word49 「宇宙戦争 止め方」②

 横を見れば、見慣れたベッドがある。今朝出た時と全く同じ形だ。布団はずり落ちていて、枕は少し斜めの……僕の好きな形。


 本来ならお隣さんに関することは、いつものようにあの枕に向かって叫んで見なかったことにしたいものだが、さすがに逃げる訳にはいかない。


 実感は未だにないけど、今の僕の肩には人類何十億人もの命がかかっているかもしれないのだから……。


 黒いパソコンを使えば、たぶん宇宙戦争は止められる。お隣さんの話ではかなり大きな戦争で、宇宙の広範囲を巻き込む深刻な状況であるとのことだったが……たぶんこいつが出す答えをそのまま実行すれば、はい終戦だ。


 もんのすっごく難しいことであるはずだが、このパソコンなら絶対できる。僕はエロ目的や動画アプリ代わりに使ったりしているけれど、本来それくらい凄い代物だから。


 だからこそ、僕はこんな状況でも落ち着いていられている。


 でも、その検索をするのが果たして僕でいいのかという問題がある――。


 いやどう考えてもお隣さんに渡すべきだろう。まずは正しい僕が頭の中で言った。


 宇宙規模の戦争なら、地球よりもずっと高い文明を築いていて、宇宙にもより精通している宇宙人のお隣さんに渡したほうが、上手く戦争を止められるに決まっている。そもそも僕の検索では難しい可能性が高いのだ。


 事情を話して説明すれば、お隣さんよりもっと良い人も見つかるかもしれない。お隣さんの星のお隣さんより偉い人みたいな。イメージで言えばお隣さんより濃い緑をしたより化け物じみたルックスの宇宙人。そんな人が。


 時間的にも渡すなら早ければ早いほどいいだろう。もし黒いパソコンを他人に渡した瞬間にその日の検索がリセットされるのであれば、今から日を跨ぐまでの4時間分早く検索できる。その時間で助かる命もあるかもしれない。


 今からこのパソコンを持って、隣の家のチャイムを鳴らして、回覧板を渡すかのように黒いパソコンを渡せば……この件は終わり。きっと1番正しい行動だ。


 うん、悩んでる場合じゃない。僕は黒いパソコンに手を伸ばす。けれど黒いボディに指が触れると、反射的に拳を強く握った。


 しかし、それをやってしまうと、2度とこのパソコンを使うことはできなくなる。僕の手には戻ってこなくなる。黒いパソコンとおさらばということになってしまうじゃないか。


 それはどうかな――。今度はもう一人の僕が闇へと変わる。


 こんなにすごいパソコンを手放してしまうなんて考えられない。如何なる状況であれ最後まで所有する方法を探るべきだ。僕の生活を鮮やかにしてくれたこの黒いパソコン、もうこのパソコンが無い生活なんて考えられない。


 まだ検索したいことが残っているのに、黒いパソコンを使ってやりたいことがあるのに。せめて最後にもう1回エロいことを検索させてほしいじゃないか。


 「一生使える エロ画像」とか検索しときたいじゃないか。


 いや、何を考えているんだ……こんな時でもエロいことを考えだしてしまう自分の頭が憎い……。


 しかも宇宙人に性能を説明して渡すとなると、僕に危険なことが起こる可能性もあるだろう。こんなパソコンをどこで手に入れたと尋問されたり、宇宙に拉致されたりもあるんじゃないだろうか。


 それに、それにだ。お隣さんに渡したほうがいいなんて黒いパソコンを舐めすぎではないか。このパソコンならきっと僕でもできる、予想だにしない答えを教えてくれるはずだ。信じるべきだ、このパソコンを――。


 僕はあらゆる可能性を考えた。何度か黒いパソコンを持ち上げて部屋のドアの所まで行ったりしながら。頭の中でもあっちへ行ったりこっちへ行ったり。


 正しい僕のほうが優勢だった。そりゃもう宇宙戦争を止めるという目的だけならお隣さんに渡したほうがいいに決まっているし。人の命がかかっていることを考えると、何よりも優先すべきだから。


 黒いパソコンを誰かに渡すってことも、実は少し前からそうしたほうがいいのではと度々思っていたことだ。恐竜の映像を見たときなんかに頭に浮かぶ、こういう映像をその分野の研究者に見せたらどれほど喜ぶだろうと。そっちの方が人類にとって有意義なのではと……。


 だから僕は胸を痛めて時間を過ごした。渡しに行かなきゃ渡しに行かなきゃと思いながらも、行動には移せなくって、そんな自分が情けなくって。


 この判断すらも黒いパソコンに頼りたい。今日はもう検索してしまったけどもう1度検索させてほしい。「どうするべきか」なんて入力してEnterキーを押してしまったら、より自分が情けなくって。力が抜けてしまった。


 ついにはベッドに寝転がってしまった時には0時まで1時間を切ったから、あとはごめんなさいと空気に謝りながら時が経つのを待った……。


 そして僕は日を跨ぐとすぐに検索して、答えに少しでも不確定な要素や難しいことがあれば走ってお隣さんの所に行くと決めて、時が来ると――。


「宇宙戦争 止め方」


 こう今までで1番のタイピング速度で入力したのだ。

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