9、葛西秋『猫の踊り』

葛西秋『猫の踊り』


https://kakuyomu.jp/works/16818622171442837386


▶冒頭1万字以内に出てくるなかで一番好きな登場人物と台詞


好きな登場人物:染物屋の虎猫

そのセリフ:「いやあ、こえぇ、こえぇ」


▶︎1万字程度としてキリの良い話数


短編ですので4000字未満完結です


▶︎具体的な想定読者


猫好きな人、昔話や民話が好きな人







では、9人目。私がカクヨムで一番お世話になってる方こと、葛西秋さんです。


葛西さん、私の感想書き企画の初回から欠かさず参加してくださっていて、お付き合いはかれこれ4年くらいですかね。

私のグダグダ大学生生活を気にかけていただいていたので、私が卒業して、真っ当な(?)社会人をしていることには、さぞかし感慨深くお思いのことでしょう 笑。


たしか、4年前の時点で執筆歴は半年〜1年くらいだった気がします。

当時、執筆の中心にあった作品はこちら。


『通う千鳥の鳴く声に』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934728311


幕末、架空の藩を舞台に藩主とその側近が、時代の波に翻弄されながらも絆を深めていく本格歴史物BLの長編ですね。


これで、本業が理系ど真ん中っていうんですからね。さらには、筆も速くて、絵も描ける。

やはり、優秀な頭脳をお持ちの方は、多方面に技術を習得されるものです。


今回の作品は、ガラッと雰囲気が変わって、気楽に読めるエッセイ物語調の短編ですね。


んで、私は私で、エッセイ形式に対する感想の書き方が掴めていないんです。

感想、というか、本当に思い付いたことを並べているだけになりますが、よろしくお願いします。







まず、全体の構成について。


宿の女将さんが昔話として猫踊りを語る、実に自然な流れで、お伽話の世界観が描かれていました。

そのお話を聞いて、明日は猫を探してみよう、との書き手の考えを述べて物語を締めるのも、余韻があって良かったです。


用語選択も、想定読者(昔話や民話を好む人)にとって過不足ないと思います。


また、口語に徹した書き方は、わかりやすさと臨場感があり、とても読みやすかったです。


かつては、現代ドラマ短編と歴史物長編とで、あまり書き方を変えられていませんでしたけれど、

今はかなり明確に使い分けていますよね。


去年の春先から、伝承や古いモノをテーマにした作品をたくさん書かれていましたし、

短編・エッセイの書き方を確立されたんだなぁと感じました。



ひとつだけ、「検断」の説明について、引っ掛かりを覚えたので、記しておきます。


>このあたりでは、むかし、地域のまとめ役の人のことを「検断けんだん」と呼んだのです。揉め事や困りごとがあるとなにはともあれケンダンさんに聞いてみよう、という具合で、お役人さんに届け出るまでもないことは何でもケンダンさんに相談したんだそうです。


検断とは、いわゆる庄屋や名主と呼ばれるような「村方三役」のひとつですね。

で、「お役人さん」という語句の響きから、「ケンダンさんに相談しよう」との習慣は、明治以降に発生したものだと考えられます。


かつて、郡奉行の下で検断役を務めた「ケンダンさん」は、

明治以降、名主のような村方の行政請負役が消失しても、地域のまとめ役として尊敬を集めていた、

ということですよね。


なので、ちょっと文中の用語を変えて、


このあたりでは、むかし、村の庄屋を「検断けんだん」と呼んだんですね。明治になってからも、揉め事や困りごとがあるとなにはともあれケンダンさんに聞いてみよう、という具合で、お役人さんに届け出るまでもないことは何でもケンダンさんに相談したんだそうです。


