第30話 パンツの魅力


「なんか、買い物、すぐ終わっちゃったね、商会って便利だけど、なんか買い物って感じがしない!」


「確かにそういわれると淡白な買い物だな、欲しいものオーダーするだけだからね。

リーゼは何か買いたいものある?

せっかく時間あるし、選びながら色々買ってみたら?」


「うーん、欲しいものかぁ、今の生活は特に困ってないしなぁ~。

今年は麦もたくさんあるし、欲しいもの……」


「服とかは?」


「服かぁ~」


 圭が服と指摘したのも、今リーゼが着ている服は、農村の娘丸出しの作業ズボンに上着だからだ。

 村では普通の格好でも、街を歩くとなるとやや貧乏くさい。


「私はこれが着慣れてるし、村にもどったらみんなこれが普通だし。

そりゃ、たまにはオシャレな服もいいと思うけど……贅沢だよそれは」


「なら贅沢すればいいじゃん。お金はたくさんあるんだから。

それに、俺が村から出たら、こういうのも多分できなくなるよ」


「やっぱりブルーレットは村から出て行くんだね」


「元々そのつもりだからね、そのために今村で俺の旅服を作ってもらってるし」


「そうか~、そうだよね、うん、旅か……。買う! 私も服買う!」


「あそこの店はどう? 服屋っぽくない?」


「あの店は高いよ、貴族とかお金持ちの人が買う店だよ」


「よし、ならそこにしよう、いい服は長持ちするからね」


「え? いやいやいや、場違いだって! もっと安い服屋たくさんあるから!」


「いいからあそこに行くよ!」


 リーゼの懇願も空しく、圭はリーゼを連れて服屋に入った。


 日本のアパレルに比べたら地味だけど、品物はそれなりに良さそうだ。

 ドレスやスーツからガウンなどの部屋着に至るまで品揃えはいい。


 農婦オーラ全開のリーゼが恥ずかしそうに縮こまっているが、圭は店員に色々オーダーする。


「この子を、どこに出しても恥ずかしくない、貴族の娘みたいに仕上げてくれ。

気に入ったのがあれば何着か買っていくから」


「あ、あの失礼ですが、ご予算はお幾らくらいでしょうか」


 女店員が不安げな顔で聞いてくる。

 無理もない、ボロシーツの男に農婦スタイルの娘だ。

 冷やかしと思われても不思議じゃない。


「あー、幾らと聞かれても、俺も相場がわかんねーな。

ちなみにあの青いドレスは幾らだ?」


 圭がシーツ越しに指したのは、店で一番目立っていたドレスだ。

 木製マネキンに着せられた青いドレス。


「あちらですか。銀貨8枚です」


 なるほど、あれで8万円相当か、そんなに高くないな。


「これは幾らくらい?」


 次に指定したのは紺のロングスカートに、茶の短いベストの組み合わせの服。


「こちらでしたら銀貨2枚となっておりますが」


 この地味な服でも2万円か、だいたいわかってきた。


「なら予算は銀貨20枚だ。超えても手持ちはあるから大丈夫、何着か頼む」


「かしこまりました」


 リーゼはドレスには目もくれず10代の街娘が着るような。無難な服を選び始め。

 圭は圭で思いっきりお嬢様に仕上げてやると、店員とドレスを物色する。


「なあ、リーゼ、このドレス試着してみてくれ」


「いやっ! ドレスなんて似合わないって、第一着る必要ないでしょ、あの村でそんなの着たら笑われるよ!」


「いいからいいから、この街にいる間だけでいいから、ね、お願い!

ブルーレットのお願い、似合うから、絶対可愛いから!」


「そうですよ、絶対似合いますよ! ささ、こちらへどうぞ」


 可愛いと言われて満更でもないリーゼは、店員に試着室へと引きずりこまれる。

 圭が選んだのはフリフリ全開の白を基調としたドレス。

 首元も控えめにしか開いておらず、肩出しタイプのドレスではない。


「さあ、着替えてしまいましょうね」


「大丈夫、自分で脱げるからっ! あっ、ちょっ!」


 試着室から聞こえる店員とリーゼの声。


「あれ? お客様、こ、この下着はなんですか!?」


「これ? パンツだけど」


「パンツ? あれ? 腰紐がない! なんなのこれ」


「パンツですよ、うちの村の若い子はみんな履いてますよ、ぴったり肌に着くから凄くいいんですよ」


「な! ななななな! お客様! これをどこでお求めになられたのですか?

