word58 「夢 叶え方」㉖

 店に着くまではどこか余所余所しい会話をした。


 「道こっちで合ってるよね」とか「気づけばもう3時過ぎなんだね」とか。当たり障りのないものばかり。


 一緒にライブまでしたのに、初めてのデートの時よりも気まずい空気が2人の間にはあった。


 沈黙も多かった……。おかげで僕は、僕を取り戻すことができた。


 落ち着いたし、この先どうするか……その答えも胸に決めた――。


「――着いたね」


「うん。やっぱここまで来ると店の外からでも辛い」


「ジョロキアラーメンまだあるかな?」


「さあ……どうだろ、まだあるんじゃない?」


 昼時でも夕飯時でもない中途半端な時間だったから、のれんをくぐった店内に人は少なかった。僕たち2人が入店したときも、店員が洗い物でもしていたのか……奥から出てきて案内されるまで時間がかかった。


 好きな席を選べる状態だったので、僕たちは角の席を選んで座った。


「このジョロキアラーメンってまだありますか?」


「すみません。ちょっと前に最後の1杯が出てしまいまして……」


「そうですか。いや、全然大丈夫です。別の選びます」


「ごゆっくりどうぞ」


 折原と店員がお互いに小さく頭を下げて、店員は厨房のほうへ消えていく。


 激辛ラーメン屋と言ってもこの時間なら匂い以外はカフェと変わらない。落ち着いて話すことはできそう。


 だけど、折原と向き合って座った僕は何から話そうか迷った。


「…………」


「……まずは、乾杯?」


 沈黙を破ったのは折原だった。


「水で?」


「じゃあまずは注文か」


「そうだね」


「……でもどっちにしろお酒ではないんだよ」


「たしかに……じゃあ」


 僕たちは水が入ったグラスを控えめに合わせた。そして、口の半分にも満たないくらいの水を飲む……。


「何で私が君の気持ち分かったか知りたい?」


「ああ……うん、聞きたい」


「なんとなく」


「なんとなく?」


「うん。てか最初からさ、そんな感じだったじゃん。好きでもないのに女子にいきなり連絡とらないでしょ」


「それはそう。まあ……正直遠回しに好きだと言ってたよね俺」


「それでさ……私がネットで成功し始めたの報告したら最初は喜んでくれてたんだけど、だんだんわざとらしくなっていって、私が高校中退して東京行こうかな……なんて言った時にはもう……悲しそうなの顔に出てたよ」


「え、そうだったかな……そうだったよね」


 僕はまた正直に認めた。けれど、先ほどと違って動揺したり恥ずかしくなったりしなかった。


「でね。一体いつ告白されるんだろって思ってたから、さっきライブ前に声かけられたとき分かったの」


「なるほど……」


「私は実は最初、この人に告白されてもOKしないだろうなって思ってたんだ……でも今は好き」


「……おう、そっか。そろそろ頼むもの決めよっか」


 またしれっと感情を揺さぶられた僕は耐えきれなくなって、一旦話題を逸らした。


「私はジョロキアラーメン以外で1番辛いやつにしよっかな。この中だったらどれだろ……」


「うーん。どれも真っ赤だけど……」


「店員さんに聞いてみよかっな。あと、ヨーグルトドリンクもまた欲しいでしょ」


「…………折原さんはさ、この先も歌っていくんだよね」


 しかし、逃げていてはダメだと思った僕は、今度はこちらから踏み込んだ。


「え?」


「折原さんはこれから……また今日みたいにさ、ステージに立ちたいんだよね」


「うん。今日はもう最高だったから、また何回でも経験したい」


「そっか……」


「そう……もっと大きなステージ目指して、どんどん歌っていきたい……だから、だからさ……好きだけど、付き合ったりはしたくない」


 僕はその言葉を聞いて、顔を半分隠していたメニューを置き、頷いた。

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