四章 展延
ダンジョンの制限時間を過ぎ、バルト達は入り口に転送させられた。
「皆、少し待って!」
クリスはそう言うとキャスを含めたビックキャットを3体召喚する。
「この子達に乗って移動して。キャス、バルト君を頼んだよ」
「了解しました」
そう言うとキャスはバルトの近くに駆け寄ってきた。
「悪いな、キャス。あとクリス、この剣持ってろ!」
バルトはキャスの頭を撫でながら、クリスに剣を投げる。
「剣なら持って……うわっ!何この剣!?魔力量2倍位になるんだけど!?」
「長期召喚は魔力使うだろ?じゃあまた後でな!」
バルトはキャスに乗り、実家に向かいだした。
「バルト様、乗り心地はどうですか?」
「俺が知る限り最高の移動手段だな。モフれるし、ナビアプリいらないし」
「ナビアプリ?とはなんでしょうか?」
「地図というか、道順というか……とにかくキャスは優秀だって事だよ」
「そんな優秀だなんて……でもありがとうございます」
走りながらキャスの喉はグルグルなっていた。
「それよりあの剣すごいですね。かなりの高レベルの武器じゃないですか?」
「なんか聖剣クラスらしい。しかも誰が持っても魔力量が2倍になるみたいだな」
「そ、それって本来国が管理するような武器じゃ……」
キャスがあまりの武器の強さに驚いている。
「俺もそう思う。でもそれなりに欠点もいくつかあるんだよ」
「例えばどんな欠点ですか?」
「1つ目は魔力2倍は、持った時点での2倍ってことかな。魔力が少ないときに持っても意味がない。2つ目は持ってないと効果が持続しない」
「闘いの中だと、貸し借りは難しそうですね」
「その通り、3つ目は1日に1度しか効果が発動しないことだな。たとえば1秒持って人に渡して、戻して貰うだろ?その場合は1秒しか効果は得られない」
「強力な分、制限が色々あるんですね」
「本当になんでもありの最強武器は、絵本の世界にしかないって事だ。あとさ、俺からも1つ聞きたい事があるんだけど」
「ダフネの事ですか?」
キャスはバルトの指差す方向に曲がりながら、チラッとバルトを見る。
「あれ?キャスいなかったよな?」
「戦闘が始まると、私とクリスは自動リンクされて視覚を共有できるんです。じゃないといきなり召喚されても何も出来ないですから」
「そう言われればそうか……なら話は早いんだけどダフネって何者なんだ?」
「種族は
「え!?キャスの首輪ってクリスの趣味じゃなかったの?」
バルトはキャスの首輪を触りながら、驚いた。
「バルト様、多分学校で習いますよ……本来契約者がいなくなると私たちは魔界へ戻される決まりです。
ダフネは何かイレギュラーな事態が起きて残ってしまったパターンですね」
「イレギュラーって、例えばどんな事があるんだ?」
「本当に
キャスが分かりやすく落ち込む。
「こ、こっちこそごめんな!それより、
バルトはキャスを励まそうと一生懸命モフりながら道を指差し、話題を変える。
「任せてください!
もちろん以前の姿にも戻れますが、進化した姿は使い魔によって違うので種族が分かりにくくなるんですよ」
キャスは上手に説明できて嬉しかったのか、どや顔をした。
「……キャスは
「バルト様!?あの……自分ではわからないのでなんとも言えませんが……私の強さでは不満でしょうか?」
今度は逆にバルトのテンションがいきなり変わり、キャスは心配そうにチラチラ顔を確認している。
「キャス……これは命令だ……近いうちに絶対に
モフモフのキャスと、猫耳少女のキャスが見れるなら、俺は両方見たい!
どうかお願い致します!土下座でも何でもします!一生で一度のお願いもここで使います!」
バルトはふざけた内容とは真逆の真剣な表情で、キャスにお願いする。
「は、はい!バルト様がそこまでおっしゃるなら、私頑張ります!」
キャスはバルトに喜んで返事をした。
この時バルトはまだ、使い魔にとって約束がどれだけ重要な意味を持つのか理解していなかったのだ。
バルト達が実家の前に着くと、魔物の死体が山になっていた。
「バルト様……これって……」
「念のためと思って来たが、やっぱりいらない心配だったな」
バルトはセシリアの姿を探すと家から少し離れた所に大きな穴を掘っている。
「母さん、それ魔物の死体を埋める穴ですか?」
バルトはキャスを連れてセシリアの方へ向かった。
「そうよ、そうしないと魔獣が寄って来て大変なんですから。
それよりあなたは大丈夫?騎士団の皆さんが血眼になって探していましたよ?」
「やっぱり知ってました?ここにも来ましたよね……?」
「来ましたよ?話が通じない方達でしたから少し痛い目にあって貰いましたが。今度は何をしでかしたのですか?」
「あはは……どこから話したものか……」
時間がないので簡単にセシリアに今までの出来事を話した。
「それはまた厄介な事に巻き込まれましたね……考えてるとは思いますが、指名手配の容疑を晴らすのはどうする気です?」
「……実は色々考えているのですが……思い付いてなくて……」
実際、かなり前からバルトは睡眠時間を削って打開策を考えていた。
名誉の為、仲間の為、国の未来の為に…………
ではなく、このまま指名手配されていては一生サキュバス店に行けないからだ。
「あらあら、簡単な話ではないですか?」
セシリアがキャスを撫でながら首を傾げた。
「簡単?というと?」
「どうせその勇者が挑んでも大敗するでしょうし、あなた達が魔王を倒してしまえば良いのでは?そうすればあなた達は英雄になります。
英雄であるあなた達が国の悪事を話せば、皆様に信用して貰えるのではなくて?」
「簡単に言うけど魔王を倒すってことは、俺らが魔王より強くなくちゃいけないんですよ?現実的にそれは無理でしょ」
「母さんが代わりに倒してもいいんですが、当分お仕事が忙しいからそれは無理ですし……それに私までとは言わないけど、あなた達はなかなか強いと聞いていますよ?」
「……噂話が大きくなっただけです。母さんも無理はしないでくださいね!キャス、ミルコさんの店に向かうぞ」
バルトはセシリアの安否確認が出来たので、急いでミルコの店に向かい始めた。
「バルト様のお母様は面白い方ですね!冗談のセンスがシュールで好きです!」
バルトを乗せたキャスはクスクス笑いながら、楽しそうに話しかけた。
「冗談?なんの事だ?」
バルトは不思議そうにキャスに聞き返す。
「お母様が、魔王を代わりに倒すって冗談です!私シュールなのに弱いんですよ!」
「いや、あれ本気だぞ?」
「ふふ……え?」
「本気。しかも母さんならまじでやると思う」
「いやだって、魔王ですよ?魔王!さすがにいくらお強くても……」
「母さんの仕事は上級以上、いわゆる
「そ、それは……本当にできそうですね」
「だろ?ただ、俺達が出来るかってのは別の話だからなぁ……どうしたもんか……」
完全に引きつっているキャスを横目に、バルトは腕を組みながら今後の動き方を考え始めた。
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