中なので……」

「そうかい、残念だね」

「じゅぅ」


 がっかりするジュジュを見て、シェイドが自慢げに尻尾を立てて言う。


(そのぐらい、あとで我が見せるのである!)

(じゅ?)

(我は闇の精霊王。光の魔法は我の得意分野なのだ)

(じゅうぅ!)


 ジュジュは尊敬のまなざしで、シェイドを見つめていた。

 闇とは光の無い状態。

 シェイドの闇はそういった物理的な単純な現象とは違う。

 だが、闇と光が非常に深い関係にあるのは間違いない。


(シェイド。もし敵が光の魔法の使い手なら、対策は頼む)

(任せるのだ!)


 本当に光魔法の使い手なら、安心だ。

 だが、多くの人に、それぞれ全く異なる印象を持たせたのだ。

 魔法だったとしても、光魔法ではない気がする。


「魔法かどうかはともかくとして、年齢不詳の怪しい男が住み着いたと」

「そうだね。もう一つ怪しいところがあってね……。ボロボロにみえる服を着てたんだけどね。生地は上等だったんだよ」

「それは皆が?」

「そうだね、服装に関しての感想は、皆大差なかったよ」


 外見をごまかす魔法か呪いは顔だけにかかっているらしい。

 つまり、恐らく服は見た目通りなのだろう。


「落ちぶれた貴族とかかしら?」


 リルは上等な服を持っていた貴族が落ちぶれて、昔の服をずっと着ていたからボロボロになったと推理したらしい。


「その可能性はあるが、普通は上等な服ならば売るかな」


 俺の家が没落したとき、高価な服類はまとめて売ったものだ。

 今までの服を全て売って、新しい庶民の服に買い換えても、二ヶ月ぐらい余裕で暮らせるぐらいの金は残った。

 上級じゃなくとも貴族階級の服は高く売れるのである。

 だからこそ、身ぐるみ剥ぐという強盗が成り立つのだ。


「普段の服を敢えて汚した可能性のほうが高いかもしれないな」

「さすが先生。私もそう思ったんだよ。違和感があったんだ」

「そいつが俺たちの探している奴らかどうかは別にして、一応調べておくべきだな」


 確証はないが他に情報は無いのだ。

 調べるに越したことはない。


「もし、悪いことをしている奴だったら、適当にしばいておいておくれ」

「わかった。もし犯罪者ならね」


 それから、俺たちはその怪しい人物の目撃場所を細かく聞いて、老婆と別れたのだった。

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