第23話 VSゴブリンソードマン

結局最初の曲がり角に戻ってきてしまった。進んではいないが、地図は作れたので全く無駄なわけではない。さらに時間もちょうど良かったことから、一旦最初の広場まで戻って昼食をとることにする。


慎太郎さんが作ってくれたお弁当を食べながら、今後の作戦会議を開始する。。


「とりあえず、右の道は行き止まりってことがわかったね。次は左に曲がるとして、おそらくまだまだ広いと思う。魔王が魔界を広げるために設置しているダンジョンが、そう簡単に攻略できるとは思わないからね。道中レベルを上げながら、今日のところは三時になったら一旦引き返そう。今12時半だから、あと2時間くらいだな。」


「そうですね。取り敢えず今日は中の確認と、次回以降のためのマッピングに集中しましょう」


一ノ瀬さんもそう言ってくれてるし、この調子で頑張っていこう。


その後雑談していると、一ノ瀬さんと内海さんはレベルも上がってステータス強化されてきていると教えてくれた。


かなりのゴブリンを相手にしたし、いいペースだろう。俺とケビンはまだレベルアップまではいかないが、経験値は順調に稼いでいる。


そんなこんなで、腹ごしらえも済ましたし、ダンジョン攻略再開だ。


今回は曲がり角を左へ曲がって、まっすぐ進む。


分かれ道になるまでに必ず魔物たちはいるのか、ゴブリンたちが現れたが、ここも難なく突破。


そのまま進んでいくと、またしても左右に道が分かれていた。ここは決めたように右に曲がろう。


敵はゴブリンだけなので、多少流れ作業のように出てくるゴブリンを倒し、分かれ道を右から順番に曲がっていく。


道中、宝箱を見つけ素材(鉄)が出てきてた。約2kgほどのおそらく純度100%の鉄が現れたので、SPショップで買うとこんな感じになるのだろうかと思った。


その後も魔物はゴブリンしかおらず、途中スキルを使ってくる奴もいてハラハラすることもあったが、特にけがもなく進んでいく。


そうして、曲がり角を左、右、右から二番目、右、左、の順に曲がったところでちょっとした広場があった。


広場に出たのは初めてなので、少し警戒しながら中に入っていく。すると全員が中に入った瞬間に、入口にいきなり壁が出現して、閉じ込められた。


「なんだ!? みんな警戒しろ!」


そう言ってあたりを警戒していると、広場の中央の床がダンジョンの入り口のような裂け目に覆われ、中から魔物たちが現れた。


まるでエレベーターで上がってきたかのように、下からせり上がってきた魔物の数は11体。10体のゴブリンと、そのゴブリンを従えているホブゴブリンだ。


しかし今回のホブゴブリンはちょっと違う。ゴブリンは今まで棍棒しか持っていなかったが、今回のホブゴブリンは剣を装備し、心なしかホブゴブリンよりもシュッとしているように思える。


「剣持ちのホブゴブリン!? みんな警戒してくれ、今までとはちょっと違うぞ!」


剣持ちホブゴブリンを目にし、皆に警戒を促しつつ戦闘態勢に移行する。するとケビンが、


「剣だと俺より坊ちゃんが相手した方がいいかもしれねえ。坊ちゃん、今回は頼みます。残りの雑魚どもは俺たちが始末します。」


と言ってきたので、


「わかった、任せる。」


と言って、皆で一斉にゴブリンたちめがけ突っ込んでいく。


取り巻きのゴブリンたちは5匹、5匹で剣持ちの左右に展開しており、それをそれぞれケビンが右、一ノ瀬さんと内海さんの二人が左を相手するようだ。


上位種と一緒に現れるゴブリンたちは統率されており、若干戦いにくいが、みんななら問題ないだろう。


視界の端に三人をとらえながら、真ん中の剣持ちめがけて俺も突っ込んでいく。


まず最初に牽制で腹部に短剣を突き立てようとしたが、予想よりも早い剣速で切り上げを放たれ、たまらずバックステップで避けた。


ステータスも上がったことで、トップスピードならこちらの方が上だが、奴も自分の間合いの中での動きはかなり早く、警戒が必要のだ。


しかし、しっかりと見れば攻撃を避けられることがわかったので、そのまま攻撃を続行する。


奴の周りを時計回りに回り込み、お得意の背中からの攻撃を仕掛ける。すると、振り向きながらまたしても剣を振り回してきた。だがその動きは観察を元に予測していたので、しゃがむことで回避する。剣を避けた後で立ち上がり、奴の体を短剣で切り裂く。


