13

 睦月さんはミュウの持ち主だからこちらもリーダーなのかな。リーダー同士の話し合い?


 睦月さんはティーカップに目を落とした。


「うん、そうだね。リーダーとしてどう思ってるか聞きたかったの。魔法少女のこととか、異世界のこととか。くまはどれくらいそれらについて説明してくれてるの?」

「ちっとも」


 これは常々不満に思っていることだから、私は勢いよく答えた。「魔法少女については説明はあったよ。でも異世界についてはほとんど何も教えてくれないの。どうしてなんだろうねえ」


「ミュウもだよ」


 そう言って、睦月さんは目をあげた。笑顔で、私に尋ねる。


「くまのこと、好き?」

「う、うん」


 急にそうきかれて、何故だかどぎまぎしてしまった。くまのことはもちろん……好きだよ。そりゃ不満もあるけれど、でも仲良くしてるし、優しいし、それに魔法少女とマスコットの絆は大事なものだし……。でもそれだけじゃなくて、なんだかわからないけれど、妙に身体が熱くなってしまった。私は急いで、ケーキを切った。


「いいね。私はミュウのことは――そんなに好きでもないかな」


 あまり話をしないって言ってたもんね。まあ、魔法少女とマスコットの関係にもいろいろな形があるのかも。魔法少女としての務めが果たされれば、その形は多様でいいのかも?


「私は、後藤先生のほうが好き。ミュウじゃなくて、質問に答えてくれないミュウじゃなくて、私たちが何者なのか、魔法少女について知ろうとしている後藤先生のほうが」


 睦月さんは言った。少し強い調子で。


「私も後藤先生は好き」


 私は言う。後藤先生いい人だし。でもくまも好き。この二つは両立するものでしょう?


「私、異世界に行きたいの」


 突然、睦月さんが言う。この言葉、前にも聞いたことがある。言ったのはほたるちゃんだ。ほたるちゃんはうさぎに、その向こうにいる異世界の人に会いたかったのだ。でも――睦月さんはたぶん違う。


「……異世界に行ってどうするの? ミュウに会うの?」

「そうだね。ミュウに会いたい」


 睦月さんは笑顔で言う。でも睦月さんはたぶん、ほたるちゃんとは違う理由でミュウに会いたいのだと思う。


「私は知りたいの。異世界がどんなところか。何故ミュウたちは隠し事ばかりなのか」


 睦月さんはティーカップを両手で持った。一瞬、そこに目を落とし、でもすぐに視線を上げて私を見た。その目が、光っている。


「私ね、力が欲しいの」

「力?」


 睦月さんの言葉に、私は面食らった。睦月さんは吹き出した。


「やだ、私、アニメや漫画の悪役みたいじゃない。力が欲しい、だなんて」


 睦月さんは笑う。すごく愉快なことみたいに。私も合わせるように笑ったけれど、でも話が見えなくて混乱してしまう。


 笑うのをやめて、でも頬に微笑を残して、睦月さんは言葉を継いだ。


「私たちは魔法少女でしょ。魔法を使える。でもそれは敵と戦うときだけ。おかしいと思わない? 私はもっと自由に魔法の力を使いたいの」


 もっと自由に? いつでも魔法が使えるようになりたいってこと? 私だったら炎の魔法がいつでも自由に……。まあ便利といえば便利なのかな? ガスの火がつかないときとかに。もしくは停電の夜などに。便利……かな?


 カップを持つ手に力を込めて、睦月さんは話を続ける。


「これは私たちの力なの。私たちがもっと自由に使うべきなのよ」

「でも――石がなければ変身もできないし――」


 石は異世界のものだ。石の、異世界からの力があるから、変身もできるし魔法も使えるのかもしれない。


「そうね。石が与えてくれた魔法の力かもしれない。石が魔法の力をくれて、それを使って私たちは戦って――ねえ、もう少し何かご褒美があってもいいんじゃないの?」

「ご褒美?」

「そう。私たちの働きに対する報酬。私たちが受け取ってしかるべきもの」


 魔法少女は――いうなればお仕事で、その分の賃金を払ってほしいみたいなこと? 魔法少女ってそういうシステムになってるんだ? 私は私が今まで見たり読んだりした魔法少女ものを思い起こした。そういう……話もあったような、なかったような……? どうもよくわからない。


 睦月さんの話はよくわからない。結局何を言いたいんだろう。異世界に行きたい。異世界に行ってミュウに会いたい。そして――力が欲しい。


「闇の魔法をいつでも使えるようになりたいってこと?」


 まあたしかに急に暗闇が欲しくなったときに便利かもしれない。急に暗闇が欲しくなったときってどういう状況だろう。明るい中、寝なくちゃいけないときとか?


 睦月さんは笑った。


「それも悪くないけど。でも私の欲しい力はそれではなくて――」

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