第12話 アニメ化するならキャラを立てなきゃね⑥~個性と巨乳~

「アニメ化するなら、キャラを立てなくちゃ!」



 風呂上りのエマは、牛乳をぐっと飲みほしてから、ふーと息を吐き、それからスマホに向かって話しかけた。



「レゴちゃんは、もう十分キャラ立っているよ」


「いやいや、アニメ的にはまだまだ足りないよ」


「アニメ的に?」


「そう。アニメのキャラはね、とがっていてなんぼ。あー、あの〇〇な奴ね、っと一言で表せる個性が必要なのよ。それは外見でもいいし、性格でもいいし、特技でも、役職でもいいけれど、何かしらのわかりやすいキャラ、そいつを突き立てる。これこそ、アニメ化におけるキャラ立ち!」


「確かに、パッと言えるキャラっているもんね。麦わらゴム人間とか、メガネ萌え少年探偵とか」


「そうそう。無自覚な神様団長とか、巨人絶対駆逐くちくするマンとか、だってばよ忍者とか、金髪ヘルメット吸血鬼とか、M禿げツンデレ王子とか、だっちゃビキニとか、絶対順守の仮面王子とか、3倍赤い仮面とか、もみあげ怪盗とか、空飛ぶ豚とか、え? 今第何部だっけ? てか、初代とどうつながっての? あー、もう家系図見てもわかんないわ。まぁ、おもしろいから読んでるけど的な一族とか」


「最後の一言じゃなくない?」


「長いのも含めてのキャラなの」


「てか、けっこうマニアックじゃない? エマ、ほとんどわかんなかったよ」


「え? 嘘? わりとメジャーどころを言ったんだけど」


「空飛ぶ豚とかはわかったよ。すごい失礼だと思うけど」


「それでわかるってことは、大事なところを抑えていることなんだよ。つまり、を表現できている。これがキャラが立っているってこと」


「なるほど」


「まぁ、万人が思い浮かべるためには、万人が知っている必要があるんだけどね。つまるところ認知度さえあれば、ある程度、キャラ薄くてもカバーできるんではないかという突っ込みは置いておいて」


「誰でも同じ人を思い浮かべる表現って難しいね。たとえば、エマだったら、女子高生とかだけど」


「女子高生では、私やホリーだって当てはまっちゃうからね。もっとエマだけの個性を付け加えないと」


「美人とか?」


「お、おう。えっと、まぁ、美人かどうか主観だからね。まだ、弱いかな。もっと絞らないと」


「もっとか。でも、あんまりたくさん付け加えたらだめなんでしょ。一言くらいで言えないと」


「そう。とは言いつつも、単純な個性は既にいろいろやられ尽くされているからね。今から、キャラ付けするにはアンドをとらないと」


「アンド?」


「つまり、単なる女子高生ではなく、金髪&ツインテール&殺し屋&女子高生とかね。こうやって3つ4つ重ねると一つの作品の一つのキャラクターに決まるわけ」


「エマは、そのキャラクターが何なのかわからないけど、そうなんだ。じゃ、エマも何か足さないとな」


「あ、これもわからないんだ。けっこう良作なんだけど。うん、まぁ、いいけどさ」


「うーん。重ねるか。高校生でしょ、美人でしょ、かわいいでしょ、キュートでしょ、頭がよくて、バスケがうまくて、友達いっぱいで、後輩からしたわれていて」


「ストップ! ストップストップ! 自己評価高過ぎだろ! 何だ、その自信は! どこからいてくる! 分けてほしいくらいだわ!」


「いいよー、どうぞ」


「わーい、ありがと。じゃねぇよ! ちゃんと自分の特徴をとらえていないとだめなの!」


「えー、でも、エマ、かわいいでしょ」


「うっ! 確かにかわいいけど! くっそ! 普通の女子ならば調を、臆面おくめんもなく使えてしまって、かつ、こちらとしても反論できないところがむかつく!」


「へっへーん」


「わかった、かわいいは許すけど美人は許さん。そいつはミスコン優勝してから使う称号じゃい」


「えー、あれ、3年しか優勝できない決まりだから、エマ、来年にならないと使えないじゃん」


「既に確定事項のように言いやがって。見てろ。私が全力でネガキャンしてやるからな」


「ちょっとやめてよ。レゴちゃん、マジでやるでしょ」


「今わかったんだけど、私って、誰もやらないことをやれてしまう勇敢な英雄キャラじゃない?」


「いや、どちらかというと、友達の幸せであろうと平気で踏みにじれる極悪キャラじゃないかな?」


「違うよ。私は、エマと対等な関係でいたいの。だから、エマを自分のところまで引きずり下ろしたいだけだよ」


「うん。何も違わない。何も違わないよ、レゴちゃん」


「違うといえば、頭いいは違うから」


「あ、ひどーい」


「うん、これはひどくない。反論できる根拠が教科の数だけ思いつく。とりあえず、毎回赤点取って、再試の手伝いさせられている身としてない」


「ぐぐぐ」


「あと、バスケうまいもない。反論できる根拠が100個は思いつく。とりあえず、そのサボり癖をどうにかしてから言ってほしい。今日は汗かく気分じゃないからって帰るのは、さすがにない。緩い部活とはいえ、ない」


「いや、あれは、制汗スプレー忘れちゃったからで。それに、さっきはあぁ言ったけど、エマ、運動はそんなに得意じゃないし」


「長い時間練習すればいいってもんじゃないけど、最低限の練習もしない奴に、運動の得意不得意を語ってほしくない」


「うー、バスケの話になるとレゴちゃんは途端とたんに厳しくなるよー」


「チームスポーツだからね。全体のレベルがあがらないと上にはいけないんだよ。というわけで、その走る度に揺れる乳袋ちちぶくろを明日までにパージしてきて。話はそれからだから」


「バスケ関係なくない!?」


「バスケ部じゃなくて、女子バスケ部だから。女子としてのマナーだから。みんな外してきてるから!」


「いや、みんな小さいだけでしょ」


「あー、言っちゃいましたー。言ってはいけないことを言ってしまいましたー。私は、友達を一人失ってしまうことが悲しいですー」


「やっ! ちょっと待って! 今のなし! えっとねー、あの、その、そう! バスケはチームスポーツだから! エマが、全体のレベルを引き上げているんだよ! だから、結果的にうちのバスケ部はみんな巨乳だよ!」


「な、何だ、その天才的理論!?」


「で、でしょ?」


「エマ、あんた、天才だったのか!」


「そ、そう言ったじゃん」


「それじゃ、谷間とは無縁の私も、巨乳キャラでいいってことなの?」


「いいんだよ。だって、エマ達、同じチームじゃん」


「エマ……。私、今、初めてエマと友達でよかったと思えたよ」


「エマは、何でレゴちゃんと友達なんだろうって思ったよ」



 はぁ、とため息をついたところで、エマは、スマホの画面にホリーのアイコンがあることに気づいた。そういえば、グループ通話にしていたのだ。しかし、ホリーはまだ一言も発していない。


 しかし、なぜ、そのことに今気づいたのかといえば、ホリーの気配がしたからだ。そろそろ何かホリーが口を挟みそうな、そんな気配。第六感がそう告げた。


 それは正しくて、ホリーの声が、ぼそりとスマホから放たれる。



「おまえら、もう寝ろ」

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