第25話 BLって・・・(前編)

 BLってホントいいですよね~。

 今の私、東雲亜里沙にとってのここは天国だった。

 私はとある施設で温水ジャグジーに入り、まったりとしていた。私は今年の夏に買った赤の可愛いフリルの付いたビキニを身に纏う。私の胸はささやかなサイズなので少々子供っぽいものに見えてしまうのが難点なところもあるけど。今年の夏に着ようと思い買ったのだが、着る機会が全くと言っていいほどに無く今日が初のお披露目となった。しかし、誰も可愛いと言ってくれるでもなく、ジャグジーでジェットバスに打たれ私は寛いでいた。

「あぁ、いい。気持ち~」

 私は心の底から気持ちよかった。ここは市が経営している温水プールで1年じゅう使用可能な施設。しかも、市営であるから入園料も安く、高校生の懐事情にはとてもやさしい。夏は屋外のプールも使用可能で夏休みは人気で家族連れやカップルがごった返してイモ洗い状態の日もある。今は冬で屋内施設のみの使用となっていて、プールは温水になっていて、いい感じだった。

「何か、発言がおじさん臭いですね。東雲さん」

「うるさいわね。PCで小説書いてると肩凝るのよ」

 私はジャグジーに当たりながら芳賀君に馬鹿にされたが、本当に気持ちいいんだからしょうがない。芳賀君の今の姿はトランクス型の水着を着ていた。高校1年生にしては良い身体をしていた。でも部活、文芸部だよね?

「芳賀君てさ、意外に良い体してるよね。文芸部なのに」

「文芸部ですけど、自宅では最低限の体作りとBL小説書いてますから。太るの嫌じゃないですか」

「何か。発言が女の子っぽい」

「そうですかね?」

 私は芳賀君の発言が妙な違和感を感じていたが、他の違和感に気付く。

「あれ、そういえば今日の主催の凛花は?」

「あぁ。何でも仕事で少し遅れるそうですよ」

「そうなんだ」

 私は凛花さんの確認すると少しホッと胸を撫でおろす。今日のこの温水プールの無料優待券は凛花さんから貰ったからだ。春奈凛花さんはアイドル活動をしているコギャルの女子高生で私のクラスメイト。可愛いんだけど、本当の中身は可愛い子食いの百合なの。

だから、私の操が危ない気がしてしょうがない。前は私の初キス奪われたし。

「何で、こんなところの無料優待なのかね。しかも市営で」

「それは、これで貰ったんじゃないですか?」

 芳賀君が水没してもいいようにスマホの耐水仕様のケースの画面を私に見せてきた。

 そこには、今日の午後2時より市営の特設ステージで期待の新星アイドルユニット”アーデルハイド”のライブが開催されます。是非、この機会にゆっくりしていってね♡と書かれた写真がSNSに載っていた。宣伝か。

「間に合うんですかね?」

 私は芳賀君の言葉を聞くと壁掛け時計を確認する。時計の針は正午を少し回っている所だった。大丈夫じゃない?とゆったりしていると後ろが騒がしかった。

「ムホホ、楽しみでござる」

「デゥフフ。早く、アーデルハイド来ないかな」

「クララちゃーん」

 その声に私は振り向く。恐らくアーデルハイドのファンであろうこの場にはちょっとふさわしくない服装の男性たちがステージに向かって歩いていた。確かに今日のお客さんは家族連れではなく、男性の多くがまさにオタクの様相。

「あれ?」

 私の目線の先には同じクラスの生徒の相田君がオタク仲間のそのステージの方に向かっているのを見つけてしまう。見なかったことにしよう。私は私で相田君に見つからないように身をひそめる。芳賀君は逆に相田君に挨拶に行こうとしていた所を私が制止する。クラスの人間に芳賀君といるところを見られたくない。

 私たちはジャグジーで動かずにいる。恐らくステージが始まったのだろう。ステージの方からはファンであろう男性客の雄たけびが聞こえてきた。

「ハイジーーーー、可愛いよ」

「うおおおおお」

「あれ?クララちゃんがいない。どうしたの」

 私は観客の声を聞いて、クララこと春奈凛花さんがいない事を知る。まぁ、あの人もアイドルとして今忙しいからな。さぁ、ジャグジーから出て、他のプールで遊ぼうと移動しようとしたその時だった。

「ひゃっ⁉」

 私の胸を後ろから手が伸び触られびっくりしてしまう。しかも、急な出来事で私の頭は混乱する。痴漢だ。でも、手が細いし、女の人?私は混乱する中、勇気を振り絞って声を出した。