「【属性付与(毒)】」


毒攻撃のアビリティを使い、攻撃とともに毒を与える。今回使用したのは継続ダメージの毒だ。


すぐさま剣を返して切りかかってきたので、バックステップによる回避を行う。やはり腰の入っていない切り裂きでは傷は浅く、先ほどの攻撃は致命傷には程遠い。


しかし今回の目的である継続ダメージの毒を与えることができたので、この調子でじわじわと弱らせてとどめを刺すことにしよう。


とにかく攻撃の手を緩めないことで、戦いの主導権を譲らない。一歩踏み込み、剣の間合いよりも近い距離で奴の動きをより制限する。


攻撃を受けるとこちらも危ないので、奴の切り上げを、体を倒しながら奴の後ろに抜け出ることで躱し、躱しざまに切りつける。


奴も後ろに周った俺に向かって、剣を振りかぶるので、奴の太ももの内側を思いっきり切りつけてやる。


さすがに筋肉が固く、足を切断するみたいなことはできないが、かなり深く切りつけることができた。これでなかなか踏み込めなくなっただろう。


相手が腕の力だけで強引に剣を振り回してきたので、横に転がりながら回避する。


「ふぅー、さすがに疲れてきたな」


回転から受け身を取って、膝立ちになったところで、奴を観察していた俺の本音が漏れる。


今までの一連の動きは、時間にしてそこまでかかっていないが、連続攻撃なのでほとんど無酸素運動だ。その疲れを癒すために、ここで一度息を整えたい。


しかし相手もそこまで待ってくれない。奴はこちらの息が整わないうちに切りかかってきた。


右の内ももを切り裂かれたせいか、右足の踏み込みが弱いため、奴の右側に重心を置くことによって、こちらの有利な状態を作る。奴の剣が右下から切り上げるのを、左に体を傾けることで躱す。そしてそのまま左から右に切り裂いてくる動きも、しゃがむことで回避する。


今の俺の速度と観察を駆使すれば、このくらいのことは可能になっていた。


しゃがんだことで次の回避が少し難しくなったので、またしても奴の右足に切りかかる。


「【切れ味強化】」


今度は【切れ味強化】のアビリティを使用することで、先ほどよりもより深く切り裂いていく。今度の切り傷は半ば骨まで到達した。


その切り傷にはさすがに堪えたのか、奴は右ひざをついた状態で顔をしかめている。


ここまでくれば勝負はついたも同然と言えよう。立ち上がりながら距離を取り、向かってくる気配がなさそうなので一気にとどめを刺そうと思う。


息を整えた後、奴に向かって思いっきり踏み込み、トップスピードのまま奴の心臓を一突きする為深く踏み込む。だかその瞬間、最後の悪あがきなのか「ギャア」という雄たけびを上げて、杖のようにしていた剣を右手だけで持ち、切りかかってきた。しかもその剣身は赤く光り、スキルを発動していることがわかる。


こちらはすでにトップスピードに達しており、止まることはできない。とっさに攻撃を変更し、心臓を一突きするのではなく、そのまま奴の左下に向けてスライディングする。


間一髪奴の攻撃を回避し、そのまま後ろに抜け出す。その後もうほとんど動くことのできなかなっている奴の首を切り裂き、とどめを刺す。


「危なかったな、一歩間違えば死んでいたのは俺の方だった...」


最後まで気を抜くことはできない。そんな当たり前の事を再確認する。しかし今回は何とか倒すことができた。結果オーライだろう。


その後周りを見渡してみると、ケビンはすでに終わっており、一ノ瀬さんたちも今まさに終わるところだった。


この広場の魔物がすべて倒されたタイミングで入口の壁が消滅し、広場の奥の宝箱に光が灯りアイテムが出現した。


「いきなり閉じ込められたときはどうなるかと思いましたが、何とか生き延びましたね。入口の壁もなくなり、引き返せるようになったみたいですぜ」


ケビンの発言を聞きながら、魔物たちの回収と、ポイントへの交換を行っていく。


交換してわかったのだが、俺が相手にしたのはゴブリンソードマンという、ゴブリンの上位種の剣士のようだ。基本的には剣士型に進化したゴブリンで、初めて見る上位種だったがそこまでの強敵というわけではないみたいだ。


宝箱を見てみると、中には低級ポーションが入っていた。今までのアイテムに比べたら断然使い道があるので、ありがたく回収させてもらう。


宝箱からアイテムを回収すると、後ろに扉が出現した。まだまだダンジョンは続くようだ。


「扉が出てきたけど、どうする?」


みんなに聞くと、一ノ瀬さんが、


「もうすでに時間も2時半を過ぎたくらいなので、今回はここまでにして一度引き返しましょう」


と言ってくれたので、今回の探索はここまでとして一旦引き返すことにする。


帰りの道順も変わっていることはなく、作成した地図通りに帰れた。そして最初の広場に出て、そのまま無事地上に戻ってくることができた。


これで本日のダンジョン探索は無事終了だ。


帰りしなにダンジョンを鑑定したが、成長限界まで402/10000となっていて、成長はしているがまだまだ猶予はありそうだ。


少しイレギュラーな出来事もあったが、結果としては良い探索だったのではないかと思う。

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