第19話 私の好きな空。
もう、空ってやっぱりかっこいいよねー。
ほんと主人公みたい。
空が風呂に逃げた後、そんなことを私は考えていた。
「カッコつけで、カッコよくて、優しくて少し意地悪。でもそんな空だから私は好きになったんだよね」
空は小学校の時に普通の生活にすら戻れるかどうかわからない怪我をした。
大好きなサッカーはできなくなり、なんなら一生出来なくなるかもしれないと言われていた。
それを言われた後、空はみんなの前では「大丈夫だって! 俺がそんなことでサッカーできなくなるわけないだろ!」って笑ってた。
私にはそれが強がりに見えた。
悔しさも、苦しみも、絶望も、涙も全て一人で抱え込もうとしているように。
私はみんなが帰った後、忘れ物をしたので空の病室に行った。
行くと空の目から涙が溢れていた。
「なんで、なんで俺が……これからだってのに……」
私はいつもの明るい空しか知らなかった。
だから、その時やっぱり空も私たちと同じなんだなって思った。
傷ついて悲しんで悔しんで苦しんで。
空……やっぱり辛いんだろうな。
泣いている空に私は話しかけることができなかった。
だってこんな空は初めてだったから。
何ヶ月か経った冬のある日、私がお見舞いに行くと空は担当の医師に質問していた。
「俺はサッカーができるようになりますか?」
震えるように聞こえるその声。
この答えで何かを決めようとしている。
私には、できないと思った。
まだ身体のあちこちに包帯を巻いている姿からは全くサッカーをしている姿を想像できなかったから……。
けど、空の質問に医師は穏やかな顔で答えた。
「僕が無理って言ったら君は諦めるのかい?」
その答えは空に希望を与えたかのようだった。
「絶対諦めない! 俺は俺の信じる道を行くんだ!」
いつものかっこつけでかっこいい空のその言葉にはとても強い意志を感じた。
そうだ、私はその時の諦めない空をみて好きになったんだ。
そして憧れている。
高校生になった今でもその好きと憧れは変わらず、むしろ増している。
「私は空が大好き」
そうこぼれた声は誰にも聞かれることはなく、静かに私を体温を上げた。
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