「だ、誰ですかっ」

「だーれだ?」

 この気の抜けそうな声には聞き覚えがあった。私のピンク色の脳細胞がフルに動く。

「凛花さんですか。止めて下さい」

「正~解。ご褒美あげちゃう~」

 ってかそこは目を隠すんじゃないですかと私が突っ込もうと思っていたら、凛花さんはご褒美と言って、私の水着の下の手を入れる。胸を直接触り、揉みしだいてきた。

「⁉」

「あらぁ~。可愛いお胸」

 私は揉みしだいてきた手を押さえ、水着から取り外し振り返る。

「ちょっと、何してるんですか。凛花さんっ‼」

 私は言葉が詰まる。目線の先には凛花さんの豊満な胸が飛び込んできた。大きい。これは同じ女子高生の体なのかと動揺を隠せずにいた。

「そ・・・そんなに胸ありましたっけ」

「まぁ、着やせするタイプかな。私、Eカップだし」

「でかい」

 凛花さんの言葉に私は自分の胸を見つめた。私の胸はAカップ。それ以上は何も言うまいと思っていたが私の心をえぐる様な一言を言ってきた。

「私、ささやかなその胸が好きなの。胸なんか脂肪の塊だし、肩が凝るから邪魔でしかないわよ」

 私は喜んでいいのか分からない一言にもやもやしていた。凛花さんは両手で自分の胸を持ち上げ、悩みを打ち明ける。それ只の自慢ですよね。これが〈乳こそがこの世の理、貧乳は人に非ず〉か、まさに胸囲の格差社会。

 私は「胸何て、飾りですっ!」と言いたいけど、悔しさで言えなかった。

「東雲さん。僕は胸が無い方がいいです」

 芳賀君は私をフォローしようとしてくれたみたいだけど、素直に喜べない。逆にムカつくわ。素数を数え心を落ち着かせましょう。

「で、クララさん(凛花さん)はあそこのステージじゃなくてここにいるんですか」

「何か。棘のある言い方ね。まぁ、いっか。今、他の場所でやってたグラビアの撮影が終わったからこっちに来たの。ホントはステージ袖から出るつもりだったけど東雲さんが見えたから、客席から乱入でいいか?と思ってこっち来たの」

「無茶苦茶な・・・」

 私は凛花さんの言葉に呆れた。自由すぎませんかねぇ。ハイジさんやスタッフさんが可哀そうに思えてきた。

「そろそろ行こうかな。ハイジも流石に一人じゃきついだろうし」

「どうぞ、ご自由に」

「じゃぁ、見に来てね。東雲さん」

 凛花さんはその言葉を言い残すとステージの方に走って行った。言葉通りに客席側から突入し、変装を解いた。

「フォ――――――」

「クララさんっ。マジ、天使」

 客席から突入したことでファンの雄たけびは最高潮に。ファンは声援に熱が入り、肌から汗が飛び散るのが見える。怖い。

「これは正に野獣ですね」

 芳賀君がライブの様子を眺め、顎に手を当てながら言った。私もその意見に同意をする。この中にもし、二人が飛び込もうならば、会場は無茶苦茶になってしまう事が予想できてしまう。まぁ、そんなことはさておいて、ライブ会場は異様な盛り上がりを見せ、ライブ終盤に事件は起きた。

「さぁ、みんな。ライブ楽しい?盛り上がってる?」

「「「はーーーーーーい。最高です。可愛いよ、ハイジーー、クララーーーー」」」

「ありがとーーーー」

 クララさん基、凛花さんが言うとファンの声援は温水プール内に響く、施設内が揺れているのかと錯覚してしまう。流石、ファンの力は果てしないわね。まぁ、周りの一般客の反応は言うまでもないけど、温水プールなのに冷たい視線が注がれて、少し寒く感じた。

「今日はね。ちょっとした企画をやろうと思ってるの。ハイジ見せてあげて」

 凛花(クララ)さんの言葉に会場は騒めいていた。

「これね。クララ」

 ハイジがそれを言うと垂れ幕を取ってくださいと言わんばかりの紐が見えていた。ハイジはそれを引っ張り、その物が露になる。物を見て、私は固まった。

『ドキッ!丸ごとふんどし。男だらけの水泳大会』

と書かれた立札が出てくる。

「ここの館長さんに許可取るの大変だったんだよ。で、今から流れるプールでちょっとしたゲームをしまーす」

 凛花(クララ)さんは客席いるファンたちに説明する。この施設にある流れるプールに入り、一周をするのだがその一周をする間の各所に難関が待ち受けている。その難関を乗り越えて、最初にゴールした者に景品を提供するというもの。しかし、唯一失格と言う概念も存在する。参加する者はふんどしを身に着け、競技中にふんどしが取れてしまうと失格になってしまうと言う事だった。

