十.1359年後

 そして、わたしはきみに出会えた。

 改めて、こんにちは。

 改めて、ありがとう。

 わたしの声を聞き取ってくれてね。

 なぜ、わたしがまだここに在るのかって。

 相棒ラディとの約束を守りたかったんでね。本来は、ギタイを駆るわたし自身が爆弾ピラストロを抱え込めば、オオドへの影響はあの時クリダリアより抑えられただろう。しかし、わたしはそれをしなかった。いや、できなかった。わたしも消えるのは確実だと分かったからだ。だからわたしは、あの爆弾を真上に放っていた。オオドの外側からは、ミニチュアの天体が出現したように見えたかもしれない。勿論その程度で、すぐ真下にいるわたしがただで済むはずはなかった。暴力的な光と熱と衝撃がわたしを押しつぶそうとした。わたしはひたすら耐えた。途中何度か、目の前が暗転ブラックアウトしそうになった。あれを死にかけたというのかな。それを辛くも乗り越え、わたしはまだこの世界に在り続けられた。彼女ラディとの約束はひとまず半分は守ることができたが、残念なことにわたしはもうその場から一切動けなくなってしまった。通信機器も爆破の影響で完全に潰れてしまい、連盟軍の状況も世界の様子も行く末も知ることができなくなった。時計も勿論狂ってしまったので、それから君と会うまでどれほどの歳月が経ったかは分からない。

 だが次第に、不毛の大地となっていたこのオオドを進む旅ビトを見かけるようになったのは。最初の頃は爆弾の残滓により、顔を覆う機械を付けている者ばかりだった。それが外れて旅人の顔も見られるようになったのは、それからさらに経ってからだった。時間の経過は大まかだが、一応通り過ぎていった者たちは人数を数えていた。わたしの見える範囲だけではあるが、少なくともきみより以前に71人の旅ビトが、世界の先端を目指して行ったよ。

 ところできみも、アーゼンノアなんだろ。

 …そうか。いや、いいんだ。あそこを目指そうと思い立つ時点で、間違いなくきみはだ。その呼び名の意味をなぜか分かっていることも、わたしの声が聞こえていることも含めてね。

 おや。質問かい。遠慮することないよ。

 …ああ、そうさ。共に行くことを望んだのは、もう半分の約束を果たしたくてね。

 …そうだね。でも、それを理由に勝手に反故にするのは筋違いというものさ。だから、改めて頼むよ。

 …ありがとう。彼女ラディの元に連れて行ってくれ。そうだ。到着にはまだ時間がたっぷりある。今度はきみの話を聞かせてくれないか。良ければ、きみが思い描いた場所世界について。

 …ふむふむ、なるほど。星の海を巨大な魚のような天体が泳ぐ…。

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