第十五話 神様達の転職事情 2
―― まさかの当事者神様の登場とか! ――
パソコンの神様は、逃げるように姿を消してしまった。
―― あ、なんでそこで逃げますか、神様! ――
―― それはお前さんの仕事なのじゃ~まかせたぞーい ――
―― 薄情者ーー!! ――
こういう時こそ、そばにいてほしいのに!
「今回が初めてのご利用ということなのですが、それまではどうされていたんですか?」
神様の世界にも、いわゆるプータローというのは存在する。しかし目の前の神様は、品の良い和装のおじいちゃんで、とてもそうだったとは思えなかった。
「
「なるほど。ちなみにやはり、
「まあ似たような感じです。あの一家の元にずっといたい気もやまやまなんですが、私、元から商売の神なのでね。今のままではいかんだろうと、新しい行き先を探すことにしたんですよ」
プータローというより、むしろ働き者の神様のようだ。
「そうだったんですか。あのー……本当に商店街のドラッグストアはダメなんですか? 神様のなり手がいなくて、困っているわけなんですが」
「薬屋の神は、どこへいったんですか?」
「商店街の近くにある、処方箋をだす薬局に行ってしまったみたいです」
「やれやれ、なにをやっているんだか。守る場所の優先度が違うだろうに」
元
「昔からそうなんですよ。あそこの一家と同じで、やつも落ち着きがなくてね。そんな性格の者同士のせいか、なんでもかんでも新しいものに手を出しては、あっという間に飽きてほっぽりだすんです。やつが優秀なせいか、借金まみれで一家離散ということには、ならずにすんでいるようですけどね」
神様の口調が、暗いものからちょっとトゲのある口調に変わった。だけど落ち込んだままより、まだこっちのほうが良いかもしれない。聞くこっちとしては、それなりに忍耐が必要になりそうだが。
「そんなに仲が悪いんですか? そういえば人同士も
「犬と猿というか馬が合わないというか……」
「なにか理由があるんですよね?」
神様は天井に視線を向けた。どうやら神様からしたら、ひどくくだらない理由のようだ。
「ずいぶん昔の話ですよ。両家の娘が、同じ男に惚れましてね。娘二人は男をはさんで、激しい恋のさや当てをくりひろげたんです。しかし残念なことに、当の男は違う家の娘と一緒になったのですよ。それからですかねえ、両家の仲が険悪になったのは」
「ちなみに、どれぐらい昔の話なんでしょう?」
「まだチョンマゲをしている人たちが、めずらしくない頃ですよ」
今は人間が宇宙に行く時代。昭和ですら昔と言われるのに、ちょんまげといえば江戸時代。私達にとっては、はるか
―― うっわー……根が深すぎる ――
なかなか歴史のある
「神様同士、なんとかしようって話には、ならなかったんですか?」
「私達、縁結びではなく商売の神ですからねえ……」
そしてその両家のいざこざが、その家にいた神様達にまで、影響をおよぼしてしまったということらしい。神様と人間、どちらが恐ろしいのか、わからなくなってきた。
「人はともかく、神様同士は仲直りしたいと思わないんですか?」
「あまりにも昔の話なのでねえ。いまさらって気がするんですよ。だからドラッグストアの神の話は、私は聞かなかったことにしてくださいな」
「いやー、でも、せっかく地元にいた神様なんですから、そこは他の神様を助けると思ってですねえ……」
本人の意思は別として、せっかく適任な神様が現われたというのに、ここで逃してしまってはもったいない。少しだけでも話を聞いてもらいたいという、藁にもすがる気持ちで食い下がった。
「いやいや。薬屋の神も、私には助けられたくないでしょ」
だが元金物屋の神様の返事はそっけない。早々に姿を消して立ち去らないのは、きっとこの神様の優しさなんだろう。
「神様責任者さんと話だけでもしていただけませんか? 私には過去の神様達の御近所事情まではわかりかねるので」
「まあ、そちらさんがどうしてもと言うなら、話ぐらいは聞いてもかまいませんけどねえ」
乗り気ではない様子だが、それでも話だけは聞いてくれそうだ。そのかわり「薬屋は絶対に呼ばないこと」という条件が出されたが。
「じゃあ、今から神様責任者の神様に、電話してみますね」
神様の気が変わらないうちにと、そう言って急いで電話に手をのばした。
+++
「あーらー! 本当に久しぶりだわねえ! 元気にしてたー?」
電話を切って数秒後、オバチャン神様が事務所にやってきた。このショートカットできる神様の能力は、人間の私達にとって非常にうらやましい能力だ。
「あらま、ちょっと老けた?」
さっさと隣のイスに落ち着くと、元
「そんなことはないでしょう、神に年月は関係ないですから。しかしあなたこそ、ずいぶんと見た目が派手になりましたね。ちょっとハデすぎやしませんか?」
「ま、あんたは昔っから、若年寄りみたいだったものね! 今は、神様だっておしゃれをする時代なのよー! 東京から来る、テレビ局の神様を見たら、あんた、腰をぬかすわよ!」
オバチャン神様は、元
―― やっぱりオバチャン神様は強烈だ…… ――
「それでー? ドラッグストアの神になってくれるの? 私達としても、昔から知ってる顔のほうが、話が早くて助かるんだけど!」
「どうしていきなりそんな話に。私はこちらのかたに言われて、話だけは聞きましょうってお答えしただけですよ」
神様の指が私に向けられる。オバチャン神様は私をみて親指をたてた。
「いい判断よ、あなた! よく連絡してくれたわ!」
「え、ああ、はい。でも、
「そんなことはないわよー! 私はこの神のことはよく知ってるもの! こうやって話ができることを喜んでいるのよ! こんな顔をしていてもね!」
―― いやー……どう考えてもその顔、迷惑そうじゃないですか。
「いい機会だもの、あんた達もそろそろ仲直りしたら? そもそもの原因になった娘達は、よそに
「そういう問題じゃあないんですよ」
元
「まさかあんた、出ていく時に
「私にだって
「くっだらない。人間ふぜいのもめごとに巻き込まれて仲たがいしたままのほうが、よっぽど神の
オバチャン神様は目の前に座っている「人間」の存在を思い出したようだ。
「いえ、お気になさらず……」
「このひと、連れてかえっても良いかしらね? 他の面々をまじえて話し合いたいし」
その言葉に、元
「私はあそこに戻るつもりはありませんよ」
「戻れとは言ってないじゃないの。ここまで来ておいて、古い馴染みに顔を見せていかないなんて、そんな不義理、私が許さないわよ。いいわね?」
オバチャン神様が私を見た。
「神様がそれで良ければ。……あの、私にお手伝いすることはないですか?」
「あら心配しないでー! でも、ちょっと
オバチャン神様のニコニコ笑顔に、スーッと背筋が冷たくなる。
「……あらごと」
「だいじょうぶよー、別に
「いや、なんで私が」
高笑いするオバチャン神様の声を残し、二人の神様は姿を消した。
「本当にだいじょうぶなんですよね……?」
自分の席からこっちを見ていた
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