word54 「もしも 宇宙戦争起こっていたら」⑥

「覚悟はしていた……まあ、どっちみちだ……元より来ても来なくても死んでいた……ダメだったらせめて一瞬で殺してほしい……」


 止まる訳にも逃げる訳にもいかない男は歩みを止めなかった。ゲートに向かう人の列から外れずに、周りと同じく真っすぐ前だけを見て進む。


「撃たれていないことがバレると殺されると思ったから、俺に撃たれるはずだったであろう機械は瓦礫の中を探して持ってきた……それで大丈夫かな……頭に穴が空いてないのは帽子被ってきたから大丈夫……他にも帽子を被ったままの人も……いる……」


 ニット帽の男がいよいよゲートを通り抜ける――。動画も映画の演出みたくスローモーションになった――。僕はついに息を止めてしまう――。


 短い電子音が鳴って、その瞬間にニット帽の男は触手に体を掴まれた。目で追えないくらいの速度、待ち伏せする捕食者のように男を掴んだ触手は失敗作を列から外し、皆が向かうのとは別の通路の前に置く。


 ニット帽の男は狼狽えた様子で触手を見たまま動けなくなっていた。先ほど掴まれた腰を抑えながら呼吸を荒げる。殺されるであろう恐怖が抑えきれないと言ったところか――。


 触手がもう一度男のほうへ伸びる――。


 しかし、触手はニット帽の男を殺そうとはしなかった。手を払うようなジェスチャーで通路を進むように誘導した。


「…………殺さないのか……何で……どうして……進む?……しかないか」


 ニット帽の男が恐る恐る通路を進むと、開けた場所に着いた。そこにはベンチのような細長い形状の機械と、それに座るいくらかの人間がいた。奥には1つ大きなモニターがある。


 ニット帽の男の困惑はより大きくなったように見えた。すぐには近づかず歩いてきた通路を振り返る。


 それもそのはず、俯瞰的に見ている僕もどういうことか分からない。


「チップの存在を確認できるが、それが正常に機能していない個体はこの部屋に連れてこられる――。ここではいくつか実験が行われて、よりよい人工寄生虫を作るためのデータを集めている――。」


 答えは僕だけに届けられた。救いは欠片も無いテロップと同時にニット帽の男を見続けるのが辛い。


 ニット帽の男は他の人間に習うようにしてベンチに座った。日本人らしさと言っていいのだろうか。他の者もそうしているし、とりあえずといった様子で迷いながらの行動だった。


 周りの者は皆じっとモニターを見つめていた。だから、ニット帽の男もモニターを見る。しかし、そこに並ぶのは見たことも無い文字。数字すら使ってくれない、きっと宇宙人の言語だった。


 しかし、僕は見たことがあった――。


 また短い電子音が鳴って、モニターの文字が切り替わる。すると、隣に座っていた若い女が立ち上がり、奥に続く通路に消えていく。


 さらにまた音が鳴って画面が切り替わると、モニターの近くに座っていた男が立ち上がって奥の通路へ向かう。


「俺も行ったほうがいいのか……分からない……見たところ病院の待合みたい……たぶん指定された奴が向かっている……でも俺には……」


 ニット帽の男はしばらく人が減っていくのを見守った。そして、モニターの画面が切り替わっても誰も立ち上がらないタイミング……それを見つけて、奥の通路へ進んだ。


 さらに僕は違和感を覚える。いや、既に正体には気付いていた。この内装、どこかで見たことがあるような……そんな違和感。やっぱり、お隣さんの家で見たものだ。


 ただ、似ているだけかもしれない。そう思ったけれど、画面の中のニット帽の男が辿り着いた場所で、説は打ち砕かれた。


 間違いなくお隣さんと同じ惑星の人。一目で分かる宇宙人がそこにいた。

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