『“魔法”の世界』のゲーム盤③

「……くそ! 死んだ‼」

 人の形をした白いかすみから、フールが姿を現す。

「ユークリウッドの野郎、裏切りやがった! あのクソ野郎、次会ったら絶対殺してやる!」

 空色の髪をぐしゃぐしゃ掻きながら、フールは怒りを込めて吐き捨てる。頭の角も、背中に生えていた羽も消え去り、ぼろぼろだった服も、クロネラやユークリウッドにやられた傷も、きれいさっぱり修復されている。

「おや。最初に落とされたのはあなたさまでしたか」

 と、そんなフールを迎えたのは、ジーニーである。片手に紅茶のカップを。もう片方の手にカップを乗せる皿を持っている。

「お前かい。何でここにおるん」

 フールは、いつもの、くせのある喋り方でジーニーのほうに目をやる。

「ワタクシは今回のゲームの『案内人』でございます。ゲーム盤から最初に落ちた駒をここで出迎えるのも、ワタクシのお仕事だからですよぉう。

 ここは、あなたさまが先程までいた“魔法の世界のゲーム盤”の外でございます」

「ゲーム盤の外やと?」

 フールは、目をわずかに開けて周りを見渡す。壁も天井も見当たらず、チェス盤のように、白と黒で分けられたガラスの床しかない。磨かれたその床板に、自分の顔が反射している。

 フールは、その床から顔を上げながら言う。

「……またわけの分からんこと言いよんか。いいから俺をさっきの場所に戻せ。ユークリウッドを殺しに行くわ」

「うっぷっぷっぷ。それは無理でございます。今回、置かれた駒がもう一度ゲーム盤に戻って行くことは許可されておりません。というかそれを許可してしまうと、ゲームとしても破綻はたんしてしまいますのでねえ」

 と、湯気の立つカップを口元に持っていきながら、ジーニーは答えた。

「……じゃ、俺は何でここに呼ばれたん」

「今回の“魔法の世界のゲーム”から最初に落とされた駒には、ゲームマスターより二つの選択を与えられているからですよぉう」

「選択?」

「ええ。

 一つが、ここで、この盤上についての全ての真実を知ること」

 かちゃりと、左手の皿にカップを置いたジーニーは、右手の人差し指を一本立てる。

「もう一つが、その真実を知るのを拒否することでございます」

 と、指をもう一本立て、数字の2を示す。

「二つ目を選んだ場合、あなたはこのまま、『われたこま』に行ってもらいます。

 この盤上全ての真実はかなり残酷ざんこくなもの、とだけ言っておきましょう。どちらを選ぶもあなた次第でございますが、この問答はこの場所限りでございますよぉう」

 立てた二本の指先を曲げたりして動かしながら、ジーニーはまとめた。

「真実ね……。もしかしてそれは、この世界の神の正体とか言うんやなかろうな」

「ふむ、神……。それは、誰にとっての神なのでしょう。この『盤上』の神か。それとも、『ゲーム盤』の駒にとっての神か」

「……? どういうことや」

「おっと、そのヒントはまだ言ってはいけないことでした。ま、とにかく!」

 ジーニーは手にあるカップと皿を後ろに向かって放り投げた。カップと皿は派手な音を立てて粉々に砕ける。

「この選択をどうするのかは、あなただけの特権のようなものでございます。真実を知る駒の一つとなるか、それとも何も知らないまま、『仕舞われた駒の部屋』に行くか。

 さ、選んでくださいませぇ」

「なんにせよ、ここで決めろ、いうことね。んじゃ、この世界の真実いうんを教えてもらおうか」

「かしこまりました。では、どこからお話ししましょうかねぇ……」

 ジーニーは顎に手を当てて少し考えるような素振りをする。その数秒後、

「あ、そうそう」

 と、思い出したようにこう言ってきた。

「あなたさまが先程までいた『“魔法”の世界』は、この盤上のメインの物語ではございません。

 そもそも、ゲームマスターが駒を置くゲーム盤というものはですね…………」

 ジーニーは拍子抜けするほどあっさりと、この世界の真実を語り始める。対照的に、それを聞いていくフールの目が、ゆっくりと驚愕に見開かれていく。

 ジーニーがフールに何を語ったのかは、現時点でこの物語において、明らかにされる許可は下りていない。





 

