3 shadow

protagonist: architect - sentinel:


 昼間の天王洲アイルのウッドデッキに、彼は腰かげている。僕はその隣に座って訊ねた。

主人公「なんでまた、こんなところに?」

栗原「陽子は昔、ここのホテルに住んでいたからな」

 僕は振り返り、見上げる。その巨大な摩天楼を。

主人公「僕らのように、ですか」

栗原「ああ。むしろお前らが、俺らのように生きてきたのさ」

主人公「そういえばそうでしたね」

 栗原さんは言った。

栗原「金がある場合、人が隠れるなら、人がいない場所ではなく、人が行き交う場所に隠れたほうがいい。そこはアクセスがとてもよく、同時に、さまざまなプライベートを守る仕組みが働く。たとえばホテルなんかがそうだ。そこのオーナーや支配人と渡りがつけば、ほとんどどうとでもなる」

主人公「顔が割れない限りは、ですかね?」

栗原「まあそういうものさ。だが、顔が割れている連中も、いろんな変装をしていることが多い。帽子を被られたり眼鏡をかけられるだけで、人間の認識をごまかせる。特に今はマスクの時代だ。人を特定するのはとても難しい。最後に残るのは、彼らの仕草だけだ」

主人公「仕草を共有するのは、とても難しそうですね」

栗原「イメージがつかないからな。そういう意味で都会は地方と比べても、孤立するのがとても簡単だ。人が多すぎて、誰がどんな人間か気付けない。孤立と自立を混同した社会の功罪ともいえるな」

 僕は答える。

主人公「まるで、通貨の流動のように、ですか」

 栗原は振り返ってくる。

栗原「そっちの例えをしてくるのはお前くらいだぞ、建築家アーキテクト

主人公「職業業ですかね」

 栗原は何かを考えたかと思うと、こう言った。

栗原「通貨の流動か。ある意味ホテルとの特別な関係も、通貨の存在しない場所や、政府が介入したがらない領域エリアだ。俺たちは法的にも独裁国家に至ることはできず、人民から報復されるようになっている。そうしたプライバシーの構築された世界もまた、地方ではなく、都心の影から生まれる。類似品は……たとえば、スラムとか」

 僕は首を振った。

主人公「この日本ではほかの国のようなスラム街、マココのような場所は存在していません」

 そこで、栗原さんは言った。

栗原「だとしたら、金の取引がすでに完了していたり、既存の取引を拡張している場所と捉えることは?」

 僕は首を振る。

主人公「そんな場所なんて、彼女は……」

 その時、ふと記憶が蘇る。それはこの仕事を始めたときのことだ。

主人公『僕はこれからどこで暮らせばいい?』

 彼女はすかさずこう答えてくる。

未冷先生『ここ』

 僕は栗原さんに答える。

主人公「我々の住んでいるホテルは関係するかもしれません」

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