第12話 分析!


俺は学ランのまま練習場に向かった。


バッティングマシンをど真ん中の130キロに設定して、ただ無心でフルスイングした。

室内練習場に金属の炸裂音みたいな激しい音が鳴り響いていた。



セットしている球がなくなり、マシンが止まると少しは頭の中のグチャグチャしている感情が落ち着いてくるのが分かってきた。




半分諦めて室内練習場をゆっくりと片付け、そのまま風呂の湯船に入って目をつぶって今日のことを思い出した。




まず、俺がやらないといけないのは同級生のスカウト。重要なところはスカウトしに行くのは女の子という点だ。



そもそも男子高校野球は特待生は5人と決まっていたはずだが、女子野球は違うかと思い調べてみるとまだそこまで歴史が深いわけでもなく問題になっていないようなので上限は決められていないようだ。



表立って特待生で免除します!とかは流石に言ってはいけないみたいだが、Aでどうですか?Bで入ってもらえませんか?など言わなくても何となく分かる言い方をすればまぁグレーらしいが、大丈夫だろう。




俺が持っているカードで使えそうなのは特待生として結構いい条件でスカウトは出来ることだ。



S特待1人とA特待が4人。

この条件なら来てもいいと思う人は結構いると思う。



だが、B特待6人はまだいいとしてもC特待4人は多分無理だ。

学費も入学金も免除されないし、偏差値的にはまぁまぁな高校で且つ進学率も悪くないみたいで、高校として考えるなら悪くは無いと思う。

白星高校女子野球部として考えると入りたいかどうかと聞かれるとまず返事はNoだろう。



有利になりそうな点。


俺が個人的に思ったのが、天見さんが監督で女性だというところ。

まだ実績のある女性選手が少なくて、男性が監督をしているところの方が断然多い。


男性が監督だと性的な目でみる監督だってもちろんいるだろう。指導と称してセクハラだってない訳では無いと思う。


天見さんならそういうことは無い。

最悪天見さんが同性愛者の可能性はあるかもしれないが、多分大丈夫だろう。



俺がコーチになったらそういうことの懸念が復活してしまうのが難点だが、監督や先生とは違い生徒である俺がそういうことをすると、すぐに噂になり追い出すことは簡単だろうからその点には徹底的に気をつけないといけない。



もう1つ有利になる点は俺が野球が上手いという事だ。


指導される方にも指導者のアドバイスを聞く聞かないの権利はもちろんある。


指導者が野球経験がなく、スポーツも出来ない。

けど、野球は好きでよく見てるから指導出来ると言ってる指導者のことを選手は果たして信頼して指導を受けるのか?



俺ならまず話を聞くこと自体時間の無駄だと思う。

だからこそ、俺の野球のプレーを見せつけて納得されれば話は進みやすいだろう。




逆に不利な点。


スカウトの俺が中学生だということ。


よく考えて欲しい。

女子野球の試合や練習に行って、スカウトしたい場合はまずはコーチや監督に話をしにいかないといけない。


そこでまず、よくて高校生にしか見えない俺がスカウトしに来ました!と来たと仮定しよう。

そこで相手が思うことは、なんの話し?みたいな反応が多いだろう。

男子中学生が女子中学生をスカウトしに来ることなんて有り得ないからだ。



一応白星高校のスカウトですよっていう証明の為に理事長や監督や教頭の名刺は預かっている。

代理という形を取れるようにはしているが、ほぼクロだろう。どれだけよく考えてもグレーだ。



最終的な話は監督たちがやってくれるだろうが、最終的な話に持っていくまでの過程は俺がやらないといけない。





「あー。考えるだけ頭が痛くなってくる。」




そう独り言を呟くとそのままお風呂の中に沈んで半分溺れかけるほど放心状態になっていた。




風呂に命を取られそうになりながらも風呂を上がってソファーに寝転がり、天見さんに貰った資料に少しだけ目を通しておこうと重い腰を上げて1ページ目を開いた。



GIRLSリーグ

第三回光カップ。



なんだ光カップって?

これ姉の名前を冠した大会なのか?