 そして時間は進む。

 監獄の中で、ジーニーが、ユークリウッドとともに立ち去ったあと。ユークリウッドの背を見送ったグディフィベールには、知らない出来事だ。

「やはり、あなたさまが残りましたか。ま、ワタクシは最初から分かっていましたけどね。あなたさまがほかの『王』を蹴散けちらし、最後の一人になるって」

 ユークリウッドの後ろについてきているジーニーが、にやにやしながら話しかけた。

「どんな気分でございますか? ユークリウッドさま。

 ワタクシはねえ、とっても心臓がドキドキして、ワクワクしておりますよぉう。あなたさまの“『楽園』アルマディアのゲーム”、とっても楽しみですねえ。今度もアダムスさまやシグレさま、カトリーナさまや、イザナミとイザナギも呼ぶのですか? 教えてくださいませえ、ユークリウッドさま」

「うるせえな、話しかけるな。お前を見てると殺したくなる」

「わあお。冷たいですねぇ。『王』の肩書きを持つニンゲンならば、魔人のワタクシを殺せるかもしれませんねぇ。うっぷっぷっぷっぷっぷ」

 ジーニーはにやにやした表情を崩さない。ユークリウッドはそんなジーニーを一瞥すると、軽蔑けいべつするように、ち、と舌打ちをした。

 長い廊下を抜けた二人は、第六階層へ繋がる扉の前で足を止める。

「さあどうぞ、ユークリウッドさま。この先に『“魔法の世界”のゲームマスター』がお待ちでございますよぉう」

 扉の横に立ったジーニーが、にやつきながらうながす。

「……」

 ユークリウッドはドアノブに手をかけた。扉に鍵はかかっていない。ゆっくりとドアを開ける。

 目に入ったのは巨大な天体望遠鏡と、開け放たれた天窓から見える星空。

「この場所……知ってるぞ」

 部屋を見回しながら、ユークリウッドが呟いた。

 部屋の中央には、チェス盤の乗った丸机が一つ。盤の上には、闇色の王の駒と、あん褐色かっしょくの騎士の駒だけが置かれている。

 それらを、車椅子に座った奇妙な人影が眺めていた。体が、時折、ジジ、とぶれている。人影の頭の上には、大小さまざまな歯車で構成された王冠が浮いている。

 人影はキイ、と車椅子を動かし、ユークリウッドのほうを向く。その姿を改めて見たユークリウッドは、

「……は」

 と、自虐じぎゃくするように笑った。

「ゲームマスターはお前だったのかよ。ゼロ」

 ユークリウッドが、ゼロと呼んだ人影は、ジジ、と揺れる左腕を動かし、長く細い指先で、自分のこめかみを二回つついた。

「そうだよな。お前はそういう奴だ。知ってるよ」

 ユークリウッドが、そう言うと、

(そのとおり。私はこういう人間だよ。口を動かして喋るのが嫌いでね)

 頭の中に、男の声が響いてきた。老人と呼ばれる年の声色だが、知的ちてきな印象を受ける。頭の中に響く声は、目の前にいる人影のものだった。

(やはり君が残ったか。その前に、まずは久しぶりとでも言うべきかな、ユークリウッド)

 人影……一つ前の時代にいた『王』の一人、元『真理しんりおう』グラム・スラム・ド・ゼロは、ユークリウッドにそんな思考を送る。

「前回のゲームで、俺は確かにお前を殺した。どうやって『椅子』を手に入れた」

(簡単な話だよ。私は前回のゲームで君に殺されたあと、ゲーム盤から落ちることを拒否きょひしただけだ。

 君の放った礫弾が頭の皮膚にめり込み、頭蓋ずがいを割って脳を突き抜けてゆく感覚は今でも思い出す。君の攻撃を正面から受ける機会などなかなかないからね。あれは大変貴重な経験となった。ありがとう)