「うおーーー」「よっしゃー!」

「やります。やらせていただきます」「一位は貰った」

 その説明を聞いたファンは続々と更衣室に入り、ふんどしに着替えに行った。ファンは着替え戻って来るとそこは見たくない光景が広がっていた。

「これは違う意味で壮観ね」

 私は目をそらす。目をそらした先には凛花(クララ)さんがいて、私は驚いた。

 いつの間にか、凛花(クララ)さんも水着がふんどしに着替え、ブラとふんどしと云った何とも言えない出で立ちで立っており、ファンもその姿に困惑していた。その凛花(クララ)さんが何かを喋り出した。

「後、このゲーム私クララも参加しまーす。この大会の景品は一位になった人の願い事を何でも叶えるっていう景品なの。だから、私も参加しまーす」

「「「「な、なんだってーーーーー」」」」

「絶対に優勝するぞーーー」「俺が勝つ」

「フヒヒ」

 凛花(クララ)さんが衝撃的な事を言い出す。ファンはその言葉に鼻息が荒くなる。ファンも最初はポメラニアンみたいな顔をしていたがこの言葉を聞き、ドーべルマンのような顔に変わる。相田君もまさに野獣の眼光。

「こ、これは嫌な予感がします」

 芳賀君は急に変な事を言い出した。私は「どうして?」と聞き返す。その答えは他の者から聞かされた。

「私が優勝したら、あそこにいる女の子と誰にも邪魔されずににゃんにゃんするわ」

 凛花(クララ)さんが急に私を指さすと変な事を言い出す。ファンの視線も私に集まり緊張してしまう。私は自分で自分に指をさしてしまう。ってか、ちょっと待って。何で景品が私なの。

「やはり、そんな事だと思いましたよ。このゲーム、僕も参加します」

 芳賀君はそう言うとふんどしをする為に更衣室に向かった。

 

 数分後・・・


「それでは『ドキッ!丸ごとふんどし。男だらけの水泳大会』を始めたいと思いまーす。みんな一位になりたいかーー」

「「「「おぉーーーーーーー!」」」」

 ハイジさんの問いに答えるファン。それを聞いている凛花(クララ)さんと芳賀君は開始の合図を「まだか。まだか」と水中で準備をしていた。

 そして、その時が来た。

「それではー、スタート‼」

 ハイジさんの言葉と同時にスターターピストルが鳴らされ、プール内に鳴り響く。

 開始早々に案の定予想していた事態が起こる。ファンたちがスタート同時に「クララさーーーーん⁉」と叫びながら、凛花(クララ)さんに襲い掛かっていた。凛花(クララ)さんの体に少しでもタッチしようと必死だ。悩殺ボディだからファンも獣になったのね。男の人って解りやすいわね。

「ぐおーーーーー」「天使だ、天使が見える」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

しかし、ファンのその行動とは裏腹に凛花(クララ)さんは笑顔でファンを殴る蹴るの対応で倒していた。流石、格闘技をやってるだけの事はある。後、もうね。怖いの一言。一部のファンは何かお礼言ってるし、前メイド喫茶の件といい、ファンは躾られてるの?と問い質してみたい。

 凛花(クララ)さんはファンの対応に追われ、進むことが出来ない。その間、芳賀君は水中を進んでいた。しかし、凛花(クララ)さんは護身術って言ってたけど何を習っているのだろう。その疑問は直ぐに解消された。

「私ィ、極真空手と合気道習ってるから襲い掛かってきたら、やっちゃうからね、テヘペロ」

 凛花(クララ)さんはごめんやっちゃったって顔でファンに笑顔で返した。その笑顔どう反応すればいいか私には解りません。ファンの反応も当然今のこの状況見て、怖いのだろう。凛花(クララ)さんから離れていく。凛花(クララ)さんの周りにはファンがどざえもんの様にプカプカと浮き流れていたのが怖さを余計増していた。あの人たち、大丈夫よね。

「私の子猫ちゃん待っててね。チュッ⁉」

 そして、凛花(クララ)さんはきょろきょろして、私を見つけると投げキッスをしてきた。私はジャグジーに入って温まったはずなのに嫌な寒気がしてきた。

 そして、『ドキッ!丸ごとふんどし。男だらけの水泳大会』は幕を開けた。

 



 

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