第8話 友であって・・・
「友であってホモでは無いわ」
私は断言した。私の名前は東雲亜里沙。文芸部の部員で今現在文芸部の受付にいた。
今は、文化祭一日目、時計の針は正午になるのを示していた。文化祭と言う事もあって、漸く、ここ文芸部にもちらほらお客さんが来ていた。部室が実習棟にあってなかなかここに足を踏み入れる人は少ない。しかし、午前の始めは高瀬先輩と志藤生徒会長率いる生徒会との白熱したバトルにより展示を中止。何故か、クイズで私たちが文芸部の存続をかけた勝負に発展し、しかも私たちが出場するなんて、いい迷惑。とりあえずその場はそれで収まり一件落着。部活で出していた部誌は全て健全なものに入れ替えられた。
「この今出してる部誌って結構内容が友情物に見えますけどこれってBLですよね」
「だから友情であってBL(ホモ)では無いわ」
私は内容は友情と再度、強調した。
私の隣で受付に座り、今出されている部誌を読んでいるのは同じクラスで芳賀康太君。文芸部の部員でなぜか私の彼氏(仮)になっている状況。私は彼女(仮)に。それもこれも文芸部の部長高瀬先輩が勝手に決めたことで振り回されている。
「文を読んでいるとすべてBLに見えてしまうんです」
「芳賀君、それ病気。私はそこまでじゃないけど、偶にBL脳内変換はある」
「そうですかね」
私の言葉に芳賀君は部誌を読んでいる形で悩んでいた。
早く、交代の時間にならないかなと私が思っていると交代要員の文芸部の先輩がやってきた。これあげるよと言われ渡されたものは、クラスの模擬店で飲食系をやっているクレープの割引券だった。
文芸部の先輩が交代するねと言われたので私たちは交代し、文化祭を楽しむことにした。
私たちはいろんなクラスの模擬店を廻った。私たちのクラスのお化け屋敷も繁盛していて、他校の高校生の集団が並んでいたのが見えた。他のクラスも展示物に力を入れていて見ごたえがあり、一般のお客さんにも盛況だった。
ある程度、廻ったところで
「どうしようか?そろそろ食事にする?」
「さっき、頂いたクレープの割引券あるんでクレープにしますか?」
「そうしよっか」
私は芳賀君の提案をのむ形にした。しかし、学校の文化祭は中学の物とは違い一般入場もあり、校舎は賑わっていた。しかも、お昼時もあって食べる系のお店は人で混み合っていた。
私たちは貰った割引券の3-3の教室にやってきた。ここもお昼の食事で混んでいた。私たちは20分ほど並んで漸く、席に着くことが出来た。
「いらっしゃいませ」
エプロン姿の女子生徒が水とメニューを持ってきた。私たちはメニューを見て、特に不思議なことは無かった。
「クレープだけだね」
「何ですか?この一推しクレープ、二推しクレープって?」
エプロン姿の女子生徒がそのことについて説明をしてくれた。
「あっ。それはですね」
その時。
私は、ニュータイプ並みの直感が働いた。周囲のテーブル席に座っている客層とスマホでクレープの写真を撮っている仕草で私は気付いた。
来ている客層は女子生徒、女性が多い。しかも、私と同じ匂いがした。
まさか。
「あなたの推しキャラをクレープに書かせていただきます」
その時、私に電流が走る。
「何だって?」
私は直ぐにスマホを出し、そのキャラを書いてもらうよう注文した。
「彼氏さんはどうしますか?」
私は女子生徒の唐突な質問に耳まで赤くなり、俯いてしまった。確かに彼氏(仮)ではあるけど。
「東雲さんのが来てから考えます」
芳賀君にもう少しは恥ずかしがれと私は思った。
10分後
私の前に完成されたクレープが到着した。そのクレープには私が推しているキャラが彩り豊かに描かれていた。
「う、上手い。凄い画力・・・そして、尊い」
私はスマホを出し、写真を撮って推しのフォルダに入れた。他の人はSNSに投稿し、いいねを貰うために投稿するかもしれないけど私は陰キャなのでそういう事は出来ない。私は自分の中で楽しむのが一番だと思っている。
「有難うございます。これを書いた方はどなた様でしょうか?」
私は女子生徒に誰が書いたのか聞いてみた。
「あぁ、これ描いたのですか。渚ちゃーん」
「はい」
店の調理スペースいたと思われる女子生徒が私たちの所にやってきた。その子は髪型はショートボブ、小さくていかにも可愛らしい女の子だった。
「何でしょう?」
「描いたのはこの子、海藤渚ちゃん。そんでもって漫画研究部の部長さん」
女子生徒のいきなりの紹介で渚さんはあたふたしていた。
私は漫研の人かと納得する。上手いわけだ。
「有難うございます。こんな可愛い推しを描いてもらって」
「い、いえ。私これぐらいしか出来ないので」
渚さんはその女子生徒の後ろに隠れもじもじしている。可愛い。
「流石、漫研ですね。キャラクター幅広くかけるんですね」
先ほど周囲の絵を見て思った。下は少年から高年齢の執事の叔父様まで
描かれている。
「お客さんの要望をスマホで調べ、その画像を見て描くだけです」
渚さんはもじもじしていた。
「あの、すいません」
芳賀君が突然、言葉を発し私、渚さん、女子生徒の注目を集めた。
「キャラクター決まったので、言っていいですか?」