 どこかの教授のような口調だが、言っている内容は明らかに、常人の枠から大きく外れている。

(どうせ私のことなど興味ないだろうが、改めて教えてあげよう。私の持っていた魔法は、真実を知る真理しんり魔法と、私一人の意思で世界の公理を書き換える審理しんり魔法だ。

 前回のゲーム盤……第一回目の“魔法の世界のゲーム”で君に殺される前に、私はそれらの魔法でこの盤上の真実を先に知っていてね。もちろん君のことも、『観測者』の二人のことも、君がどのような物語を歩んできたのかも、全て知っている。

 君は実に、数奇すうきな人生を送らされてきたようだ。それもまた、この物語の一部となっているわけだが)

「……」

 ユークリウッドは何も答えない。この二人が過去の『“魔法”の世界』でどのように関わってきたのか、そして、その時のゲームで何があったのかは、それを『知らない』人間たちには分からない。

(我々の時のゲームにおいて、落とされた駒が再び盤に戻るのはルール違反ではなかった。私以外に、そのことに気づいた者はいなかったようだが)

「で、誰にもバレずにゲーム盤に戻ってきて、『思考椅子』を手に入れたってわけかよ」

(我々の時のゲームはただ単に、この『神の気まぐれ思考椅子』の奪い合いというものだっただろう? 私は正当にゲームのルールに則り、この『椅子』を手に入れただけだ。ルール違反などはしていないよ)

「……」

 ジジ、とぶれる体を、言葉の内容に合わせて動かす。ユークリウッドは何か言いたげな表情で、そんなゼロを見つめている。

(ゲームマスターになったあとは、とりあえずもう一度『“魔法”の世界』を広げ、区切りとして新たな時代の設定もした。新たな『王』の駒もゲーム盤に置き、ゲームが始まるまでの『“魔法”の世界』には、私の代理としての駒も置いたわけだ)

「ふうん。だから『審判者しんぱんしゃ』かよ」

(そういうことだ。『審理』魔法を持つ私の代理の駒。実に分かりやすいだろう? もう少し舞台に馴染なじませるため、世界の均衡を保つなどという設定を付け加えた。まあ、自分でも、そんな設定はやりすぎだと思ったがね)

「……なんだろうがどうでもいい。その椅子をよこせ。嫌なら、もう一度お前を殺すだけだ」

 ユークリウッドは、腰のシースに収めているキセラテに手を伸ばす。右手の指先が、石造りの冷たいつかに触れる。

(ふむ……。ゲームマスター・アダムスのゲームに乱入したように、私を殺してこの『椅子』を奪い取るかね? そうしても、君のゲーム盤に駒たちは戻ってこない。駒たちは、君のゲーム盤に置かれることを“拒否”したのだから)

「……」

(私は君がどのような物語を歩んできたか、全て知っている。だがそれは『知っている』だけだ。君が何を思い、どのような願いのためにこの『椅子』を欲しているのかは、私には一ミリたりとも分からない。

 私は君ではないし、君も私ではない。だから君のことは、私を含めたほかの駒たちには何も『分からない』。

 君は本当に孤独な駒だよ、ユークリウッド)

「……黙れ。俺のことを分かろうともしてねえくせに。何も知らねえくせに、上辺だけの言葉を並べるんじゃねえ」

(そのとおり。私は君のことを何も『知らない』。この盤上を外側から見ている者たちにとっても、『君』という駒を第三者の視点から観測しているに過ぎない。

 私も、『観測者の部屋』にいるあの二人も、ほかのゲームマスターも、そんな『君』を見てこの盤上全体を鑑賞しているに過ぎない。この会話も同じだ)

『“魔法の世界”のゲームマスター』ゼロは、ジジ、とぶれる体で、大げさな素振りをする。

(……話を戻そう。

 実は、第一回目の“魔法の世界のゲーム”を参考にして今回のゲームを広げてみたものの、途中で飽きてね。このまま、君にこの『椅子』をゆずってもいいのだが……)

