5 deduction

protagonist:


 東京駅から連なる、異国とも呼べそうなほどに区画整備された美しい道路と街並み。旧財閥がつくりあげたこの景色を、衛理や真依とともに歩いているとき、未冷からメッセージが送られてくる。

未冷先生『お仕事、がんばってね』

 僕は危険作業しそうな猫のキャラのスタンプを送る。彼女からも同じようなスタンプが送られてくるのを、今度はApple Watchが受け取った。

 前を歩く衛理はどこかへ電話をかけている。

衛理「情報を持っていますがこんなところでやりとりして逆探知されるわけにもいきませんから。ええ、ではよろしく」

 彼女が電話を切り、僕たちへと頷いてくる。

衛理「行きましょうか」

 僕は訊ねる。

主人公「ねえ、ほんとにポロシャツとスラックスと革靴、おまけに普通のリュックで大丈夫なのかな」

衛理「あんたはどうせエンジニアとしかみられないから平気」

 そういう黒い布マスクをした衛理の気合の入り具合……普段のスポーツ服やランニングシューズの奇抜な色をスキニージーンズと黒スニーカーで完璧に抑制し、フォーマルでサイズの良く合っているジャケットと完璧に合わせた、上品さと機能的であることのどちらも取る服装……を見ながら僕はぼやく。

主人公「自分はバリバリに決めているくせに」

 衛理と似た方向性でオフィスカジュアルを決め込んでいる白色のマスクの真依先輩……抑えめな白のブラウスにワイドパンツ、さらに白のランニングシューズでニットコートを着こなしている……も追い討ちしてくる。

真依先輩「どうせ着飾ってもバレる。知性でカバーすればいい」

主人公「僕の暗号名コードネームはウォズニアックでもないんだけどなあ」

 そんなことを僕らは言いながら巨大な交差点を通り、予定通りに有楽町のミッドタウンのあまりにも新しすぎる街並みへと歩みを進めていく。


 案内された、最新オフィス区画の整った巨大な会議室。僕たちはコーヒーに口をつけることなく待ち続ける。

 そのコーヒーの湯気が見えなくなってきたな、と思っていたころ。男が二名が入ってきながら、上座へと腰がける。

社長「社長の新川しんかわです。それで、暗号通貨が我々の取引所に関して、電話口で話せない内容というのは……」

 衛理が答える。

衛理「嘘に決まってるじゃないですか。あんたに興味のある警察も官僚も、いない」

 呆然とする社長に、僕は言った。

主人公「ここの取引所から複数の犯罪組織が暗号通貨を取引しているのはわかっています。法と条例によって車のローンひとつまともに組めないようにされた彼らの身分。その証明書と口座が偽造だと知りながら、なぜ取引をやめないんです?」

 大きく息をつき、社長は訊ねてくる。

社長「君たちの名前は?」

 沈黙する僕らに社長は肩をすくめる。

社長「名刺もなしか?」

 衛理は取り出した。携帯のほうだったが。通話画面に110と番号が表示されているiPhoneのグラフィックユーザーインターフェースをじっと見つめながら、社長が口を開いた。

社長「なぜこの取引所と考えた」

 真依先輩が答える。

真依先輩「連中の利用していたブラウザのブックマークから、ここの暗号通貨アドレスの候補を絞って取引の裏を取りました」

社長「いい推理だ」

 真依先輩は即座に切り返す。

真依先輩「暗号通貨のアドレスは変わっていく仕様ですがね」

 社長は平静を装いながら言った。

社長「はめられたな。ところで、これは交渉じゃないな?」

 衛理が告げる。

衛理「じゃあ、警察署で話してくれる?女子高生におどされましたって……」

 衛理は通話開始のボタンを押そうとしたとき、社長は言った。

社長「いや、無理だ。話せない」

 衛理がゆっくり続ける。

衛理「話せない?じゃあその大切な秘密を抱えて、刑務所に行けば?」

 そのとき、横に座っていた男がゆっくりと制するように手をあげる。

ナカモト「取引の情報を話すのは、この暗号通貨経済における脚本スクリプトに反する」

 舌打ちする衛理に、僕は制するように手を掲げた。

主人公「脚本スクリプトか。ならあなたが話してください」

ナカモト「その前に、彼を外してあげて。怖がっているからね」

 衛理は携帯をしまっていく。震える社長に、彼は言った。

ナカモト「取締役室を使わせてもらうよ」

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