「どうぞ」
女子生徒は笑顔で答える。芳賀君がスマホの画像をみんなに見せる。
「キャラクターではなくワンシーンなんですが。これです」
「は?」×3
私を含む、三人は同じ反応した。
「ちょっと、これは不味いですよ」
「芳賀君、これは不味いわよ」
女子生徒さん、私の反応。完全に一致。
「・・・・」
渚さんに至っては無言。
芳賀君が出してきたものはキャラクターではあるのだがポーズが不味い。所謂BL的ないやらしい画像。男の子は服は開けており、私を食べてください(ショタ受け側)だった。そして、ある一部は生クリームで再現して欲しいと芳賀君は頼んでいた。芳賀君はホントにBL馬鹿なんだな私は思う。
「芳賀君、公衆の面前でこれは駄目。エロ過ぎるわ」
私はその画像を隠すよう、促した。
「もっと可愛らしいキャラとかあるでしょ!」
「これだけ書けるんだったら、描いていただきたくて。母に見せたいんですよ。母が好きなんですよこのキャラ」
「あ、そう」
私はその言葉を聞き、ミイラ取りがミイラになるという言葉を思い出す。
「どうしよう、渚ちゃん」
「ちょっと、ある方に電話かけてもいいですか?」
渚さんはそう言ってスマホで電話をかけ出した。誰だろう。
何かを話しているのだがチラチラ私たちを見てきた。渚さんがそうなんですか、解りましたと言ったと思ったら、スマホを耳にひっつけ話してきた。
「いつから、BLは描かないと錯覚していた?」
「描いてくれるんですか」
芳賀君は喜んでいた。少年漫画のノリで聞いたセリフに私は困惑する。
「描いてやる。その代わり、私たち文芸部分のクレープを買ってくるのだ」
渚さんは電話先の相手も真似をしていた。私は文芸部という言葉を聞いて気付く。
「電話の相手、高瀬先輩ですか?」
「ふぁ・・あっ・・・な、何でですか?」
渚さんは滅茶苦茶焦っていた。バレバレですよ。私はちょっと代わってもらっていいですかと渚さんにお願いするとあっさり代わってくれた。
「もしもし、高瀬先輩ですか?渚さんをいじるの辞めて下さい、可哀相ですよ」
「あ、解っちゃった」
電話の向こうの高瀬先輩は笑っていた。
「そこね。私のクラスでそのクレープ私の考えなの。丁度、クラスメイトに漫研の渚ちゃんいたし・・・これは使えるって思ってね」
「あの、そういう考え止めた方がいいですよ。友達なくしますよ」
私は渚さんに聞こえないように小声で話す。
「それくらいで、離れるなら友達じゃないし。私は心の友が欲しいの。後、私は使えるものは何でも使う主義なのよ。わ・た・し」
私は電話の向こうの高瀬先輩の姿が思い浮かんだ。絶対椅子に振ぞりかえってそう。
本当にこの人、いい性格してるよと私は思った。
私は高瀬先輩の注文と芳賀君の注文を渚さんと話し合い全部テイクアウトで包んでもらう形にしてもらった。
芳賀君は注文をしたものを目の前にした時、嬉しさで小躍りを舞ったことで周りをドン引きさせていたので、私が制止をした。嬉しくて、何でも母親に見せれる喜びを表現したかったらしい。
後、高瀬先輩から、頼まれたクレープを持ち帰ることにした。
その別れ際、渚さんの顔が何か満ち足りた顔をしていた。多分、BLの世界にはまってしまったのだろう。何かしてはいけないことをしてしまった罪悪感が。
「多分、あの渚さん。今までBLというジャンルを避けていたんでしょうね。でも、今回でこんな世界があるのを知って嬉しかったんでしょう。また、一人女子の沼に引きずり込みましたね、東雲さん」
「君でしょ、私じゃないわ。まさか、男性がBLのイラストを押して、いたいけな少女をハマらせるなんて・・・」
私は頭を抱え、文芸部の部室へと歩いていた。隣の芳賀君はさっき包んでもらったクレープを眺めニコニコし、歩いている。明日の生徒会のクイズの事も考えると頭が痛い。でも、こうやって一緒に回るのって楽しいかも私は思った。中学では基本、ボッチだったからなぁと私は。
「ほら、速く先輩に持ってかないとまた何か言われる」
「そうですね」
「あと、明日のクイズは頑張るからね。文芸部活動停止は嫌よ」
「はい、僕も東雲さんとBL小説書けないのは困ります」
私は芳賀君の言葉に赤面する。こんなとこでそのセリフ、天然のジゴロね。
「頑張りましょう。このクレープにかけて」
芳賀君は並んで歩いているが私の顔を覗いてきた。
「こっち、見ない」
「何で、赤面してるんですか?」
「び・BL小説でいいシチュエーション思いついたのよ」
「忘れないうちにそれ書いておきましょう」
私は嘘をついた。芳賀君の言葉にちょっとドキッとしてしまった事を。男性の免疫少なすぎて、毎回、私チョロすぎる。BL漫画、小説でもこんなにチョロい人いない。こんなところでいちゃついている場合じゃない。
「早く、戻るよ」
「はい」
私たちは部室に戻ると高瀬先輩達のいじりに合う事は言うまでもなかった。
後、渚さんはその後BLにハマり、同人誌界隈ではちょっとした有名作家になるのであった。
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