第二章
54 彼女とテスト二週間前
日向という、俺には勿体ないくらいの彼女が出来て、生活が大きく変わるかと思いきやそんな事は無かった。
交際を始めたとしたら、相手との時間を増やしてイチャイチャしたいというのが普通だと思う。
だけど俺たちは、付き合う前から一緒にご飯を食べたり、勉強をしたり、二人で過ごす時間が交際している人達以上に多かった。
明確に「好き」と表現してこなかっただけで、二人とも行動の中に相手に対する想いがあったんだと思う。
そう思うと、恥ずかしいけど嬉しいという表現しがたい気持ちが溢れてくる。
まだ付き合って一週間しか経っていないけれど、今まで以上に彼女を知れている気がして幸せだ。
俺と仲良くなって、一緒に食卓を囲んだ時くらいから日向は幸せそうな顔をするようになったが、ここ最近は常にその顔を俺に見せてくれている。
もうその笑顔を見るだけで、心が暖かくなってずっとずっと幸せにしたいと思うわけですよ。
それなのに。
「はぁ…」
幸せの頂点に居るというのに。
俺は一人、溜め息をついていた。
理由は単純。
夏休みに入る前の、期末試験が控えているのだ。
俺が通っている学校は県で二番目に賢い学校で、テストがとても難しい。
ノー勉で受けようものなら全教科一桁で返ってくるであろう。
まあそれは俺が受けたらの話で、頭が良い奴は少し勉強しただけで平均点以上とかを取ってるけど。悠斗とか。
正直意味が分からない。ばけものだと思う。
授業のスピードが尋常じゃなく速く、高校一年生で高二の内容を終わらせるくらいだから着いていくのもやっとなのに。
「どうしたんですか?葵くん。溜め息なんてついて」
日向が以前ゲームセンターで取ったお揃いのマグカップを持って隣へ腰掛けてきた。
当たり前かのように俺の分を渡してくれるので、マグカップさえ持っていなかったら抱きしめていた所である。
「いや、もうすぐテストがあるだろ?早いうちから勉強しておかないと、赤点で夏休み学校に行かないといけなくなるからさ」
「葵くんと夏休みに一緒に過ごせる時間が減るのは、嫌です…」
日向は少し悲しそうな顔をして、俯いた。
ああもう。彼女が俺と一緒に居たいから、赤点取って欲しくないとか、絶対赤点取れなくなってしまったじゃないか。
まあ赤点を取る気は毛頭ないけれど、今のうちから勉強をしないとなあ。
一緒に居て忘れそうになるけれど、日向は入学した直後に行われたテストで一位を取っている。
本人は「中学校の範囲から出るだけですから、私が賢いという訳ではないですよ」とか言ってるけど、普通に難しかったんですが?
謙虚で優しくて、勉強も運動も料理もなんでも出来る美少女とか、ラブコメのヒロインか。
そうツッコミたくなるくらい、彼女は完璧なのだ。
いや、完璧であろうとしているのかもしれない。
まあ詳しいことは分からないので結論からすると、俺には勿体ないくらいの素敵な彼女ということです。
先程から俺には勿体ない勿体ないと言っているが、不釣り合いであるのは確かだと思う。
だから彼女に見合う男になる第一歩として、テストの結果で学年一位になろうと密かに思っている。
目標の学年一位という座は、そう簡単には手に入らない。
中学校の時は一位が当たり前で、一回だけ二位になって声を上げて泣いたことがあるが、今は二位になったら別の涙を流す気がする。
まあそれでも一位じゃないんだけど。
そんな事を考えていたら、日向は何か思いついたように顔を上げた。
俺をじっと見つめて「私決心しました!」みたいな顔をしてらっしゃる。とても可愛いです。
何を言うんだろう?
「…葵くんのお勉強は、私が見ます!」
どうやら、目標の方から近づいてきてくれたみたいです。
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