第5話


重厚感あふれるドアは、見た目のわりに軽かった印象だ。


ドアを開けると、そこには白のワンピースに近いドレスを着た女性が立っていた。



「こちらにいらっしゃい」



手招きされたので、その女性の近くまで向かう。



「ど、どうも」


「五木さんですね。まずは、現状をどれだけ理解してますか?」


「現状…?」



現状と言われても、おかしなことばかりで、これが夢だと疑いたくなるレベルだ。


とはいえ、春人おじさんや、駅での記憶…。



「わたし、死んだんですか?」


「あら、随分と平静なんですね」



それは多分、実感できていないからだろう。


夢という可能性もあるし、まだ生死を彷徨っているだけで、完全に死んでいないかもしれない。いわゆる臨死体験というやつかもしれない。


だけど…。



「五木さんは死にました。そして私は、人間世界で言う閻魔大王にあたる人物です。親しみを込めて、みんな大王って呼ぶんですよ」



その人は、現実をはっきりと口にした。


私は死んだらしい。


だけど、それでもパニックになるとかそういうことはなかった。


そんなことよりも、こんな疑問が浮かんだ。



「閻魔様って、男の人じゃないんですか?」



私って、のんきですね。


自分が死んだことより、そんなことに驚いている。



「疑問に答えましょう。残念ながら、私は女っぽい見た目をしていますよね」


「っぽい?」


「私は人間ではありません。そして生物でもありません。故に性別はないのです」


「そ、そうなんですか」


「話は変わりますが、こちら、あなたの葬式の際、お供えされた品々になります。これは貴方のものです。自由に見て、手にとって構いませんよ」



大王が目線を後ろに向けると、そこには大量の花と、私が使っていた日用品、友達と撮った写真などが並べられていた。



「あなたは、愛されていたのですね」


「どうでしょうか。でも、私が死んだ直後、みんながどんな反応をしたのかは気になりますね。ちょっと悔いも残ってますし」


「悔いですか。どんな悔いなんですか?」


「好きな人に、想いを伝えられなかったんです」


「あら、青春を謳歌する高校生らしい悔いですね」


「もっと、早く想いを伝えておけば良かったかな」



私が本当に死んだのかはわからない。


だけど、私が電車にはねられたのは確実だ。こればかりは、時間と共に、直前までの記憶がはっきりとしてきている。


状況的に、生き残れるはずがない。



「すみません、なんか、悔しくて悔しくて」



自然と胸が強く押し付けられるような感覚になった。


そして、抑える間もなく涙があふれてくる。


自分が死んだという事実より、稔くんに想いを伝えられなかった、稔くんともう会えないという事実の方が、よほど悲しく涙が溢れてくる。


そんな私を、優しくなでてくれる大王。そして、その大王がこんな提案をしてきた。



「あなたが死んだ直後の世界に、一時的にですけど、行ってみますか?」


「え…、そんなこと、できるんですか?」


「えぇ。元々、こういう不幸な事故で亡くなった人には、できる範囲でのお願いを、一つだけ叶える義務が私にはあるんです」


「それは、そのできる範囲なんですか?」


「もちろんです。ただし、色々と制約はありますけどね」


「わかりました。私を、元の世界に戻らせてください」

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