『“魔法の世界”のゲームマスター』ゼロは、左手の人差し指で、頬を掻くような仕草をする。

 ゼロが座っているこの車椅子こそが、駒の枠を超えることができる神器、『神の気まぐれ思考椅子』である。ユークリウッドはこれを手に入れるために、自分以外の『王』の駒をゲーム盤から落としてきた。

(この『椅子』を譲っても、君は“『楽園』アルマディアのゲーム”とやらを広げるだけだろう? そのゲーム盤で何が起こったか、私はすでに知っている。ならば君がゲームマスターになったとて、君のたどる結末は予想の範疇はんちゅうだ)

 ゼロは細い指を、チェス盤に置かれた闇色の王の駒に伸ばしていく。

(ルールを追加しよう。『時間切れ』だ。

 君に殺される経験も、君の広げるゲームも、二度味わうほどの価値はない)

 盤の上の、闇色の王の駒をつまみ上げる。

「!」

 それと同時にして、指先に触れていたはずのキセラテが、闇色の煙となってシースから消えた。

(ゲームマスターも、一度やればもういいな。

 今回はクリア条件が限定的過ぎた。次のゲームには『ゲームマスターの殺害』というルールを加えよう。それならば、どの駒にもチャンスが巡るだろう。それで『“魔法の世界”のゲームマスター』は引退したいものだ)

 ゼロは、つまんだ闇色の王の駒を眺めるように見つめる。

(そうだな、今度の君は、この盤上の真実にせまるキーキャラクターにでもしよう。駒たちにヒントを与える重要な役割だ。

 屈服くっぷく悲願ひがんか。どちらの結末を選んだとしても、それは『君』ではなく、『主人公』のエンディングの一つになるわけだが)

 ゼロは闇色の王の駒を光にかざして眺めながら、意味深な言葉を紡ぐ。

(君がどれだけ自分の運命に反抗はんこうし、足搔あがいたとしても、君は永遠に誰かの盤の上から出ることなどできない。ゲームマスターの決めたルールでさえも、君は求める幸せを手にすることなどできない。

 仕方がないことだ。それが『君』という存在であり、この盤上の、とても大切な役割を持つ駒なのだから) 

 光にかざしていた闇色の王の駒を下げ、ユークリウッドのほうに顔を向ける。その顔が、ジジ、とぶれる。

「何が、時間切れだ……!」

 ユークリウッドは、シースに伸ばしていた右手を固める。

「また俺をゲーム盤に置く気かよ、ふざけんじゃねえ……‼」

 足に怒りを乗せ、ゼロまでの距離を詰めていく。それを見たジーニーは、やれやれ、という風に肩をすくめる。

 ユークリウッドは固めた拳を、ゼロに叩きつけようと振りかぶる。だがその拳は、ゼロの前に出現した透明な壁によって阻まれた。拳の骨が壁にぶつかり、重い音が響き渡る。

「ここまで来るのに、俺がどれだけ同じようなゲームを繰り返させられてきたと思ってやがる! 俺が、どれだけの駒をゲーム盤から落としてきたと思ってやがる! 俺がどれだけ、『主人公』をやってきたと思ってやがる‼

 あとはその『椅子』さえ手に入れれば、俺はもう一度、自分のゲームを広げられるのに! 俺のゲーム盤に、またあいつらを並べられるのに!」

 ユークリウッドは叫ぶ。何のことを言っているのかは、それを『知らない』者たちには、一切分からない。

 ユークリウッドの言葉を、『“魔法の世界”のゲームマスター』ゼロはただ、闇色の王の駒を指先で転がしながら黙って聞いている。ジジジ、とぶれているその表情で、本当にユークリウッドの言葉を聞いているのかは把握できないが。

「目が覚めたら違う時代が始まって、また新しいゲーム盤の駒にされてた気持ちなんて、お前らには分かんねえだろ⁉ 誰にも理解されねえって気持ちを抱えながら、ゲームが始まるまでの時間を過ごす気持ちなんて、分かんねえだろ⁉ ああ知ってるさ、お前らは、ただの『駒』だもんな! 俺の気持ちなんて一ミリも理解できねえよ!」

