6.こんにちは、好敵手

「あれ、雅太まさた?」

「ん?」


 聞き覚えのある声だが、一応それっぽい返事をしておく。


「雅太じゃないか! まさかここが文芸部の部室とはね!」


 なにも大声出すことないだろう。


「よう」


 中学からの付き合いになる友人の円谷尚文つぶらやなおふみ。短髪が良く似合うスッキリとした輪郭に小柄な体躯。身長は七咲ななさきと同じかそれよりもちょいと高いくらい。そして、昨夜チャットで会話をしていたのもこいつだ。


「で、そちらは?」

「あ、1年の七咲ななせです」

「これはこれはどうも。雅太がお世話になっております」

「やめろ」


 くすくすと2人で俺を笑う。こいつの冗談は変な誤解を産むから苦手だ。


「ところで、どう言った関係?」

「部員仲間」

「あー、なるほど。そういうことか!」


 尚文はぽんと手を打ち、大仰なリアクションをしてみせる。そんなに俺が女子といることが不思議か? ……不思議か。


「ていうか、なぜお前がここに?」

「いやぁ、アカペラ部は昼練があるんだよ。もうすぐコンクールだからね」


 そういえば尚文はアカペラ部だったか。


 尚文は女のように声が高く、アカペラ部のエース、といつか自慢していた。


「それじゃあ俺はお暇するよ。お邪魔して悪かったね」

「じゃあな」


 尚文はニヒルな笑みで教室を後にした。


「……邪魔だったことは否定しないんですね」


 尚文が去った後、揶揄するような笑みで七咲がそう言ってきた。


「面倒くさかったからだ」

「またそれ」


 やれやれ、とため息をついて七咲も卵焼きを口に運んだ。


「ごちそうさま。じゃあ、俺は行くから」

「え、もう行くんですか?」

「女子の食べるところを見るのはあまりよろしくないだろ」

「変なところで紳士さを出さないでくださいよ!」

「じゃあ、放課後」

「無視!?」


 七咲が漏らす驚嘆の声も無視して、俺は社会科準備室を出た。また、放課後な。

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