「え……し、しちゃったの？」

「うん」

　なんか嫌だったから私から無理やりということにしておいた。

　円にしては珍しい反応を見せてくれている、興味津々のようだ。

「円も光ちゃんとしたの？」

「し、してないよっ、私達はまだ付き合っているというわけじゃないんだし」

「そうなんだ、まあそこは本人達次第だしね」

　どの彼女が本当の彼女なのかが気になっている。

　いままではどこか壁があるように感じていた彼女だけど、いまは違うような感じがした。

　いまなら友達と自信を持って言えるかもしれない。

　まあ、こういう共通の話がなければ盛り上がれもしない関係だけど。

「まだ残っていたんですか？　そろそろ暗くなるので用がないなら帰ってください」

「あ、由美先生」

「宍戸さん、最近は真面目にやってくれるようになりましたね」

「はい」

　……故意というわけではないけど私が変なことをするとこの人がにーに近づくから嫌だ。

　だったら真面目とにーが言ってくれているんだから優等生でいた方がいい。

　そうすれば煩わしい声も聞かなくて済むからいいよね。

「帰ろっか」

「そうだね」

　よかった、円が光ちゃんに興味を抱いてくれて。

　そうでもなければ表と裏の差がすごすぎて自分のせいで自分が疲れることになっていた。

　ただ、仮ににーに興味を抱き続けたままだったとしてもにーならきちんと言ってくれたけど。

　もしそうならなくて円と付き合った、みたいなことがあったらどうなっていたんだろうね？

「あ、今日は一葉のお家に行ってもいい？」

「いいよ」

　にーは光ちゃんと過ごすと言っていたから偶然会ってしまう、ということもないだろう。

「あ、おかえり」

「……なんでいるの？」

「酷いな、ここは僕の家でもあるんだけど」

「いいから部屋に行って」

「分かったよ、光を待たせているからそもそも行かないとだしね」

　はぁ、心臓に悪い。

　……円が来たせいで冷たく対応することになってしまった。

　どうしてこう上手くいかないのか、それがいまは凄くむかつく。

「はい、飲み物」

「ありがとう」

　が、部屋に入ってからちらちらちらと落ち着かない様子。

「ふふふ、そんなに光ちゃんと一緒にいたいの？」

「もう、意地悪だね……」

「分かった、光ちゃんだけ連れてきてあげるよ」

　そのまま連れ去ってくれればいい。

　そうしたらにーとふたりきりになれる。

「ちょ、えっ、あれっ？」

「いいから来て、あ、にーはそこにいてね」

　部屋に連れ込んだら驚いていた。

　あ、円が来ていることは知らないんだからそれはそうかと納得。

「ふふ、いまからふたりでデートにでも行ってきたらどうかな？」

「ちょっ、一葉！？」

「そうだね、円、行こー！」

　よし、作戦成功。

　光ちゃんには悪いけどちゃんと見ておいてもらわなければ困るのだ。

「にー」

　暁に近づく女は私だけでいいのだから。