「ギランクスが落ちたか。まあいい」

　レンディの目の前に立つそれは人間の三人分の身長と幅の体格をしていた。

「よう小娘。カリュス達が世話になっているようだな」

　三つ目の口のない男の声がレンディの耳に響いた。

「貴様がカミラガロルか」

「ほお、他の兵が驚いているのに平気なのか。さすが長老の娘といったところか」

「ギランクスの技術を見ればもはや何も驚かん。しかしもっといい男だと期待していたが残念だよ」

「ふん、大した小娘だ」

「それで何の用だ。人間が憎くて自ら殺しに来たのか」

「ああ、そうだよ。私達を追いやった人間の体を切り裂いてやる為にな！」

　急に女の声に変わった。レンディは目を閉じた。

「デリミストとかいう女か。意識が同化したか。ギランクスでカミラガロルと幸せに暮らせばいいものを」

「もちろんそうするよ、お前達を殺してな！」

　カミラガロルはレンディに殴り掛かった。レンディは目を伏せたままよけてカミラガロルの腕を切りつけた。

「固い！　剣は効かないのか」

「察するのが早いな。竜の鱗の剣でも簡単に傷つけられないぞ」

「はあああ！」

　レンディはカミラガロルに何度も剣を突き立てたが効かなかった。

　他の兵達の銃の攻撃も跳ね返されてしまった。

「この化け物が！」

　レンディは剣を振り下ろしたがカミラガロルの腕で止められた上に腹に蹴り入れられた。

「ぐおっ」レンディはその場にうずくまった。

「ゼラミアの鎧に助けられたな。だが私には勝てないよ。さよなら。可愛い剣士さん」

　カミラガロルがレンディの頭を掴んだ。

「レンディ様！」

　兵達の声は聞こえずレンディはぐったりとしていた。

「レンディ！」

　一人の少年の声にレンディの手がピクッと動いた。

　カミラガロルの頭上をスレイサが飛んで周辺に沢山のランマンを落とした。

「何だ！」

　カミラガロルはレンディを放して身構えた。

　スレイサが着地して操縦席からフェルサが飛び降りて走って来た。

「何だ、お前か。とっとと死んであの世で妹と暮らしな！」

　カミラガロルがフェルサに飛びかかった。

「その声はデリミストか！　また会えて嬉しいよ。今度こそ殺してやる」

　フェルサは剣を横に振った。剣の中から小さな金属の球体がバラバラと飛び出した。

「そんな小細工」

　カミラガロルが球に触れるとバチバチと爆発して閃光が飛び散った。

「うわっ！」

　カミラガロルが目を閉じた隙にフェルサは剣を腹に刺したがすぐに弾かれた。

「固い！　まだだ、いくぜ」

　フェルサは腰に下げた装置を操作した。地面に横たわったランマンが動き出した。

　沢山の無人のランマンがカミラガロルの体に乗って取り押さえた。

「ええい、鬱陶しい！」

「フェルサ、良くやった！　うおおお！」

　レンディがカミラガロルの体に乗って渾身の力でカミラガロルの右目を剣で貫いた。

「ぐわっ！」

　デリミストが叫びながら勢いよく飛び起きた。

　レンディは咄嗟に後ずさりした。ふらついたレンディを兵達が抱えてその場を離れた。

「フェルサ、頼むぞ」

　レンディは呟いて気を失った。

　無人のランマンがカミラガロルの体に乗りかかろうとした。

「ええい、邪魔だ！」

　カミラガロルは次々とランマンをなぎ払って立ち上がった。

「デリミスト！　よくもシャルマを」

　フェルサの目つきが険しくなった。

「ふん、元々死んでいたから構わないだろ。意識だけの姿で生きているなんて不幸だよ。年を取らずに兄と慕う姿を見てお前も辛いだろ」

　デリミストが赤い目を細めて言った。

「さすが冷たい女の考える事だ。実に合理的だ」

　空から男の声がした。

「カリュス！」

　フェルサは驚いた。カリュスが黒い翼を折りたたんで地上に降りた。

「俺はカミラガロルの復活を望んだが、お前と同化する事など望んでいなかった。その意識だけで生きている不幸な体ごと消してやろう」

「いつか裏切ると思っていたよ。いいだろう」

　カリュスとカミラガロルの戦いが始まった。

　戦いはカミラガロルが僅差で上だった。周辺の魔物達との戦いはホルベックをはじめとする戦いを嫌うゼロラ人が参戦して終息に向かっていた。

「もらった！」

　カリュスが剣でカミラガロルの左目を刺した。

「うっ！　甘いわ！」

　カミラガロルの腕の付け根から長い刃が飛び出した。

「うわああ！」

　両手を切断されたカリュスが叫んでその場にひざまずいた。

「こいつは俺が倒す！」

　カリュスを飛び越えてフェルサがカミラガロルの額の目を狙って剣を振り下ろした。

「ふん、甘いわ」

　カミラガロルはフェルサの腹を拳で殴り、顎を思いきり蹴り上げた。

「うっ！」

　フェルサは小さく呻いて上空に舞い上がった。

「ハハハ、そのまま落ちて死ね」

　デリミストの笑い声が響いた。

　フェルサの体が不自然に宙で止まった。

「何だ！」

　カリュスはフェルサを見て驚いた。

「シュルギマトラか！」

　デリミストの声でレンディは目を覚ました。

「うっ、戦いは……フェルサ！」

　宙に浮かんだフェルサの姿にレンディは驚いた。

　フェルサは物凄い勢いで金色の竜がいる方向に引き寄せられた。

「おのれ、お前まで私達の邪魔をするのか」

　デリミストは叫んだ。

　フェルサの体は竜の手前まで来た。

　竜は頭を下に傾けて小さな角を伸ばした。

「うっ！」

　気を失ったフェルサは小さく呻いた。

　フェルサの体は角に貫かれてぐったりとなった。