第22話 ジャワ島へ

そろそろ出発の時が来た。


インドネシアに居れる滞在期間は1ヶ月。

通常の観光ビザではこの期間のみ滞在が許されている。


トマさんや、リンさん、そしてジョニーや宿の従業員員ともすっかり仲良くなっていた。


居心地のとても良いこの宿だが、インドネシアを北上し、マレーシアへの入国を考えている私にとっては、そろそろ重い腰を上げる時期に来た。


最後の一日は思う存分、この宿でゆっくり過ごした。


みんなで他愛もない話をしたり、何度も歩いたウブドの街をぶらぶら歩いたり。

お気に入りのカフェでライステラスを眺めながらコーヒーを飲んだり。


5年前に来たときの騙されて辛かった思い出や、短い間だったけど、今回のバリ島の思い出がゆらゆらと心地よい記憶となって頭の中を流れていく。


ここにもっと居たい気持ちが残っていたのは間違いないけれど、旅は始まったばかりということを思い出す。


まだまだ道のりは長い。


先に進んでいかなければと、自分の心に言い聞かせる。


次の日の朝、宿のみんな、トマさんやリンさんに見送ってもらい出発をした。


ハグをしたり、お別れの言葉でお互いを労いながら。

またいつか会うことを約束して、少し自分の気持ちを楽にしながら。


ジャワ島へ向かうバス停までは、ナイスガイ、ジョニーが送ってくれる。


今では当たり前のように一緒にいた彼ともこれが最後のドライブになる。


バスはバリの州都でもあるデンパサールから出発する。


当初は島であるバリからどうやってジャワ島にバスで行くのか気になっていたが、どうやらここからバスごと船に乗り込み、海峡を越えジャワ島に渡るのだ。


クラクションと乗客の呼び込みの声が響きあい、ホコリと排気ガスで空気に色がついているバスターミナルは、すさまじい活気にあふれている。


多くのバスがひしめき合い、ジョニーがいなければどのバスに乗るのか全くわからなかっただろう。

ジョニーが先導し、多くの人をかき分けて、私を目的のバスまで連れて行ってくれる。


何が書いてあるかわからないチケットを呼び込みを行っている受付担当に渡し、担いでいる荷物を預けようとする。


すかさずジョニーが、

「ヒュミ、それはダメだ!荷物はバスの中に持ち込んで、肌身離さず持ってるんだ!」

そう言って、私のバックパックをギュッと押しつけた。


けっこうデカいねんけど、俺の荷物…

これ持ってバス乗んの??


と、一瞬思ったが、


「ここからは、本当に注意した方がいい。バリとは違って治安も悪くなる。

盗みや、スリは日常茶飯事だからな!

そうそう、財布はズボンの後ろにはいれるな!」


ジョニーにそう忠告され、身が引き締まる思いに。なんか急に不安になってきた。


そんなジョニーも乗客の波で見えなくなってくる。


「じゃあな!元気でな!ジョニー!ありがとう!」

「いい旅を!グッドラック!!」


互いに最後の挨拶を交わしたあと、乗客が全員揃ったバスは人混みの中を盛大にクラクションを鳴らし出発した。

チラリと手を振ってるジョニーが見えた。


最高にありがとう。


街中を走るバスと違って、意外にも中は快適だった。


シートも広く、リクライニングもついていて、エアコンも完備されている。


しかし、私の隣に座った男がやけに図体がでかく、常に腕が密着する。

そして、やはりバッグパックが邪魔だ。


とはいえ、ここからはかなり気をつけて行かなければならない。

バリではすっかり平和ボケしてしまっている。


周りを見渡すと、旅行者は私ひとり。

乗客は全員がインドネシア人のようだ。


急に寂しくなってきた。

不安になってきた。

ウブドのみんなが頭に浮かぶ。


そんな不安が顔に出ないよう、窓を眺めながら財布をしっかりと確認し、後ろポケットから前ポケットに入れ直す。

そうこうしているうちに、バスは海峡を渡る船に乗り込んでいった。



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