第7話「ロティさんの呪い2」

 ジュぅうと油を引いたフライパンで鶏肉が焼かれています。

 ロティさんの表情は硬いですが真剣です。

 後方でポワレさんが頑張れと拳をギュッと握っています。


「なぁマリ。ロティちゃんなに作ってるん?」

「さぁ。鶏むね肉の丸焼き?」


 二人がぼんやりとその光景を見る限り、なにを作っているかはともかく順調そうに見えます。

 なにも呪いというまでもないのかもしれません。

 と思ったのも束の間、こんがりと表面に焼け色がついてきた頃に異変が起きます。


「うへ……うへへぇ……」


 先程までのロティさんの硬い真剣な表情とは一変し、頬が緩みきり、よだれを垂らしはじめたではありませんか。


「お肉ぅ……お肉ぅ……」


 ロティさんは焼けた肉に近づき見ています。


「なぁマリ。あれ」

「あぁ。呪いは本当にあったみたいだ」


 ジュぅうと肉は焼けて少しずつ黒くなってきました。変な煙も出ています。


「お肉ぅ……お肉ぅ……」


 もう火を止めればいいだけなのですが、ロティさんは一向にその素振りを見せません。

 むしろ肉の塊に魅了されてしまったかのように観察しています。

 片面が真っ黒になった頃に、火は止められました。

 後ろで見守っていたポワレさんが我慢出来ずに慌てて止めたのです。

 ほっと胸を撫で下ろしています。

 ハッと意識が戻ったロティさんは変な煙が出た真っ黒のお肉を見て驚きました。


「や、やっぱり……これは呪いだ……」


 次にロティさんは卵を割りに挑戦します。


「よぉし、割りますっ」


 こんこん、と軽くひび割れを作るはずが、ぐしゃと鈍い音を立てて卵は粉々に粉砕。


「もう一回」

 ぐしゃ。


「もう一回」

 ぐしゃ。


「もう一」

「中止中止。なんか卵に申し訳ない」


 マリネさんがたまらずロティさんの振りかぶった腕を握りました。


「こ、これは呪いだ……」


 次にロティさんは子供用包丁で大根を切ってみます。


「エイッ、ヤアァ」

「危ない」


 パリンと窓ガラスが吹き飛ばされた大根のせいで割れてしまいました。


「ぐぬぬぅ……憎し、呪い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る