福岡には光という地名はないし、地元ということで姉の名前を使っているのか、名前を貸しているのか分からないがこんな大会があったのは初耳だった。



GIRLSリーグ。

一番最初に女子中学硬式野球のクラブチームを集めて発足された1番在籍チームが多いリーグになっている。


もう1つリーグがPrincessリーグ。

GIRLSリーグと何が違うかというとDH採用と、ベンチメンバーが25人とGIRLSリーグの20人よりも5人ベンチに入ることが出来る。




優勝

香椎フェスティバルズ。


1番打者センター西岡佑美。

今大会

打率.333、0本塁打、6打点、7盗塁、四死球4、出塁率.500、二塁打3、三塁打1、三振2。

守備機会18、エラー0、補殺0。




俺は1ページ目の優勝チームの成績をゆっくり見ていた。



そしてわかった。

これじゃ全然分からない。

ライト前にヒットを打っているのは分かるのだが、どんな球をどんなヒットを打ったのか分からないのはきつい。


先っぽにどうにか当てて、ライト前へポテンヒットもあれば完全に芯で捉えて完璧なライト前もある。




守備も同じで、たまたまた守備が上手い人がエラーふたつしていたりするとこのデータ上ではエラーが多いイコール下手くそとしか判断できない。



俺はあてになりそうところだけ見ることにした。

守備関係は一切あてにならないから見るのをやめた。



去年の大会の打者の通算成績で重要なところを上から並べると、


本塁打数。

盗塁数と盗塁成功率。

三振数。

打率と出塁率。



この4つだ。

上から並べた通り本塁打の数は1番重要だ。

最悪他のやつは見なくていいくらいは大切な数字ではある。

ホームランはまぐれでは殆ど打てない。

1本だけならまだしも、去年2本以上打ったバッターはかなり信用できる。



盗塁数と成功率は言わずもがなで、足の速さと直結している。

たまにビックリするほど盗塁技術が高い選手もいる。

そこらへんは盗塁数が多く、成功率が100%に近い選手をピックアップしていけば俊足の選手がわかりやすいということだ。



次は三振数。

これはバッターのバットコントロールがわかりやすい。

三振が少なければ少ないほどバットコントロールに自信がある打者が多い。

だが、これにも落とし穴があって殆ど見送らずにどんどんスイングしていくバッターは三振が少なくなる。

ツーストライクに追い込まれる前に結果が出てしまい、結果三振が少なくなるという点だ。



打率や出塁率は見たまんまだ。

高ければ高いほどいい。

だが、これは大会別の成績を見て1つの大会で打撃絶好調で打ちまくっている人だとどうしても通算打率は高くなる。

どの大会でも好不調なく打てている選手はいいバッターだと数字からわかると思う。




1番データで見て分からないのはキャッチャーだ。


盗塁阻止率、捕逸(パスボール)はデータ上にあるが、盗塁阻止率はもちろん高ければ高いことに越したことはないが、スカウトが来ているとわかってる試合では盗塁阻止をアピールする為にわざとストレートを多投させるキャッチャーも見たことがある。



捕逸は結構あてになるとおもう。

キャッチャーがパスボールと判定されるということは簡単な球をエラーしたということになる。

キャッチャーが捕るのが難しそうな球でエラーした場合は、ピッチャーの暴投(ワイルドピッチ)となる為、パスボールの数が少ない程キャッチャーの捕球能力が高いということになる。



後はリードなど成績に現れずらいのは球場に行ってしっかりと確認するしかなさそうだ。




投手を見る時に重要なのは、


与四死球。

最高球速と平均球速。

奪三振数。

完投数、完封数。



この4つだ。



俺が思うに投手に最も1番必要な能力


制球力。コントロール。


これはとてもシンプルでストライクが取れないと170キロ投げられようが消える変化球が投げられようがストライクが入らないと試合にはならない。

コントロールが良くないとキャッチャーのリードが意味を成さない。

与四死球はざっくりとだが、コントロールの良さがわかりやすい成績ではある。



次は球の速さ。

これはもう速ければ速いほうがいい。

最速と平均球速にあまりにも差がない方がいいピッチャーだと言えるだろう。

速くても与四死球が酷すぎると流石にスカウトしようとは思わないが。



奪三振数。


これは相手の強さによるところもあるから、全てを鵜呑みすることが出来ないながらもピッチャーとしての全体の能力の高さが分かるという、結構優秀な指標だと思う。



完投、完封。


これは最終回まで投げられる先発投手が分かる。

いい球を投げれても長い回を投げられるとは限らない。

先発投手にはもちろんのことスタミナも必要。

完投、完封できる投手に共通しているのは、上手に手を抜けることだ。打たれないと思うバッターには体力を温存する為に力を抜いて投げる。

それと抽象的だが、闘志がある投手。気合いがある投手が多い気がする。

ついでに変わり者も多い気もする。




この基準で俺は1から資料を精査していった。

だが、これには相当時間がかかった。

全て精査し終わるまで1週間ちょっとかかってしまった。



家に帰ってトレーニングして、資料に目を通してからやっていたので疲れもあって進まないっていうのもあった。





俺はそうこうしてる間にいつの間にか春休みに突入していた。




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