第44話 6月27日(日)終演後の舞台裏
洗面所の鏡に映る姿は間違いなく
二人が公開録音に来ることは知っていた。だからいつも以上にあかりの役を作り上げて今日という日を迎えたはずなのに……。
「本当に運命なのかな」
改めて
お手洗いから楽屋まではそんなに離れていない。
廊下を歩く間に気分転換したいのに、その道のりはすごく短い。
辿り着きたい場所までは遠いのに、なんで行きたくない場所に限ってこんなにすぐなんだろう。
「あれがあかりの本心なのかな」
ステージ上ではいつまでも悩んでいられない。むしろ、悩むことで変なリアリティが出てしまう。
だから反射的に出た
日本に渡米さん……
それを先輩やスタッフさんがどう思っているのかわからない。
あの場は盛り上がっていたみたいだけど、みんなからすれば一人のファンに過ぎない
少しだけ顔を出した
「お疲れさま~。まさかあかりんがあんなこと言うなんて思わなかったよ」
内田先輩はあかりを笑顔で迎え入れてくれた。
「あのチクりメールで一山あって、そこからさらにガチ恋メールであそこまで盛り上がるとは予想以上だったよ。あの幼馴染コンビにはこれからも番組を応援してもらいたいなあ」
「まみまみちゃんと日本に渡米さんは内探にも送ってくれるんですよ。私も自分のところのリスナーさんに会えて得した気分です」
どうやら怒られることはなさそうでホッと胸を撫で下ろす。
初めての公開録音でやらかしてしまったら今後の開催が危うくなる可能性だってある。
日本に渡米さん、
「先輩ならこう言うかなって。イベントも盛り上がるかもって」
「うんうん。カップルになるやつは勝手になるからね。それはイベント後にご自由にってことで」
「ですよね。あの答えが正解ですよね」
「まみまみちゃんも日本に渡米さんもよくメールをくれる常連さんだからあんな風なイジりでも良かったけど、そうじゃない恥ずかしがりで思い切ってメールをくれるリスナーさんもいるからね。その辺の見極めは大事だよ」
「……はい」
お客さんの見極め……それに関しては問題ない。だってあの二人は友達だから。
友達になったのは最近だけど、どんな性格の二人でどれだけ相性もバッチリかを知っている。
知っている上で、あかりはあんな答えを出した。
「あ、責めてるわけじゃなくてね。私もノッちゃったし。本人達にその気がないのにこっちで勝手にカップル扱いするのは迷惑でしょ? だから自分に矛先を向けたのは正解。私も自分のところのリスナーさんに会えて舞い上がってた。客席はあまりイジらず、ステージ上で完結させるのが真の正解ってところかな」
「まあお客さんとの交流も公開録音ならではですからね。僕もラジオにハガキを送ってた人間だから、どうも熱心に送ってくれる人に肩入れしちゃって。申し訳ない」
「
「はいっ! 暗い反省はなしなし。ネタバレ禁止って言ったのもあるけど今のところ変な盛り上がりはしてないみたいだし、あかりん初の公開録音は大は付かないけど成功したってことで」
「そうですね。僕も今後の台本作りに活かします。いやあ、今日のゲストが内田さんで良かった。
「なに言ってるんですか
「内田さん知ってる世代かあ。油断してたな」
「サブ作家時代に何かあったんですか? あかり聞きたいです」
「ふふふ~。それじゃあ打ち上げでじっくり聞かせてあげよう。ライブの感想もた~っぷり聞かせてね」
「ほ、本当にいいんですか!?」
「ライブも終わったしパーッと後輩と飲みに行くのもいいでしょ。って、あかりんは未成年か。若い……」
あかりが高校二年生なのは誰がどう頑張っても捻じ曲げれない事実だ。
ちょっとした気のゆるみで飲酒でもしようものならどこからか画像が流出して声優人生がそこで終わる。
その辺の事情をすぐに察してくれる良い先輩だけど、時折あかりの年齢を思い出して勝手に落ち込むことがある。
内田先輩だって十分可愛いし、大人ならではの色気があるのに。
だけど、あかりはあえてそんなフォローをしない。
あかりが言っても嫌味に聞こえるかもしれないし、何より、わたしはちょっとへこんだあずみんが好きだからだ。
今この時だけは、ちょっとだけ
そうすれば、恋に悩む
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