こんな下着見たことないですよ!」


「これは、売られてないというか、うちの村にしか出回ってないから。

ブルーレットが作ったというか、非売品? みたいな」


「ブルーレット? どこのどなたですかそのお方は!」


「そこにいますよ、連れのシーツお化けがブルーレット」


 ガバっとカーテンが勢い良く開けられ、店員がものすごい勢いで圭に詰め寄る。

 その時パンツ姿のリーゼが見えてしまったが、それも一瞬でリーゼがカーテンを閉めなおした。


「ブルーレット様! あのパンツと呼ばれるもの、頂けないでしょうか!」


「え?」


「是非譲ってください! これは服屋の勘ですが、売れます! めっちゃ売れますよパンツ!」


 たじろぐ圭は手からパンツを出してみたが、魔族の手で手渡しするわけにも行かず。

 地面に落として一歩下がった。


「このパンツが欲しいの?」


 地面を見た店員はパンツに飛びつき拾い上げる。


「おおおおお、なんと凄い下着でしょうか、この柔らかく伸びる素材。

これは下着の革命ですよ!

オーナー! ちょっと来て! 凄い下着みつけた!」


 店のカウンターでのんびりしていた、40代くらいに見える細身の男が、店員に呼ばれる。


「どうしたんですか、メリッサ君」


「オーナー! この下着凄いですよ、絶対売れます! ウチの店で出しましょうよ!」


「どれどれ、ほう、これがその下着ですか、なんか小さいですね。

でもよく伸びる、うーむ、こんなのが売れるのかい?」


「売れますよ、だって腰紐も無いんですよ。

しかもスカスカじゃなくて体にピッタリの形なんですよ。

流行ります! 絶対に流行ります!

むしろ私が流行らせます!」


「流行らせるって、しかしだよ、このパンツはどこから仕入れるの?

見た感じ、ウチの工房じゃこんなの作れないよ」


「それは……。ブルーレット様! このパンツ、ウチの店に作っていただけませんか?」


 自称パンツ伝道師の圭に、商業系パートナーが出来た瞬間だった。


「卸すことは可能だけど、俺旅人だから、この街もたまたま寄っただけだよ。

とりあえず、1回限りの取引でいいなら明日持ってくるけど。

定期的に卸すとかは無理だからね」


「それでもかまいません、あるだけ売ってください!」


「わかったよ、明日までの一晩なら500枚用意できるから、明日の朝来るよ」


 本当は800枚作れるけど、めんどくさいから500にした。


「500枚!! ありがとうございます」


「ところでこのパンツ、幾らで売るつもり?」


「そうですね、大銅貨3枚ぐらいでしょうか」


 大銅貨3枚、日本円にして3000円か、ちょっと高いな。

 でも真新しい物の付加価値込みだとそのぐらいになるのか?

 しかしもっと庶民的な値段でもいい気がしなくもない

 物価が高い日本ですら綿の無地パンツは500円もしない。


「ちょと高い気もするな、俺はね、ゆくゆくはこのパンツを世界に広めたいんだ。

これからも機会があったら旅先でばらまくつもりだ。

だからあまり高い値段で売られるとよろしくない。

どうだろう、大銅貨1枚で売るってのは」


 パンツ1枚1000円、これなら庶民もなんとか手が届くと思う。


「大銅貨1枚ですか、つまりそれが店にパンツを卸す条件ということですね」


「そうだね、ほんとはもっと安くてもいいぐらいだけど、譲歩して大銅貨1枚だ」


「わかりました、それで卸値のほうなんですが、5割でどうでしょうか」


「5割か、悪くないな、それじゃ5割でいこうか。

500枚だから大銅貨500枚の5割、銀貨25枚か」


「計算速いですね、もしかして旅商人の方ですか?」


「いや、ただのパンツ伝道師だよ」


「パンツ伝道師! すばらしいです、私もパンツ伝道師になりたいです!」


 この店員、メリッサはどんだけパンツに惚れ込んでいるんだ。


「名乗ればいいさ、パンツ伝道師、それを名乗る資格はパンツを愛する、それだけだ」


「あのー、なんかめっちゃいい話にもっていこうとしてるけど。

私のこと忘れてない?

しかもパンツを愛するとか、それただの変態だから」


「「あ」」


 カーテンの隙間から顔だけ覗かせたリーゼは、ちょっと怒っていた。

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