第3話 数学者は怯えながら道をたどる 6
地面は唐突に現れた。急に堅い漆黒の床が目の前に現れ、数渡はそこに頭からダイブした。あまりの痛みに意識が朦朧とする。かすむ視界の中に数渡は亜麻色の髪の少女の姿を見た。自分の滑稽な姿を見られていると思うと急に恥ずかしくなる。
少女はしゃがみこんで、数渡に何かを差し出した。それでようやく自分の視界がかすんでいる理由が分かった。さっきの衝撃で、掛けていた眼鏡も飛んでいってしまっていたのだ。数渡は礼を言ってうつ伏せのまま手だけを伸ばし、少し歪んだ細ぶちの眼鏡受け取り、掛け直した。眼鏡を掛けると、自分たちの今いる場所の様子が見えてくる。
そこは広いロビーのような場所だった。壁も床も天井も、全て漆黒の大理石で出来ていて、やけに部屋全体が薄暗い。明かりは壁や天井にある窓から入ってくる光だけで、電気のようなものは見当たらない。
まるで中世の教会のような場所だ、と数渡は思った。部屋の中には漆黒の大理石でできたドーリア式の柱が左右対称に何本も天井へとのびていた。その中の一組の柱を結んだ時の、ちょうど真ん中の位置に数渡はうつ伏せで横たわっていた。隣には亜麻色の髪を持つ端麗な少女がしゃがみこんでいる。そして二人の十メートルほど前方には、幅が広い階段があり、階段で隔たれたその先には大きな石像が見える。男性をかたどったもののようだ。石像を挟んで右側と左側は、どこかにつながる通路になっているようだった。
「ここはどこなのかな。」
数渡はうつ伏せのまま尋ねた。
少女は数渡の質問には答えず、しゃがみこんだまま石像の方に顔を向けていた。数渡は先ほどの落下のせいで前頭部が痛み、少女がそうしろと言わない限りとても立ち上がろうとは思えなかった。
ふと空気に交じる甘い香水の香りを数渡の鼻孔がとらえた。胸に熱いものがこみ上げる。心臓がどきどきした。数渡は眼球だけを動かして少女を見た。ひざ上までの紺色のスカート。そこに収まる美しい脚。滑らかな肌の太もも。新調されたような光沢のある黒い革靴と黒いハイソックス。その奥に見える真っ白い下着。数渡は陰部が硬くなるのを感じた。うつ伏せになっているせいでずきずきと痛む。たまらず下半身を少しだけ動かす。数渡はなるべく少女の下着を見ないように、首を無理に曲げて視線を上へと動かす。七分に折られた白いブラウス。膨らんだ胸部。きれいな首筋。長くまっすぐな亜麻色の髪。高い鼻と柔らかそうな唇。数渡を魅了してやまない端麗な横顔に添えられた黒く澄みきった瞳はまっすぐに石像を見ていた。もう一度視線を落とした時、数渡の視界に再び少女の真っ白い下着が目に入る。数渡の陰部が再び硬くなる。数渡はその時、瞬間的に少女を凌辱してしまいたい衝動にかられた。生まれて初めての感覚だった。自分が今どこにいるとか、彼女が誰なのかとかそんなことはどうでもいい。ただ少女を自分のものにしたいと思った。数渡はごくりとつばを飲み込む。
「行きましょう。」
少女はスッと立ち上がった。少女の一言で数渡は正気に戻った。今しがた沸き起こった自分の感情に羞恥心と罪悪感が沸き起こる。陰部が急激に委縮する。
「行きましょう。」
少女は繰り返していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます