4、かぬりす『ヤドリギの花は咲かない』

かぬりす『ヤドリギの花は咲かない』


https://kakuyomu.jp/works/16818093092190206566


▶︎冒頭1万字以内に出てくるなかで一番好きな登場人物と台詞


池畑恭平(サイドストーリーの主人公ですが、本編にも名前は出てくるので……)


きっとその内、自分が銃を咥えている理由も分からなくなる。


▶︎1万字程度としてキリの良い話数


本編


▶具体的な想定読者


バイオハザードとかポストアポカリプス系の世界観が好きな方







さて、学生さんが続きますよ。

来年度が受験ということは、新高3ですかね。

筆運びを鑑みるに、まだ中学生でしょうか。

14歳と仮定しておきましょう。


14歳でこれだけのものが書けている、というか、作品をしっかりとまとめていることは、とても驚きです。

アイデア一本ではなく、ストーリーの起承転結や、謎を散りばめるといった技術的な面で見ても、十分に健闘が伺えます。


お勉強もできるようですし、今までに読んだ本を構造的に捉え直して自作に活かす、といったメタ的な能力が高い方なんでしょうね。


というわけで、かぬりすさんならオブラート使わなくても大丈夫でしょう。

以下の感想、まずは薄目にして読んでください。それで、取り入れてやってもいいかなと思えるところだけ取り入れて、あとは忘れる、くらいの真剣度合いでお願いします。



まず、率直な感想ですが、読むのはかなり苦しい作品でした。

要らない情報、重複する説明、設定の甘さ、リアリティのなさ……が、ひと塊りを読むごとに目に付きます。


私の感想は、本文を逐一取り上げるスタイルではありませんから、

もっと丁寧に見てくださる梶野カメムシさん(@kamemushi_kazino)の感想企画に参加されることをオススメします。

マジで手厚いですから。


では、今回は梶野さんの企画に参加する前に、どのように手直ししていくか、そんな設定で進めていきましょう。



▶︎人称について


本作は三人称ですが、ずっと主人公視点なので、一人称にまとめてもいいんじゃないでしょうか。


(原文)優斗は少し考えてから窓を壊して中に入ることを決めた。開くかも分からないシャッターを無理にこじ開けるのに時間を使うよりリスクが少ないと判断してのことだ。


(一人称化)どうしようか。……うん、仕方ないよな、窓を壊そう。シャッターをこじ開ける最中、あいつらに襲われるよりはマシだ。


一人称の方が臨場感ありますよね。

「ウィードマン」化の前兆として、記憶の混濁、記憶力の低下がありますが、それも一人称なら、より自然に描けるはずです。


また、本作には「と、優斗は思った」がとにかくたくさん出てきます。一人称にするだけで、この7〜8字は削除できますから、その点においても、一人称を推したいですね。



▶︎単語への修飾について


(原文)優斗は壁に掛かっているリュックを背負い、棚に仕舞ってあるコンパスと、空き家からくすねてきたショットガンを取り出した。


「壁に掛かっている」リュック

「棚に仕舞ってある」コンパス

「空き家からくすねてきた」ショットガン


装飾が並びます。

ショットガンについては、この後説明がありますからいいとして、前のふたつですね。


リュック、別に床に直置きしていても、椅子の座面に掛けてあっても、壁に掛かっていても、ストーリーやキャラクター造形に関係ありませんよね。

コンパスも、わざわざ「棚に仕舞ってある」のなら、何かしら、父さんが使っていたもの、とかそんな設定があるのかと思いきやありませんし。


どっちでもいい情報、物語に寄与しない付帯情報は書かない。

そのために、書きたい一文が本当に必要なのか、物語展開に寄与しているのか、考えるクセを付けていきたいですね。


読者としては、物語に書かれた情報は全て物語世界の一部として受け取ります。覚えておこうとするんです。

しかし、初めて読む物語。主人公の名前や属性、世界観、目的。そんなものを覚えたならもう、読者の記憶メモリーはほぼ埋め尽くされているんですね。

そんな読者さんの頭の中に、「主人公は埃アレルギーではない」なんて情報、入れようとさせてはいけません。


クール系キャラに余談のような情報を書き加えさせる手法はよくあります。

しかし、それは相当上手くやらないと、話の腰を折られた気分になります。だんだん、どうせ覚えていてもこれきりの情報なんだろうな、と頭が記憶メモリーの稼働をサボり始めるんですね。

集中力が下がってしまうんです。


ですから、伝えたいことをまずしっかり伝える。

この意識を持ってください。



▶︎ショットガンについて


私はミリオタではありませんが、叔父が猟銃を所有していましてね。

幕末期の時代物も描きますから、銃器についてはチョットワカルです。


で、一般的に猟銃として使われるショットガン(散弾銃)は、弾倉2発+薬室1発の計3発装填です。

3発打って、その場で弾倉だけ替えたなら、次は2発です。


作中世界には闇のコピー銃が出回っているんですよね?

正規に所有される猟銃がコピー元であるのなら、主人公が手にした散弾銃も、装填は3発なのではないでしょうか。


というか、闇なら合法の筒型弾倉(チューブマガジン)にこだわらず、海外映画とかでよく見るバナナ型の大型弾倉で作ればいいのに、と思いました。せっかく犯罪がない世界なんですから。

散弾銃なんてショッパイ銃より、もっと派手にいこうぜ、ってならなかったのでしょうかね。


あと、日本で所有が許されている、つまりコピー元になりうる銃って、ライフル銃もあります。

鹿やら猪やらの大型動物には、ライフルが主に使われます。弾倉5発+薬室1発の計6発ですね。


物騒なこと言いますが、ウィードマンは人間なんですから大型動物扱いでしょうし、ライフル銃の方が求められるんじゃないですかね?


あと、バリケードや鍵を散弾銃の弾で破壊しようとしないでください。危ないです。

至近距離で硬いものに弾を撃つと、破片とかが撃ち手に跳ね返って来ます。

それに、弾は貴重なんですから、ムダに撃つことはありません。


気になったのは、「銃による殺人事件は驚くほど少なかった」という設定。

コロナ禍を思い出しても、それはないんじゃないかなぁと思いました。


たぶん自警団組んで、少しでも挙動がおかしい奴がいたら、感染も確かめずに処していますよ。



▶︎田舎の食糧備蓄について


田舎のお家って、食糧庫に100キロくらい米が備蓄されているのも珍しくないんですよ。

農家でなくても、畑で何かしら育てている人が多いですし。


それに、作中世界では11月なんですよね。

実りの秋ですから、山には、栗や胡桃、山芋。うさぎもいますし。最悪、松の皮でも剥いで食い繋ぐことはできます。


政府機能が壊滅するほどの状況においても、主人公が逃げ続けて生き延びられたのなら、

僻地の山奥ではなおさら、普通に冬を越せそうに思えてしまうんですよね。


彼らは、一体どうしてしまったのでしょう。

ウィードマンが、「保菌者」と接触し受傷させることによって感染、拡大するのならば、

そもそも人との接触が少ない田舎含めて、たった3ヶ月で壊滅するとは考えられません。

コロナ禍でさえ、岩手一号は7月末でしたよ。



▶︎実在の名称を使用することについて


ちょっと真面目な話をします。

本作の「ウィードマン」が新型コロナウイルスを元にしていることは、読んだ皆さんが容易にわかることでしょう。


コロナ禍当時、日本国内では中国系の人々に対する誹謗中傷が横行し、世界では、日本人を含めて、東アジア系の人々が人種差別に遭っていました。


まだまだ記憶が新しいなかで、あえて本作で「中国」と実名を出した意図はなんでしょうか。

一度、考えてみてほしいです。


おそらく、リアリティを追求したかったとか、謎のウイルスの発生源として使い勝手がよかったとか、そのあたりだと思います。

むしろ、ちょっと露悪な感じを楽しんでいたのではないでしょうか。


好みの問題、と言われればそれまでですが、

私は、露悪に頼らない地力を着けてほしいと思います。


コロナ禍を経た現在、「謎のウイルスが世界を滅ぼしかけている。さあ、その発生源たる国は?」と尋ねたら、多くの人が中国を挙げることでしょう。

つまり、悪意の自覚あるなしにかかわらず、この設定は、安直で意外性がないんです。


裏を返せば、誰の心の中にもこの偏見があるがゆえに、読者を簡単にニヤリとさせることができてしまうんですね。


ですから、このような露悪に頼っていては、粘り強く設定を練っていく力が身に付くことはありません。


うるさいことを言う、と思われるでしょうが、どうか心に留めておいてほしいです。



▶︎ウィードマンについて


先程も触れましたが、ウィードマンが増殖するには、人間を傷付けなくてはいけないんですよね。

つまり、直接の接触が必要なわけで、それって生息数の拡大においては、かなり非効率です。


海外から来た人間を2週間くらい独房にぶち込んでおけば、水際対策ができるのですから。


空気感染が最強。もっと言えば、土に潜んでいて、作物全般に感染→経口接種からも感染していく、とかにでもしなければ、増殖スピードの説得力がありません。


また、気になったのは、ウィードマンの行動習性について。


植物的特徴を有しているので、夜や曇り、雨の日に少ない=日光を好むとは、すぐに理解できます。

ですから、「建物内にはウィードマンが多くまずは駆除から入る必要があった」との一文には、矛盾を覚えました。

日光を好む彼らは、外をうろついているはず。ならば、人々は屋内なり地下なりに避難すればよいですよね。


官公庁には大抵、立派な地下施設がありますから、政府が機能不全になるというのも、説得力がありません。

核攻撃されても、政府は機能するように備えられている……はず。たぶん。


それから、ウィードマンは、素人が散弾銃を2発2中できる程度には愚鈍な存在ならば、自衛隊はいったい何をしていたのでしょう。


とにかく、今の設定(感染力、機動力、頑丈さ)では、世界を滅ぼすことはほぼ不可能です。

コロナウイルスと違って、敵は目に見えるどころか、取り押さえられるんですよ。


もっと最強の存在にすべく、設定を盛っていきましょう。







では、最後に。

構成自体はよかったと思います。


次第に記憶に混濁が生じて、自身がウィードマンに感染していたことを知り、先達に倣って自決を選ぶ。


この流れは、違和感なく描写されていました。


また、単語の選択(使い方)がおかしいと感じる点も多くはありませんでした。


文章を書く力、そのものはかなり高いはずです。

ですから、①設定を練り直す、②構成を整える、③余計なことは書かない、この3ステップを踏めば、かなり質の高い作品になると思います。


春休み課題が済んだら、取り組んでみてくださいね。


ちなみに、設定の甘さは、人生経験を積めばある程度なんとかなります。常識とか教養とかで太刀打ちできますからね。

ですから、今は学校の授業、とくに理科社会と家庭科をがんばってください。


それでは、おつかれさまでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る