四.資血の台地

 ブルート資血と名付けられた新たな資源の確保が本格化した頃。

 わたしの持ち主は、彼から彼の子へと移ることになった。

 新たな持ち主は、資源確保の中心的な立場となり、わたしはそれを守る存在へと生まれ変わることになった。住ビトにとっては、こういうのを転生と表現すればいいのかな。

 わたしは、無血の証である壊れ物から、生き血を啜る兵器へとなった。最もその部品の素材として再利用リサイクルされただけではあるが、わたしはそのまま在り続けていた。

 兵器の名は、ギシン。

 住ビトの五倍程の体躯を有した強化外兵装具と呼ばれるもので、文字通り搭乗者を鉄鋼の巨人へと昇華させる代物だ。史上最低最悪の外交全世界規模争乱の頃には既に開発が進められ実践投入も検討されていたようだが、あの神の警告とそれに続いた終戦により、計画は頓挫らしい。当時、開発には中立ながらも倭國わこくも関わっていたので、埃をかぶっていたその巨人を蘇らせる事自体はさほど難しくなかったらしい。ちなみに、新資源確保にそれを使おうと言い出したのも、姿を消す前の彼の提案だった。

 そんな彼との出会いの象徴であるわたしをこんな形で手放し、子へと託したのはなぜだったんだろうか。彼の喪失を自認するためか。それとも無血という姿勢との決別の覚悟か。今でもそれは分からない。

 ともかく、わたしは新たな持ち主を守る鎧となり、資源ビヒモスが闊歩する大陸へと踏み入った。だがその頃には、他の国連加盟国が組織した調査大隊フロンティの大陸進出も進んでおり、資源資血抽出に特化されたギシンの技術供与の要求も相まってなかなか資源確保への実働へと移ることができなかった。これ以上、倭國の優位性を高めることは阻止したかったのだろう。その頃、天位てんいの直系として現地外交の筆頭となっていた持ち主の前に、が現れた。

 いや、正確にはを名乗る人物だった。

 ギシンの整備を含める現地運用の為の補充部隊の一人として現れた彼の息子は、まさに若かりし彼の生き写しのような姿をしていた。彼の息子は彼を引き継ぐように、再び持ち主の助けとなるために動き始めた。言っておくが、殺し屋汚れ仕事としてではない。持ち主に的確な助言を行い、敵対的態度が目立つ連合調査団フロンティとの現地会談にも同席し、親から受け継いだであろう底知れぬ雰囲気で相手方をけん制した。親たちの表と裏のような関係性よりも、その姿はずっと、共に支え合う友人同士に見えたよ。

 交渉の結果、先遣の役を担った功績の元、倭國わこくの代表である持ち主を大隊長とする資血抽出部隊が新たに組織されることになった。

 部隊の名は、V'sブイズ

 幻想小説に出てくる、生き血を喰らう神から取られた名だそうだ。

 さらに持ち主は、各連盟国の兵士、専門家、技術者がひしめく大部隊V's内訌内輪もめ防止の為の調査機関。通称Wo'Sワーズの任も兼任することになった。これは、連盟各国の言語を扱えるという純粋な能力を根拠に提案されたものであるが、各国の使者に直接睨みを利かせられるのは非常に有益だと持ち主は判断しそれを承諾した。

 彼の息子の助力の元、国連内での優位性を保持したその采配に、持ち主は天位直系者として恥じぬ存在感を出すことができた。ただ以前と少し違うのは、彼とは違い彼の息子も、持ち主の右腕という立場からその存在を認知されるようになるところだろう。

 やがて彼の息子も、彼と同じく持ち主に不思議な導きをするようになった。

 彼の息子は提案してきた。

 この大陸アンセス大陸の奥地に、何かがある、と。

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