こんな感じに、検断役の本来とその後を示していただけると、より親切かなと思いました。

おおよその時代設定も示せますし。


私も一応、庄屋の類型として「肝煎」までは知っていましたが、「検断」は初めて聞きました。

奥州を中心に使われる用語なんですねぇ。ひとつ賢くなりました。


ちなみに、シルク生産の日本最北限を謳っているのは、酒井さまのお膝元、山形県鶴岡市の「鶴岡シルク」なんですよね。


てっきり、桑の栽培限界(北限)が山形県なんだと思っていましたが、

衰退してしまっただけで、秋田や岩手でも、かつては養蚕が盛んだったんですね。


今回調べてみて、水沢もまた、県内における養蚕業の代表地だったと知りました。

80年代までは生産が盛んで、農家の大規模化も見られたようですね。


https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/929/sanyou10-13.pdf


養蚕業は、大正時代がピーク→世界恐慌や化学繊維の普及で打撃→戦後は衰退、との認識だったので意外。






ここまでが、『猫の踊り』への感想です。


葛西さん、当企画には初め、『白雉の微睡』にてエントリーされていました。

中大兄皇子なかのおおえのおうじ中臣鎌足なかとみのかまたり。大化の改新で知られるこのふたりを、まだ皇子が少年だったころの出会いから描いた長編小説です。


https://kakuyomu.jp/works/16817330663626935254


葛西さんの「らしさ」を味わうなら、こっちも必読ですよ。皆さん。


厳しい時代のなかで、最善を考え抜き、懸命に生きる人々の姿があります。

日本史、とくに国際関係や外交史がお好きな方には、ぜひオススメしたい一作です。



一応、『白雉の微睡』も読んでいたので、誤字関係だけ報告しておきますね。

と言いつつ、こっちの方が分量多くなってしまっているんですが……。


まずは、ただの誤字。

第4話。

「集中して文字を追っていた鎌子耳にふと」

→「集中して文字を追っていた鎌子耳にふと」


あとは、疑問というか、たぶんこうなんじゃないかな、という指摘です。



▶︎「王」と「皇」について


作中、中大兄はなぜ「葛城王」とされるのでしょうか。

彼は両親共に天皇なので、「皇子」身分でこそあれ、「王」ではありません。


何か意図があるのでしょうかね。

しかし、弟宮の大海人は「皇子」で通されていますし。

その一方で、斉明帝が「女王」とされますし。


「王」および「皇」の混同が気になります。



歴史学において、ですけれど、

天皇や朝廷の権力を「王権」と記すことは、一応、幕末まで通して行われています。

(とはいえ、主な用例は、古墳〜飛鳥時代に集中しますが)

王=king で用いているからですね。


しかしながら、日本の皇室制度における「王」とは、

皇孫〜5世までの皇族に与えられる身分です(奈良時代の律令において)。


中大兄と大海人、ふたりが相争ったと伝説に残る額田王も、この「王」身分の女性です。


ですから、この混同は意図的でなければ、修正していただきたいところです。



合わせて、読み方について。


蘇我連大臣は「そがのむらじのおおきみ」と訓読します。

太政大臣(おおまえつぎみ)は、近江朝にて大友皇子が就いたのが始まりですから、

作中の時代には、まだありません。



▶︎漢文について①


「無疏其親無怠其衆 撫其左右御其四方 無借人国柄 借人国柄即失其権」


https://zh.m.wikisource.org/wiki/六韜


困ったときの、wikiソースです。


・1句目

の親をうとむ無かれ、の衆をおこたる無かれ」

と読み下すと自然に感じます。

読み下しの引用元を一度、確認してみてください。


おこたる」とは、

日本語では、なまけるとか油断するという意味に留まりますが、

漢文(中国語)では、軽慢きょうまんするという意味も有します。


軽慢って初知り単語ですけど、軽んじて敬重しないこと、らしいです。


漢文を理解するさいには、国語辞典ではなく漢語辞典を用いると、誤訳が減らせます。


私が一番助けられている中国古語辞典はこちら。


https://sou-yun.cn/index.aspx



・2句目

の左右をし、四旁しぼうを御すべし」


1句目と2句目は対句です。

ですから、読み下し文は、3句目と続けずに、切り離します。


末字は、「四方しほう」ではなく「四旁しぼう」ですね。


「四方」では、方角や地理的な領地の意味になりますから、

「傍」と同義である「旁」を用いて、「四旁」とすると、直前の語句「左右」と釣り合いが取れます。



・4句目

同じく「すなわち」と読み下しますが、「則」ですね。

「則」は条件を表し、「即」は時間的な隔たりや、疑いのないことを表します。


また、条件なので活用は未然形となり、

「人に国柄をさば・・すなわの権を失う」

と読み下します。



▶︎漢文について②


「因其所喜以順其志 彼将生驕必有 好事筍能因之必能去之」


中の句が文法的に成立していないので、検索をかけてみると、

「彼將生驕、必有事。苟能因之、必能去之」

「彼將生驕、必有事。苟能因之、必能去之」

このふたつがヒットしました。


「奸」とは、法を犯すことや女犯を指します。

ですから、意味を考えると、「我々にとっての好事・・あり」とするべきなんでしょうか……

お手許に資料残ってませんかね?


で、「好事」として読み下すと、

「彼、まさに驕りを生ぜんとし、必ず好事あらん。いやしくく之に因らば、必ずく之を去らん」

とかになるはずです。


「将」は再読文字ですね。「まさニ〜セントス」です。


彼はきっと驕りを生じさせて、必ず「スキ」を見せるだろう。もし、この作戦に基づいて行えたのなら、きっと彼を退けることができるだろう。


という感じ。







私がやってきた漢文は、漢詩および近代のジャパニーズ漢文が中心なので、

論語のようなガチ漢文を白文で読み下すのは、けっこう苦手です。

ですから、信頼できる読み下し文が見当たらないときは、白文のまま使っちゃったりします。


最近は、ChatGPT先生に聞いてみたり。


現代において、漢文読解は特殊スキルですから、ミスがあっても、気付ける人なんてよほどいませんけどね……。

気付くな〜、なんて願いながら、書いたりしちゃいます……。


なお、漢文や読み下しは、漢学者が訳したもの以外は信用しない方がいいです。

ちゃんと本から引用しても、その作者が国文学者だったりすると、けっこう誤りがあります。マジであります。

マジで現在、漢文を作品に入れたければ、自分でなんとかするしかない状況です。







さて、2作分ですので、まとまりが付きませんね。

葛西さんの作品を改めて色々読んだり、感想を書いたりして、

かつてお話しした歴史トークとか思い出して楽しかったです。

一日遅れてしまい、お待たせしました。


実は、スマホの液晶が急に黄緑色に光ったきり、操作が効かなくなってしまいましてね。

新しいスマホを買い、アカウントを移行して、様々アプリを再インストールして……と、復旧作業に追われておりました。


この感想を初め、カクヨムに投稿する作品は全て、スマホのメモ機能で作成していますから、作業がストップしていたわけです。


というわけで、明日は梶野カメムシさん、明後日は八木沼愛さん、それぞれの感想に取り掛かります。

よろしくお願いします。

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