第12話 ランチ

「温泉魔法便利~!」


 洗濯物の手洗いから解放された。

 洗濯機をイメージして、風呂場で空中に温泉水(重曹泉、ぬるま湯)を出し、中に洗剤と洗濯物を入れて、魔法でぐるぐる。

 水を捨て、すすぎ用の水の中でまたぐるぐる。すすぎが終われば水を捨て、残った水を消して脱水し、終了。

【マジカル洗濯機】と名付け、全自動で発動するようにした。


 いやぁ〜、洗濯機が三種の神器の一つだったのは納得だね! 手洗いは本当に大変だよ。昔の人は冬は特に辛かっただろう。



 ◇◇◇


 ニドゥ町初日の昨日は、突然のアプリアップデートで町の散策を昼前に切り上げたので、今日は町中をいろいろ見て回ろうと思う。


 まずは、ポーションを買った道具屋だ。

「体力と魔力を一緒に回復するポーションってありますか?」

「はぁ? そんなポーション聞いたことないね。もしあるとしたら、王都か迷宮都市じゃないか?」

「…そうですか」

(無いのか…。温泉宿ポーション、売ったら間違いなく儲かるけどな。画期的過ぎて面倒事になるか)


 それと、迷宮都市。

 初めて聞いた。道具屋によると、とても大きなダンジョンがあるそうだ。

 恐ろしくて自分で潜る気はないけど、この国の普通の町よりそういう特殊な所の方が私の外見が浮かないかもしれない。

 そして、そこなら温泉宿ポーションを売れるかもしれない。


 ちなみに頑張って念じても、温泉魔法で回復効果がある温泉水を出すのは無理だった。宿で汲むほかない。


(どっちにしろ商業ギルドに入るまで商いはできないし、まずは冒険者ギルドで稼ごう)


 ◇◇◇


 冒険者ギルドの買取窓口で、昨日倒した魔兎と魔蛇、今朝採った薬草を売る。

 カウンターの奥では、エプロンを付けた男性がきびきびと解体をしている。


「解体を習うことはできますか?」

 自分で解体ができるようになれば肉代と解体手数料が浮く。

「ああ、ギルドがやってる研修の科目にあるぞ。有料だけどな。今から受けるか?」

「今日はやめときます。後日受けたいと思います」

 一張羅のワンピースを汚したくない。

 

 掲示板でゴブリン討伐の常時依頼と各種研修の案内を確認した後、二階の資料室に行く。

 入ってすぐ横の机には男性職員が一人いて、書き物をしている。

 資料室には魔物、植物の図鑑や、武術、魔法の教本、地図等が置いてあった。迷宮都市の資料もある。昼までここで勉強しよう。


 ◇◇◇


 お腹が空いたので冒険者ギルドを出た。広場に向かう通り沿いの、お客さんが多い食堂に入ってみた。

 異世界で、初めてのお店で、一人飯。ドキドキだ。


 カウンターとテーブル合わせて20席程の店内は程よくガヤガヤして、若い女性の店員さんが忙しそうにしている。

 カウンターに座って600ゼニーの日替りランチを注文すると、出てきたのは鴨肉とキノコのソテー、パン、蕪のスープだった。


(ソテーのソース美味しい!) 

 この3週間余り、限られた食材での自炊とインスタント食品ばかりだった。プロの料理が嬉しい。600ゼニーでこれなら大満足だ。


「すいません、ワインください。赤で」

 隣の席の男性が昼から飲んでいるのを見て、自分も飲みたくなった。

 今日は狩りに行く予定ないし、こんな日もあっていいよね。

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