 拳を透明な壁に叩きつけたまま、ユークリウッドは叫ぶ。下を向いているため、どういう顔を浮かべているのかは見えない。ただその声色には、怒りのほかに、悲しみと絶望が混ざっているようだった。

「何が『神殺しの王』だ、何が『“魔法”の世界』だ! 全部全部、もううんざりだ‼

 俺がどれだけ、同じことを繰り返させられてきたと思ってる! 何度、誰かの駒にされてきたと思ってやがる! 俺がどんな気持ちで、ここまで来たと思ってやがる! 俺がっ、どれだけ……‼」

 ユークリウッドは絞り出すように言い放った。そして。

「……もう、いやだ」

 ぼそりと、そう漏らした。壁に叩きつけていた拳が、徐々にずり落ちていく。

「もういやだ、もういやだもういやだもういやだ。『主人公』はもういやだ。誰かの駒なんてもういやだ。また盤上に置かれるなんて、もういやだ、もういやだあ……」

 ユークリウッドは膝を折り、その場にへたり込む。彼の目から、ぼろぼろと涙がこぼれる。今回のゲームで、ほかの『王』の駒を容赦なくゲーム盤から落としてきた姿は、どこを探してもない。

「……ジーニー」

 ユークリウッドは、涙でぐしゃぐしゃになった顔をジーニーに向ける。

「はい。なんでございましょう」

「……俺を助けろ。俺の願いを叶えろ、『願望がんぼうおう』……」

「うっぷっぷっぷ。いけませんねえ、ユークリウッドさま。今のワタクシは“魔法の世界のゲーム”の『案内人』でございます。その肩書ではありませんよ」

「……」

「いいではないですか。またあなたは、この物語の隠れた主役になれるのですよぉう。

 さぁさ、涙なんて引っ込めて、次のゲームが始まるまで、ワタクシと一緒にナギナミの部屋でお菓子でも食べましょう。ワタクシ、紅茶には自信があるのですよ。

 それとも、アダムスさまやアンネヘルムさまのゲームでも鑑賞しますか? ああ、アダムスさまのゲームはあなたが壊したのでしたねえ。うっぷっぷ」

 ジーニーは、へたりこむユークリウッドの腕を引っ張り上げる。

「いやだ、いやだ。もう許してくれ。解放してくれ。『主人公』はもういやだ。『神殺王』ももういやだ。誰かの駒はもういやだ、この盤上から出してくれ、もういやだ、もういやだぁ……‼」

 ユークリウッドは、首を横に振って懇願こんがんする。

 そこで、床から蒸気が吹きあがった。

「お疲れ様でございます。『“魔法の世界”のゲームマスター』ゼロさま」

 煙とともに現れたのは、ユースフェルトである。

「此度のゲームは時間切れ。わたくしも確認いたしました。

 では、わたくし共はさっそく、次のゲーム盤の準備に取り掛かります」

 ゼロに向かってうやうやしく腰を折ると、ユースフェルトはジーニーのほうに顔を向けた。

「ジーニー。このゲームでの最後の仕事です。

 色々と用意していましたが、神器は魔剣キセラテ以外、誰も使用しないまま終わってしまいましたからね。ひとまず次の『“魔法”の世界』が整うまで、全て回収して一か所にまとめておきましょう。くれぐれも落としたりしないように」

「ユースフェルト、ワタクシがそんなヘマをやらかす奴に見えますか。それぐらい朝飯前、でございますよぉう」

 ジーニーは自信たっぷりににやつく。このあと、回収した神器のほとんどを途中で落としてしまうことを、この時の本人はまだ知らない。

『“魔法の世界”のゲームマスター』ゼロは指を伸ばし、チェス盤に残っていた暗褐色の駒をつまむと、盤の外にことりと置いた。暗褐色の駒は、ずぶずぶと机の中に沈むようにして消えていく。

 そしていつの間にか持っていた小さな箱の中に、闇色の王の駒を仕舞った。ぱたんと、箱の蓋を閉める。

 こうして第二回目の“魔法の世界のゲーム”は、このような結末によってまくきとなった。

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