9.最高のカップル 【Side Naohumi】

 四月も下旬。桜はめいめい散って道路に羅列している。……ん、この場合って羅列って言うか?

 まあ、いい。それより、今日は美澄に会うのが楽しみだ。


 水戸部美澄みとべみすみ雅太まさたと同じで中学からの縁。俺と同身長でスラリと長い脚が魅力的。残念ながら胸は富んでいないが、これを本人に言ったら強烈なミドルキックが炸裂するに違いない。


「なおー」


 お、噂をすれば。


「おはよう。美澄」

「おはよう。で? 雅太がどうしたの?」


 俺は噂が好きだ。流すのも受け取るのも。雅太には何度悪趣味だと説教じみたことを言われたか。

 ま、やめる気はないけどね。


「雅太に女の気配が……」

「え、嘘!」

「本当だよ」


 黒のポニーテールがしゃんと揺れた。

 予想通りの反応に胸が高鳴る。これだからやめられない!


「あの面倒臭がり屋の雅太に……。信じられない」


 額を手で押え、首をふるふると横に振る。

 美澄がそうなるのも無理はない。俺だっていっちゃんに聞いた時は耳を疑ったものだ。まさかあの雅太が部活に、と。ちなみに、いっちゃんって言うのは鳶尾琴いちはつこと先生のこと。


「今日の放課後時間ある?」

「今日はバスケ部はオフだから空いてるよ」

「ならさ。特別棟四階にある社会科準備室に行ってみてよ。面白いものが見れるよ」

「雅太関連のこと?」

「そうだね」

「分かった。行ってみる」


 二人で通学路を歩く。辺りに生徒も増え、俺たちはどうも浮いているように思える。

 理由は明快。なんせ、学校一の美少女水戸部美澄がいるから。朝からその艶姿を拝めるとは、諸君ら幸せ者だね。……皮肉だけど。


「なにニヤついてんの?」

「俺は幸せ者だなぁって」

「今更?」


 俺と美澄は付き合ってる。中学二年の頃に俺が告白し、晴れてカップルになったのだ。その報告を雅太にしたところ、返ってきた言葉は「やっとか」だ。


 雅太は常時ぐうだら野郎のくせして案外鋭かったりする。しかし、自分のことになると打って変わって鈍感になる。故意にやってるようにしか思えないんだけどなぁ。


「あーあ、学校に着いちゃった」

「嫌なの?」

「だってクラス違うし、ずっとなおと一緒にいたいし」


 うう。朝から泣かせてくる。

 はぁ、本当だったらこのまま俺と美澄のいちゃ甘ラブコメディと洒落こみたいところだけど、雅太の物語も気になって仕方ない。だってそうだろ? 面倒臭がり屋と美少女な後輩の、言ってしまえば戦が繰り広げられているのだから。


 どっちに軍杯が上がるかはさておき、雅太が新しい一面を垣間見せてくれるよう七咲さんを応援するしかないね。


 そして、あわよくばあの二人がくっつきますように。

 俺は名もしれぬ恋愛の神様にささやかなお願いをした。

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