「君のことが好きなんだ」

 なにもかもから決着をつけるように有栖川は告げた。

 だって、夢子が、牧間穂希を好きで、牧間穂希も彼女を好きだと口にしているのはなんなくわかる。

 二人の纏う当たり前みたいな甘くて、ふわふわとした気配が、きちんと感じられる。

 頭がいいっていうのは本当にこういうときいやになるくらい絶望する。

 オーヴァ―ドになっても、有栖川はいつも絶望していた。

 なにもかもわかってしまうとは、絶望にも等しい。

 けど。そんななかで夢子だけが絶望をさせてくれない存在だった。気まぐれで、薄情で、優しくて、強くて、弱くて、ふわふわで、かたい。

 目を離していられない女の子。

 理由があればいいのに、理由もない。

 ただ絶望しなくても済む女の子。

 彼女が自分とは違う男を好きになったのには、仕方ないと諦めて、ただどうしても、このままならない気持ちを吐き出したい。だからとびっきりのプレゼントを贈ろう思った。

「ふってもいいよ。傷つけるならきちんね」

「……」

「もし、許してくれるなら一晩だけちょうだい。大丈夫、誰にもばれないようにする。いいふらさないし、それだけで忘れるからなにもかも」

「……」

 困り切った目で、張り付いた笑顔で、手をこまねいて、そんな顔をさせたいわけじゃないのにと思いながら、その顔が見たかったと思った。

 人を傷つけるこが嫌いな夢子が、取り繕うと必死になっている。

 夢子にあげた赤玉の簪が輝いている。

 夢子を見つけたのも、好きになったのも、贈り物をして彼女を飾ったのも、自分のほうが牧間よりも先なのに。

 夢子がなにか口にしようとした。その一言をなによりもほしい。ほしくて、ほしくて。


「夢子」

 唐突にふってきた牧間の声。

 夢子がぎくりとした顔をして、すぐに笑った。

「呼ばれるから、またね」

 足早に逃げていく夢子に、有栖川は下唇を噛んだあと、すばやく言葉を、風にのせた。


「お前は何もかも忘れる。何も思い出さない。裏切り者め」


 確かにその声は夢子の鼓膜を叩き、脳を支配したのだろう。

 夢子がきょんとした顔をして振り返り、ゆるゆると笑った。けれどいままでとは少しだけ違う、どこか警戒した笑みだ。無意識でも、自分になにかされたのかわかるのだろう。

 警戒心の強い夢子らしい。

 夢子が足早に牧間のもとにかけていく。

 結局、どっちも選ばずに逃げていく。それが一番傷つける方法だってわかっているくせに。

「だったら、こうするしかないじゃないか」

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