アプリのアイコンは某RPGに出てくる青いスライムだ。デザイン丸パクリである。名称は異世界人アプリ。

（怪しい）

　開いたら取り返しがつかない事態に陥るんじゃないか。ていうか既によくわからないことになっているけども。

（何なの？ 異世界人って……これ、異世界転移ってこと？）

　確かに、男もそんな感じのことを言っていた。

　もう、なるようになれ。

　スライムのアイコンに触れると画面が変わり、上部に各種メニュー、中央部にマップ、下部にＨＰとＭＰのゲージが表示された。今はどちらのゲージも満タン。

（ＭP？ ただのゲームアプリなの？）

　そんな場合じゃないがちょっと興味を引かれる。

　マップの中央には温泉マーク。

（現在地かな）

　温泉マークの周りは濃い緑一色だが、縮尺を変えると川や黄緑色の部分が現れ、広域にすると集落らしきマーク、更に広域にすると城のマークや海が現れた。

　旅行ガイドで見た温泉宿周辺の地図とは一致しない。このマップがリアルなら、知らない土地にいることになる。

（ここどこよ）

　いったんマップについて考えるのをやめ、気を取り直して各種メニューから『ステータス』を選択してみる。

　名前　：モモ　（24歳　女性）

　職業　：─

　レベル：高め

　ＨＰ　：高め

　ＭＰ　：高め

　攻撃力：高め

　防御力：高め

　賢さ　：普通

　器用さ：普通

　素早さ：普通

　運　　：普通

　スキル：鑑定、アイテムボックス

　　　　　異世界言語翻訳

　　　　　異世界の温泉宿

　装備

　　武器：─

　　防具：―

　所持金：０ゼニー

（…何このふわっとしたステータス表示）

　神の手抜き感がすごい。

　レベルが既に高めなのは神のサービスなのかもしれないが、賢さから下が普通のままなのがもやっとする。

　…いや、素はもっと低いのを普通に上げてくれてる可能性もあるか。運が普通だったらこんなとこ来てないだろうし。

（所持金が、０）

　神のミスで異世界転移する羽目になった人間を無一文で放り出すとは、さすが裸の女に上着も貸さない男。気が利かない。

　スキルの詳細は出てこなかった。だが前の３つは定番のやつだろう。４つ目はこの離れのことかな。

　ステータスを閉じ、次にメニューから『持ち物』を選択する。

（空じゃん）

　良さげなグッズが列記されていることを期待したが、無駄だった。

　スキルのアイテムボックスを使うとここに表示されるのだろうか。試しに、ティッシュを１枚『アイテムボックスに入れる』と念じる。するとティッシュは消え、画面の表示が

・ティッシュ（１枚）

　に変わった。取り出そうと思えば出てくる。すごーい、これは便利。

　次は、メニューの『温泉宿』を選択する。

　画面に並んでいるのは、ルームサービスのお食事、ランドリー、売店、貸し出し。

（こ、これは…！）

　お食事のメニューを開く。値段はゼニーではなく日本円で表示されていた。

（高い、高過ぎる）

　ルームサービスはやめ、売店を開いてみる。

　ネット通販のように検索できたのでチョコレートを選び、カートに入れる。こちらも円表示。

　支払い画面に移ると、残高に私の貯金額が表示された。

（おおっ！ 私の貯金で買い物できる⁉）

　注文を確定すると、目の前にチョコレートが出てきた。

「や、やった！」