第15話 平成3年雲仙普賢岳大火砕流人災2
【余談】
-5-
この警察官を巡る「マスコミ」の蛮行は、まだ続く。
当時、売り上げを伸ばしていた雑誌に写真週刊誌というものがあった。
その先駆けとなったのが新潮社が出していた「フォーカス」という雑誌であった。
このフォーカスが、何と火砕流で焼け死んだ、この勇敢な警察官のご遺体の写真を掲載したのである。
悲しみに打ち拉がれるご遺族の気持ちを踏みにじる蛮行も蛮行、日本人がすることではない。
その翌々週?のフォーカスに同社の謝罪記事が数行載った。
それで終わりである。
誰も責任を取ることなく謝罪文を数行載せただけでご遺族の心を踏みにじった蛮行は何もなかったように終わったのだった。
写真を載せれば家族から抗議が来るだろう、来たら謝罪文を載せればいいさ、売れたが勝ち、という皮算用ではなかったのか?と
-6-
「マスコミ」の非道は続く。
大火砕流が発生してからどれくらいたったころだろうか。
あれほど雨後の竹の子のようにあっちこちを跋扈していたマスコミの姿が島原半島から綺麗に消えたのだった。
毎日のようにカメラを向けられている住民は、その異変に気付いた。
後刻、その理由は行政、住民の知るところとなる。
火山研究者から「普賢岳の山体が異常膨張している」という情報を入手した「マスコミ」はそれを本社等に報告した。
これ以上の被害者を社員からは出してはならない、と判断した本社サイドから記者、カメラマン等へ島原半島から直ちに避難せよ」という指示が出されたのである。
あれ? 「ジャーナリズム精神……」を島原半島に置き忘れていますよ、である。
そんなことはつゆ知らず市民、行政、治安部隊は日常どおり生活、業務に当たっている中「マスコミ」だけが「インサイダー情報」に基づき島原半島から「逃げだし」のである。
住民を見捨てて…………
後日、山体の異常膨張の話は否定? されて住民等の避難等は一切なされることはなかったが「マスコミが逃げた」という事実は市民のすべてが知るところとなったのである。
「マスコミ」は人殺しという汚名の上に「卑怯者」という汚名まで着たのだった。
-6-
大火砕流の後、どれくらいたったころだろうか被害にあった、あるテレビ局の家族が本を出して「夫は、興味本位の視聴者の犠牲になったんだ」ということを世間に訴えた。
「視聴者は無責任に「もっと迫力のある映像を……もっともっと……もっともっともっと」と求めるから、夫たちはどんどん最前線に出ざるを得なくなり、結果、焼け死んだんだ」と書かれていたという。
それは違うと思う。
視聴者ではなく、他局との競争で自分たちが勝手に盛り上がって競争していただけではないのか。
それを視聴者のせいにするのは違うと思うが、一つ気になるのは、この本は本当にその被害者の家族が出したかったんだろうか、という疑問である。
地元では憎悪の対象でしかない「マスコミ」も実は可愛そうな組織の犠牲者ではあるし、一人一人にみんな大事な家族がいる。
その家族が、大事な人を亡くしてショックを受けている中、本を出版しようなんて思い立つだろうか。
まず、自分で原稿を書いて出版社に持ち込んだとは考えにくいだろう。
本を書けば売れる踏んだ出版社が家族のぶつけようのない怒りにつけ込み書かせたか、それとも一番うがった見方をすれば「マスコミ、人殺し」という悪評の視点を逸らしたいと思うどこかの組織が書かせたのか……
それは当事者ではない者には知るよしもないことだけど、マスコミの所業を視聴者のせいに転嫁するのは違うと思う。
ただ、この本は商業ペースに載りたくないので読んでいないので本の宣伝等で漏れ伝わってくる情報だけで論評しているので本の趣旨を勘違いしていたり逸脱しているかもしれないね。 ――
-7-
斗司登の長い話が終わった。
小百合は斗司登が抱えているものの大きさ重さを初めて知ったのだった。
島原半島には北面(きたんめ)と南面(みなんめ)という言葉がある。
雲仙を挟んで北側か南側かという言葉である。
昔から北側と南側は生活圏が完全に異なっており、特別な用件がない限りお互いの行き来は少ないのが現状であった。
だから普賢岳災害は小浜に住んでいた小百合に取っては幼かったこともあり身近な出来事としての実感がなかったのであった。
それを斗司登は肌で災害を感じ、被害者の家族としての苦しみを抱えて生きてきたんだと話を聞いて痛感する小百合だった。
斗司登は続けた。
「市井の板前が、現代で一番の権力機関のマスコミ様に何を思ってもドンキホーテ以下だけど、被害者の息子として思うのは、マスコミに勤める人って正の遺産だけではなく負の遺産もしっかりと受け止めて欲しいんだ。
それは自分たちには関係ない。
「昔の人たちがしたこと」って忘れるのではなく、先輩たちがしでかした失敗も自分たちの財産だからと受け継いで、世の中、人のためになる報道をしてもらいたいものだよ」
「それって無理じゃないかな。だから若い人を中心にマスコミ報道を信じない人が増えてるんじゃない。
マスコミは、自分たちで自分たちの首を絞めいていることに気付くべきと思うわ」
そんな小百合の言葉を聞き斗司登は
「委員長が、変な方に話を振るからついムキなって一人でしゃべってしまったじゃないか………… 今の俺たちにはマスコミの将来より橘湾荘の将来だよ。橘湾荘をどうするか、それを考えようや」
と斗司登は言うと小百合のコップにプレモルをつぎ足し、自分のコップの中のビールを一気に飲むのだった。
閑話休題
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